第9話 【ケント視点】サムライ、追放どころかそもそも仲間に入れてもえない【悲報】

 槍賀そうが蔵人くろうどの能力審査に立ち会ったあと、俺たち四人はギルドのホールへと戻った。


「ねぇ、あのおじさん、マジで江戸時代から来たのかね?」

「さぁ知らねー。別にどうでもいいでしょ、ウチらに関係ないんだしぃ」


 レイラとロキアンナが口々にそう言っている。


 レイラはスキル【タフネス】で防御力を高め、【身体能力強化】で腕力などを倍増させて戦うファイタータイプで肉弾戦を得意とする。


 ロキアンナは大槍で戦うランサーで【土属性魔術】も得意だ。魔法と槍を使い、遠距離からの威力の高い攻撃が持ち味だ。


「ねぇケント。あんなおじさん、仲間になんかしないでよね」

「ホントだよ。マジ無理だからね、ウチら」

「ああ、仲間にするつもりはないよ」


 二人に訊かれて、俺はきっぱりと答えた。


「それよりさ。あの刀って本物なのかな?」


 ユージーンが嬉々として戸棚から、あの男の刀を取り出した。それを見て受付のアルマーが眉を寄せる。


「こらこら、ユージーン。人のもの勝手に取っちゃダメじゃないか」

「いいじゃん、アルマーさん。別に何もしないって。ちょっと興味あるんだよねぇ、サムライの刀って」


 ユージーンは180cm後半の高身長で身体もデカい。見た目同様の筋肉バカで、大剣、大斧、大槌などを振るって前線で活躍する。また機動力は落ちるが大盾を装備させれば鉄壁のディフェンス力を誇る。


 レイラとユージーンが前衛で戦い、ロキアンナが後衛で戦う。頼れる仲間たちなので、俺は後衛や補助に回ることも多い。実際は攻守に優れ【水属性魔術】を操るオールラウンダーなのだが。


 この三人と俺は、ほぼ同時期に異世界に転生し、ずっとパーティーを組んできた。そしていずれSランク冒険者となり、爵位も公爵まで昇り詰める。


「へぇ、これがマジモンの刀か。雰囲気あるじゃん」


 ユージーンがそう言って柄に手をかけた。だが、刀を抜こうとして顔色を変えた。


「ん? なんだ、これ? ふん! ふんっ! ふんんっ!!」

「何やってんの? 早く抜きなよ」

「……っ!? どうなってんだ?? 全然抜けねぇ!」


 ユージーンが顔を赤らめて肩で息をする。


「全く非力だねぇ。ほれ、アタシに貸してみな」


 得意げに刀を受け取るレイラだったが、レイラでも刀は抜けなかった。

 舌打ちすると、今度は【身体能力強化】のスキルを発動させる。これでレイラの腕力は数倍に跳ね上がったはずだ。


「うおぉぉーっ!!」

「ちょっとちょっと、本当に壊しちまうよ」


 全力で刀を抜こうとするレイラを見て、アルマーが慌てた声を上げる。だが、それでも刀は抜けなかった。


「……っはぁ、はぁ。なんだよ、コレ。全然抜けねぇよ」

「貸してみ?」


 俺がそう言うと、レイラがこっちに刀を放る。それを片手で受け取ると、鞘と柄をしっかり握って引き抜こうと試みる。が、やはりびくともしない。


「多分、ロックがかかってるな」

「は? それアイツのスキルで?」

「でも、スキルは持ってなかったよね、あのおっさん」

「そのはずだ」

「調べてみる」


 そう言うと、俺は眼に神経を集中させる。


「【鑑定眼】!」


 俺のスキルのひとつ【鑑定眼】は、既知未知問わず、アイテムの効果や用途、属性などを鑑定することができる。冒険者にとって必須スキルと言っていいだろう。


 俺は【鑑定眼】を発動させて刀を調べた。


 バチンッ──!!


「うっ!!」


 脳裏に激しい火花が散って、思わず刀を落とす。仲間が驚きの声を上げた。


 ッ────テェな!!


「ハハハッ、驚いたぁ~。【鑑定眼】も弾かれた。刀の性能を見せないようにロックが掛けられてる」


 笑いながらそう言うと、三人も笑った。


「鑑定もさせないとか、なんか生意気じゃね?」

「全くだ」

「ケント、大丈夫?」

「ああ、大丈夫」


 ドンッ!


 俺は笑いながら、床をつま先で蹴った。俺に痛みを与え、【鑑定眼】も弾いたあの男に対して、怒りの沸点はとうに超えていた。


「ハハハハ、全然平気」


 ドンッ! ドンッ!


「ムカつくね、あのおじさん」

「だよね。顔もキモイしぃ」

「全くだな」

「いや、でもマジでびっくりしたわ~。まだ、目の裏チカチカしてっから。お~イタ


 ため息一つ吐き、俺は笑って気持ちを切り替えた。


「さ、返しておくれよ、ケント」

「さーせーんっす」


 刀を足で蹴り上げて乱暴に手で掴むと、それをアルマーに渡した。

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