第6話 サムライ、現代からの転生者に出会う【不遜な冒険者パーティー登場】

「リリィ殿にルージュ殿か。槍賀蔵人と申す。来たばかりゆえ、まだこちらのことはあまりよく知らない。以後お見知りおきを」


 二人が目をぱちぱちさせながら互いの顔を見合った。


「なにその言葉遣い?」

「本当に時代劇から抜け出したようなお方ですね」

「うむ?」


 こちらのやり取りを見ていたアルマー殿が噴き出した。


「ハハハ! 色々と話が盛り上がりそうじゃないか。どうせ魔力測定や能力審査が終わらないと、用紙も全部は記載できないから、あんたはギルドを案内してもらえば? 頼んでいいかい、二人とも」

「もちろん。大歓迎だよ」

「私も喜んで」

「かたじけない」


 ちらとメルテル殿に目を向ける。


「わたしはアルマーさんに修道院の場所をお訊きしています。先ほどのお婆様に訊けばよかったんですが、忘れちゃってました」

「……うむ」


 もしかすると、彼女とはここで別れかもしれん。


 ふとそう思った。


 無事に町まで着いた。行く当ても見つかり、ひとまず彼女の旅も終わりだ。共にいる理由はなくなった。


 心に引っかかりを残しながらも、俺はリリィ殿とルージュ殿にギルドを案内してもらった。


◇◇◇


 ギルドには、さまざまな場所があり、まるで城のようだった。訪れる冒険者たちのための寝室や大人数で入れる風呂もある。二人も、仲間たちとここで寝泊まりしているそうだ。


 通り沿いには、三日月亭と言う広い食事処があり夜には酒場となるそうだ。冒険者だけでなく町の人々も利用するらしい。そして、治癒所なる場所もあって、そこには修道院から毎日人が来て、冒険者や町の人々の怪我や病を【聖術】によって治癒しているそうだ。


「最後に、こちらが訓練場になります」

「暇なときは、ここで武器や魔法の特訓をしてるんだよ」


 そこは屋根のない広い場所で、石畳が陽に照らされていた。


「案内感謝する。リリィ殿、ルージュ殿」

「もう! 殿だなんてやめてよ、照れくさいじゃん。リリィって呼んでね、クロちゃん!」

「私のことも、ルージュとお呼びください」

「う、うむ。承知した」


 クロちゃん……。


 リリィは、メルテル殿よりも小柄で華奢な身体つきの娘である。髪は短く青みを帯び、黒々として美しい。瞳も同じように青みを帯びた黒だった。闇に紛れるような服装をしているが、明るい娘のようだ。


 一方のルージュは、俺よりも背が高い妙齢の女人にょにんである。赤い髪と瞳をして、上は赤色で下は白色の衣服だ。肉付きのよい足にぴたりと貼り付いた筒状のはかま(?)のようなものを穿いている。


「ここでソーガさんの能力審査があると思います。転生者としての実力がどれほどのものかを測るのです」

「うむ、承知した」


 頷くこちらを、リリィが目をぱちくりして覗き込む。


「どうかしたね?」

「いや、本当に江戸時代から転生したんだなと思って」

「うむ。俺もまだ信じられんよ。死んで360年あまりが経っているのもそうだが、このような別世界に来ていることも……。まだ夢なのではないかとも思っている」

「そうだね。あたしも最初はそうだったよ」

「出会えるはずのないそなたらと、こうして出会っていることもな。縁とは異なものだ」


 そう言うと、二人は笑った。


「ですが、ソーガさんを過去から転生させるために、まさか光の姫神が犠牲になっていようとは……」

「そうだね。そんなに大変なことになっていたなんて」

「こちらの世界では、まだ知られていないようだな」


 そう言うと、ルージュが心当たりがあるように口を開く。


「ですが、ここ数日、治癒所へ来てくださる修道女さんたちの表情がどこか暗かったですわ」

「きっとそのせいだったんだろうね」

「ええ。神や精霊に親しむ聖職者たちは気づいているのかもしれません」


 世界を守護する神が一人消えると言うことは、想像以上に大きな影響がありそうだ。神の死については、あまり表立って口にするべきではないのかもしれない。ただ、いずれ世界中に知れ渡ることになろう……。

 それに、メルテル殿に伝えぬままでよいのか。心が晴れない。


「教えてほしいのだが、姫神ティアや光の神々から、死から世界を救ってほしいと頼まれた。どういう意味なのかわかるか?」

「死から?」

「魔族との戦のことを言っているのでしょうか?」


 リリィが首を傾げる。ルージュは思い当たる節があるようにそう言った。


「ああ、そんなことを神たちも言っておったな」

「確かにその可能性はあるね。魔族に攻め滅ぼされたら世界が破滅するよ」

「北に魔大陸と言う魔族の地があるのです。ここのところ、そこから南下し、人々が住む各国沿岸に魔族が侵攻していると聞きます。力ある転生者も国境線の防衛などで参加しているとか」

「なるほど」


◇◇◇


 表に戻るとなんだか騒がしい。メルテル殿を若者四人組が囲んでいた。


「頼むぜ、俺たちのパーティーに入ってくれ」

「聖女様がいてくれると助かるんだよね~。ウチらのパーティー、まだ【聖術使い】がいないからさ」

「アタシらこう見えてみんなBランク冒険者なんだよ。リーダーのケントなんてAランク。いずれSランク冒険者になる実力の持ち主なんだから。今の内にアタシらの仲間になっといた方がいいと思うけど?」

「す、すみません……。わたしはまだ聖女としても修行の身で、転生者様たちとダンジョンの探索なんてとても……。【聖術】もまだ未熟ですから」


 メルテル殿は、何やら困った顔をして首を横に振っている。


「何かあったのか?」

「クロード様」


 こちらに気づくと、メルテル殿が表情を和らげた。


「何でもありません。みなさん、シエンナに滞在されている冒険者の方たちみたいですよ」

「ほう」


 男二人に女二人。みな背が高く整った顔立ちだ。


「な~んだ、みんな戻ってたんだ!」

「ソーガさん、この四人が私たちが今パーティーを組んでいる仲間です」

「紹介するね。まずこいつがリーダーのケント」


 リリィが先ほどから黙っている若者を指さしてそう言った。


「メルテルさん、マジで無理っすか? 仲間に入ってくれたら、マジでありがたいし、損はさせませんけど」

「ご、ごめんなさい」

「そっすかぁ……」


 ケントと呼ばれた若者が困ったように笑った。痩せていてスラリとした男である。


「ホラ、もうそのくらいにしときなよ。あんまり、聖女様を困らせたらダメだよ」


 そう言ってアルマー殿が手を叩いた。


「ケント、報告書をちゃんと書いてね。アイテムの換金ができないから」

「はいはーい」


 アルマー殿から紙を受け取ると、ケントと言う若者は、そばの机に座り紙に向かいはじめた。先ほどから一切、こちらを見ない。

 その隣に別の若者が、腕を組んだまま腰を下ろした。じっとこちらを見ている。


「あっ。んで、このでっかいのがユージーンって言うの」


 気を取り直したように、リリィが明るく言った。腕組みをするその男の肩を軽く叩く。


「ねえ、二人とも。新しい転生者だよ、クロちゃん」

「どうも、槍賀蔵人と申す。以後お見知りおきを」


 ケントなる若者は、用紙に書く手を止めぬまま「ほーい」と気の抜けた返事をした。ユージーンなる若者は無言で軽く頭を動かした。


「それから、こちらの二人がロキアンナさんとレイラさんです」


 続いてルージュが女二人を紹介した。


「よろしく」

「えっ? 何その頭?」


 頭を下げると、ロキアンナと呼ばれた女が笑いを含んだ声でそう言った。


「てか、小っさ……」


 レイラなる女も冷めた目でそう続ける。


「てか、メッチャおじさん……。え? いくつ?」

「歳か? 三十五にござる」


 二人が顔を見合わせる。次の瞬間に、声を上げて笑いはじめた。その声に、ケントも思わず顔を上げた。


「三十五歳!? マジもんのおっさんかよ、コイツ!」

「それに、なに、ござるって!? もう色々と追いつかなねぇよ!」

「ちょ、ちょっと。やめなよ、アンナちゃん、レイラちゃん!」

「そうですよ。新しく仲間になられる方なんですから」


 リリィとルージュがそう言った。


「いや、ムリムリムリ! こんなおっさんとパーティー組むとか、マジで無理!」

「てか、顔もなんか変じゃない? なんか……キモッ」

「それに、な~んか臭うしぃ」


 ガタッと椅子を引き、ケントが立ち上がる。


「武器、ダメっすよ」


 こちらは見ないでそう言ってきた。


「む?」

「それ刀ですよね? まだ冒険者になってないのに武器携帯したらダメっす」

「そうなのか? それは知らなかった」

「ふっ」


 ユージーンが鼻で笑う。ケントもため息を漏らした。


「武器、アルマーさんに預けてください。で、訓練場に先行ってもらっていいすか? ギルドマスター呼んでくるんで」

「わ、わかった」


 それだけ言うと、ケントはアルマー殿に用紙を渡し、奥へ行ってしまった。

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