◇ちょびとおでかけ

 久しぶりにちょびに会いたくなった梨紗は、侍女が扉を開けた隙間からするりと足元を通ると、屋敷をこっそり抜け出した。


(ちょびさんいるかなー?)


 前にちょびと会った魚屋に向かい、周囲を見渡すも、黒白のもふ猫は見つけることができなかった。


 他のところを探そうと、商店街の路地裏を覗いてみると、強面の人が集まって机を囲んでいた。賭け事をしているようだ。

 梨紗は素早く顔を引っ込め『私は何も見なかった……』と気持ちを切り替えると、屋台通りの方へ歩いて行った。


 屋台通りに行くと、肉を焼いている香ばしい匂いが漂ってきて梨紗のお腹がきゅるーと鳴った。


(美味しそう……じゅるり)


 そう思って歩いていたら、何かをじっと見ている黒白のもふもふな背中を見つけた。

 どうやらちょびのようである。


 ちょびは純粋さをたたえたキラキラした瞳でバゲットのサンドイッチを手に持った一人の冒険者を見ていた。

 冒険者は困った様子でちょびを見ていたが、梨紗が増えたことに気づくとぎょっとした表情に変わった。


「か、勘弁してくれ……」


 ちょびと梨紗が頭を傾けて冒険者を見ていると、冒険者は涙をのんでバゲットの端っこを千切り、ちょびと梨紗に与えた。


(わーい、やったやった!)


 ちょびは嬉しそうにパンくずを食べたので、梨紗も一緒にパンくずを食べた。


(おいしい、おいしい……)


 とうとう二匹が満足するまでバゲットをちぎらされた冒険者は、かなりパンの減ったサンドイッチを物悲しそうに食べながら去っていった。


「にゃー(ちょびさん、久しぶりですね。)」

「ふぁーん(やあやあ、久しぶり。元気してた?)」


 梨紗はちょびとの再会を喜んだが、ちょびは突然何かに気を取られたかのように地面に伏せた。


バッ


(???)


 不思議に思った梨紗が周囲を見渡すと、近くでゴキブリがカサカサ動いていた。


「ふぁんふぁーーん(ぎゃーーー!)」


 ちょびは毛を逆立てると、ゴキブリがいない方向に走っていった。


(ちょびさん、待ってー!)


 梨紗は慌ててちょびを追いかけて行った。

 しばらく走っていると、ちょびは突然上を向いて急停止した。


「カカカッ」


 ちょびが奇妙な声を上げたので、梨紗も上を見上げると、鳥が木に止まっている様子が見て取れた。


(はっ、夕飯のおかず……)


 梨紗がよだれを垂らすと、ちょびはおしりをふりふりして鳥を狙っているようだ。


ばっ!

ふぁんふぁーん


 ちょびがお腹をぽよぽよさせながら走っていくと、鳥は余裕を持ってバサバサと逃げて行った。


「……」


 ちょびはしっぽを下げると、耳ををしょぼんと伏せた。相当落ち込んでいるようである。


(ちょびさん……。)


 梨紗はちょびにかける言葉が見つからなかった。

 しかし、そこでめげるちょびではなかった。

 ちょびは再び違う鳥を見つけると、喜び勇んで追いかけて行った。


 梨紗は、そろそろステラが心配しそうだと考え、屋敷の方向に足を運ぶのだった。

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