第22話 学園

 ステラは、伯爵邸で暮らしていて気づいたことがあった。新しい家族とのコミュニケーションがうまく取れないのだ。


 ステラがエドワードに話しかけると、エドワードは大抵眉間にしわを寄せながら『ああ』『知らん』という返事をしていた。ステラは、自分に話しかけられるのが不愉快だから、エドワードは不機嫌な表情をしているのだと思った。


 ウィリアムはいつもニコニコしているが、話しかけても『そっか』『よかったね』と言って話を流されてしまう。ステラは段々と、その笑顔に冷たいものを感じるようになった。


 メリッサは基本的にステラと会話することはなかった。ステラが話しかけた時は、メリッサはいつも無表情で言葉少なく返事をしていた。そのため、会話はすぐに終わることになった。ステラは、自分と話すのが嫌だから、メリッサは短く会話を終わらせるのだと思った。


 リチャードはいつも目を細めて嬉しそうにステラと会話する。しかし、ステラが何を言っても『いいんじゃないか』と否定しないので、娘が可愛いだけで人格は見ていないのではないかとステラは考えた。


(どうすればいいんだろう……。)


 そんなステラだったが、学園には二ヶ月ほど通ったことで、少しずつ慣れてきていた。


☆★☆


「おはようございます。」

「ステラ、ご機嫌よう。」


 ステラは入り口で学園の友人であるマリアに挨拶をすると、教室に入った。


 マリアはラウザー伯爵家の長女で、ステラが編入した当時、多くを語らず丁寧に学園の案内をしてくれた人だ。

 同級生にたくさん質問をされて疲れていたステラは、彼女の穏やかさにひどく安心したものだった。彼女も真面目なステラとは気が合った為、自然と二人で行動するようになっていた。


 最初の授業は、“冒険者について”だった。冒険者の役割や貴族との関わり、見かけたら逃げるべき危険な魔物など、淡々とした口調で教師は語った。とても分かりやすい授業だった。

 ステラは一言も聞き漏らさないよう、机にかじりついてペンを走らせた。


◇◆◇


 今日の授業も終わり、マリアと別れたステラは、さらに勉強をするために図書館へ向かおうとした。

 その時、曲がり角の向こうから話し声が聞こえ、ステラの足は自然と止まった。


「お母様が噂してたのですが、、元平民なんですって。」

「まあ、意外だわ。妾の子だったのでしょうか?」

「それが、妻のメリッサさんが第二子を妊娠した後、ハワード伯爵がステラさんの母親と恋仲になったらしいわ。ステラさんの母親は妊娠がわかると、ハワード伯爵を捨てて別の街へ行ったみたい。それで、最近になってステラさんの存在を知った伯爵は、我が子として育てることに決めたそうよ。」

「……衝撃的な話ね。ハワード伯爵はなぜ捨てられたんでしょうか。」

「それはね……」


 ステラはそこまで聞くと、きびすを返した。そのまま教室に戻り素早く荷物をまとめ、馬車の待合室にある椅子にと座った。無表情のステラ、その琥珀の瞳からは光が失われ、何の感情も窺い知れない様子であった。

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