第48話 茶色の粉

「それにしてもリョク、無事だったか。」


 ひと段落ついたところである。宿屋に帰ってきたギルがそう言うと、梨紗は「フ……」と自慢げな顔をした。竹林を探索できたことがよっぽど嬉しかったようだ。


「こうして再びリョクと会うことができた。これも何かの運命だろう。」


 ギルが固まった表情筋をぎこちなく動かすと、凶悪な笑みがそこに存在していた。ぐはっ。梨紗は大きなあくびをすることで、少しのダメージをごまかした。


「しかしリョク、勝手な行動は困る……。なるべく、気を付けて欲しい。」


 ギルは不器用にそう伝えると、自然に梨紗の頭を撫でていた。


☆★☆

 こうして、この町で旅の資金大量の赤い実を手に入れたギルと梨紗は、滞在する宿屋から新たな旅に出るための準備をしていた。


「よし、これで荷物も整理できたな。」


 ギルが荷物を持って立ち上がると、一階に降りて、梨紗と二人でチェックアウトの手続きをした。


「猫ちゃん……! お別れなんて、そんな……そんなことって」

「ライン、ギルを忘れているぞ。」


 宿屋の受付のラインが梨紗との別れを惜しんでいると、二人が旅立つと聞いて宿屋にやって来た大剣使いのアスカが、浅緑ライトグリーンの紐で束ねたラインの頭を叩いた。


「感謝する。では。リョク、行こう。」


 ギルが背中を向けると、ハンカチを涙ながらに握りしめるラインが慌てて手を振り、赤髪をなびかせ、笑っているアスカは堂々と手を振った。ギルの肩から振り返った梨紗は、それぞれの個性が出る手の振り方を見て、なぜだかしんみりとしていた。ふわりとしっぽが下がる。


★☆☆

てくてくてく


 宿屋から旅立った二人は、ワイバーンのレイを連れて歩いていた。梨紗は、ギルが途中で買った重そうな紙袋を見上げ、なんだこれはと首をかしげた。


 ギルは茶色く膨らんだ紙袋を片手で持っている。紙袋を持っている方の腕に力が入っており、重そうに見えた。中身がぎっちり詰まっているのだろう。

 不思議な匂いがするその紙袋に、梨紗はそわそわと落ち着かない気持ちだった。


「に゛ゃっ!?」

「ギャッ!?」


 通りすがりの野良猫に気を取られていたギルは、足元の小石に気づかず体勢を崩した。梨紗の目が大きく開く。


ぼふん!


 肩から紙袋の中身をかぶったギルは、全身が茶色い粉に染まる。大きな粉ぼこりが舞う。レイは空高く飛んで行ってしまった。


「粉が……。」


 表情が変わらないギルだったが、肩を落とし、少し落ち込んでいる様子だった。粉まみれになった服をたたきながら道を進むと、しっぽの毛を逆立てた梨紗は、徐々にしっぽを戻していった。


「にゃーん。」


 しばらく歩いていると、通りすがりの野良猫がギルにすり寄ってきた。……これは尋常じんじょうではない。強面こわおもてで筋肉質な男性のギルは猫に嫌われやすい体質であり、以前も猫を撫でようとして威嚇、さらに引っかかれていたところを、梨紗は目撃していた。


「ぎゃーーーー!!」

「ふぎゃーーーー!!!」


 梨紗が唖然としていると、遠くから地鳴りを引き起こす猫の集団が襲い掛かってきた。


「!?」

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猫になったけど、まあいっか。 こと。 @sirokikoto

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