第10話 【ケント視点】ケント、メルテルへの欲望~俺は絶対にお前を手に入れる
少しして槍賀蔵人が戻って来た。リリィとルージュも一緒だ。そして、あの男の隣に聖女のメルテルもいた。それを見て、すぐに俺はメルテルに話しかける。
「メルテルさん、今日って何か予定あります?」
「予定ですか? 治癒所の修道女様たちと修道院へ行こうかと思っていますが……」
「そうなんすか! だったら自分送るんで、途中で町一緒に見て回りません? いろんなお店とか知ってますよ?」
「え? ええと……」
メルテルがあの男をちらりと見た。
さっきは断られたが、俺はメルテルを諦めていない。俺たちパーティーの弱点は、回復役がいないことだ。それによって戦闘のリズムが崩れることもあるし、何より回復アイテム頼みになり、金がいくらあっても足りない。実際、今も俺たちは金策のために依頼をこなす日々にいた。
パーティーメンバーとしても、ぜひ欲しいのだ。それに──。
「ほら。ソーガさん、刀」
「かたじけない」
刀を受け取ると、あの男は慣れた手つきで腰に差した。
「それから、ソーガさん。明日はこの登録用紙を持って領主のお館へ行ってもらうことになるからね。挨拶も兼ねて、明日会いに行っておくれ。リベルト様のサインが貰えれば、晴れてあんたも自由騎士だよ」
「承知した」
そう言うと、アルマーはあの男の転生者登録用紙を板状のホルダーに挟んだ。
「それから、ベッドの準備もしといたからね」
「べっど……?? はて?」
「寝る場所。寝台のことさ」
「ああ、なるほど!」
「今日からギルドの個室を使うといいよ」
「使ってよいのか? 助かり申す」
「いや、ダメでしょ」
素早くユージーンが言葉を差し込んだ。
「まだ正式に冒険者になったわけじゃない」
「いいじゃないか。今からリベルト様のところへ行ってたら夜になっちまうよ」
「いやぁ、ダメだろ」
どうやらユージーンのやつも、あの男が気に食わないらしい。
ユージーンの言葉に、アルマーは腰に手を置いて呆れている。
「あのねぇ、同じ転生者どうし、仲良くおしよ?」
「転生者ねぇ。それも怪しいもんだ。アルマーさんもほら、その登録用紙見てみなよ」
「これは……」
「どう思う? 転生者にしては弱すぎるだろ? こっちの人間の能力値と大差ない。おまけにスキルも魔力もゼロときてる。江戸時代から来たって言うのも、よく考えたら怪しいもんだ。なあ、お前……、本当は転生者じゃないんじゃねぇか?」
ユージーンは男と向き合うと、見下すように見つめた。180cm後半のユージーン、片や163cmしかない男。見た目以上に二人の力量の差は歴然だった。
「えぇ何ソレ、ヤバイ人?」
「やだわぁ、そんなヤツいたら怖くて寝らんねぇよ」
ロキアンナとレイラも肩をすくめてみせる。
……ふっ。いいぞ。もっとやれ。
「ねぇねぇ、なんでそんなに意地悪するの?」
「そうです。では、ソーガさんはどこに泊ればよいのですか?」
リリィとルージュが割って入ってきた。
この二人、イチイチ面倒くせぇ。
この二人とは、別の町で知り合った。前に所属していたパーティーが解散したらしくて、それ以来二人で採集や調査などを中心に活動していたようだ。
魔物との戦いではさほど役に立ちはしないが、リリィは【罠解除】と言うスキルを所持している。ダンジョンや宝箱に仕掛けられたトラップを発見し解除するスキルだ。
ルージュの方も【アイテムボックス】と言うかなり貴重なスキルを持つ。共に俺たち四人にはないスキルだった。
このスキルがあれば、ダンジョン探索をする際に、ほぼ無尽蔵にアイテムを持ち込め、魔物たちの素材やレアアイテムも取りこぼすことなく持ち帰ることができる。
……そして、いざとなれば囮として切り捨てることも。このことは仲間の三人には伝えている。いざという時のリスク管理だ。
リリィとルージュとアルマーが、ロキアンナとレイラとユージーンに向かい合い、重たい空気が場を包む。
それを、あの男が止めた。
「分かり申した」
そう言うと、男はリリィとルージュを見た。
「そう言う決まりならば仕方ないこと。二人を悪者にはしたくない。
そう言って、本当に何とも思っていないように笑ってみせている。
フン。心ん中じゃあ怒り心頭だろ?
男の言葉に、アルマーは怒らせていた表情を和らげた。
「分かったよ……。でも、当てもないんだろ?」
「あの、でしたら……」
そう声を上げたのは、ずっと話を聞いていたメルテルだった。その顔はあの男に向けられていた。
「修道院へ来られませんか? クロード様」
「ほう」
「でも、シエンナは女子修道院だよね? いいの?」
リリィの言葉にメルテルは頷いた。
「修道院には大抵、客人用のお部屋があるのです。おそらくここにも。あ、でも念のために訊いてまいります」
メルテルは俺をチラと見て、「すみません」と小さく言うと奥へと行ってしまった。
話の腰が折られちまったか。
少しして、メルテルは修道女二人と戻って来た。
「大丈夫だそうです。客人用の別棟があり、そこなら男性でも使えると。クロード様、どうされますか?」
尋ねられると、あいつは少し迷っているように見えた。
「……なら、世話になろう」
メルテルがギルドの面々と挨拶をかわし、外に出ようとする。
「行きましょうか、クロード様」
「うむ。皆も世話になった」
…………。
「ダメじゃないっすかー?」
俺の声がみんなの行動を止める。俺はまっすぐ男を見た。
「?」
「刀。まだ冒険者じゃないから持たせちゃダメでしょ? それも、ただでさえ女性しかいない修道院に行くんだし」
お? 流石にイラっとしたな。
「アルマーさん」
俺はわざと男を無視して、アルマーに話しかける。
「アルマーさんって、世界中の人と仲良しなんすか?」
「なんだい、急に?」
「世界中のどんな人とも仲良くなれます? この町の人たちとはどうすか? 町の全員と仲、良いすか? 近い仲だからこそ嫌ってたり憎んでたりする人いないんすか?」
そう言われて、アルマーが困惑した表情を浮かべる。
「さっき、転生者だから転生者どうし仲良くしろって言ってましたけど、おかしいっすよね、その考え。関係ないすよねぇ?」
「フッ……。正論だな」
「「ハイ、論破~」」
ユージーンとロキアンナとレイラが口々にそう言った。俺はあの男に向き直った。
「とは言え、こうやって転生者だってことで一括りにするバカがいるのも事実……。困るんすよね、何かあったら。俺たちだけじゃなくて今後この町に来る転生者も活動しにくくなるんで」
じっと男と目を合わせ続ける。すると、ふっと相手が視線を外した。腰の刀を再び引き抜く。
勝った。
「……仕方ない。アルマー殿、しっかりと隠しておいてくれ。殿から頂いた形見の刀なのだ」
「分かったよ。装備用の倉庫は施錠できるから、そこに置いとくように、レッキオに伝えとくよ」
アルマーは大きくため息を吐くと、刀を受け取った。
あの男は「お待たせした」とメルテルや女たちに頭を下げ、メルテルと並んで歩き出した。
メルテルは金髪に深い紫色の瞳、真っ白な肌の美少女だ。一目見て、俺はコイツに惚れていた。
ただのパーティーメンバーとしてだけじゃなく、女としても、メルテル……。俺は絶対にお前を手に入れる。
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