第17話 【薬草採集】サムライ、依頼を受ける【初クエスト】

 翌朝、さっそく受けられる依頼がないかアルマー殿に尋ねる。


「アンタが受けられそうなのは、この二つだね」


 出された依頼文を読んでみる。


***


【薬屋のベラからの依頼】

 毒消しの在庫が少なくなったんで、毒消し草の調達を頼むよ。いつもは自分で採りに行くんだけど、今年の春はまだ寒くて億劫なのさ!

 娘が代わりに行くって言い出してるから早めに頼むよ? この季節、若い娘が森に入るとどうなるか……、分かるだろ? よろしく頼んだよ!


【修道院長ローザからの依頼】

 回復薬ポーション作成のために薬草の採集をお願いしたく依頼します。薬草は修道院の薬草園でも栽培しているのですが、今年は寒冷のためか育ちが悪いようです。

 ポーションは薬用成分と聖術を掛け合わせて作る転生者様にとっても町の皆にとっても大切なアイテム。どうかよろしくお願いします。


***


「ちょうどいいじゃないか。この二つなら同時に受けてもいいんじゃない?」

「薬草の調達だな。うむ、請け負おう」

「薬草は町の周辺の林や野に自生してるからね。けれど今なら町の東門を出たあたりがいいんじゃないかねぇ。春の陽ざしがよく当たるから、今の季節たくさん生えていると思うよ」

「東と言うと、修道院のあたりか」

「そうだね。そのあたりの林にもけっこう自生してるって聞くよ」


 毒消しとポーションなる薬を作る材料を求め、町から出て東に向かう。こうして冒険者としての初めての仕事が始まった。


◇◇◇


「こっちにたくさん生えてるよー!」


 木立の奥から、リリィが手を振った。

 そこへ行くと、一面に花を咲かせた下草が生えていた。鼻にすっと抜ける清涼な香りと甘い匂いが漂っている。


 それを見て、ルージュも胸の前で小さく手を叩いた。


「ここならたくさん摘めそうですわね。ソーガさん、まずはこの辺りの薬草から摘んでいきましょうか?」

「だが、本当に拙者せっしゃについて来てよかったのか? ケントたちにも依頼が来ていたようだが」


 朝、リベルト伯のところの騎士がギルドに来ていたのだ。領主からの直々の依頼を持って来ていて、ケントたちはそっちに出かけた。


「いいんです。領主様からの依頼は魔物の討伐ではありませんでしたから」

「そうそう! それに、こっちの方が危険だよ。森の中だからね」


 リリィが真面目な顔をしてうんうんと頷く。


「もしも魔物が出たら、私たちに任せてくださいね」

「そうそう、クロちゃんは後ろに下がってていいから、安心してね?」

「……うむ」


 普段と違い、リリィは腰ベルトという革の帯に短剣を二本差していた。ダガーと呼ぶ武器らしい。

 ルージュの方は背に矢筒と弓を背負っていた。この世界に来る前も弓道をやっていて、弓術には長けているようだ。


 頼もしいが、思わずため息が出る。武士の身でありながら、このようなうら若き乙女たちに守られる身になろうとはな。


「ま、今この辺りに強そうな魔物の気配はないんだけどね」


 周囲に顔を巡らせて、リリィがそう言った。


 リリィには【罠解除】というスキルのほかに【索敵】というスキルがあるらしい。おおよそではあるが、敵の距離や数を把握できるという。

 このスキルで敵の位置と数を知り、自分の身軽さを利用して相手を攪乱かくらんするのが得意なのだと言う。


「さあ、それでは道具を出しましょうか」

「そう言えば、手ぶらで大丈夫と言っていたが、どうするのだ?」

「ルージュのスキル【アイテムボックス】があれば、手ぶらで大丈夫なんだよ」

「あいてむ、ぼっくす??」


 首を傾げるのを見て、ルージュがくすりと笑う。


「少し離れていてくださいね」


 そう言うと、「【アイテムボックス】」と言葉を発した。と同時に、空間が四角く光り、何もないところから大きな行李こうりのようなものが現れた。


「これがルージュのスキル【アイテムボックス】。亜空間と繋がってて、ほぼ無限に物が出し入れできるんだよ」


 口を開けて驚く俺に、リリィがそう説明した。


 聞くと、アイテムボックスとは道具箱という意味のようだ。艶のある木製の箱で、美しい彫刻が施してあった。


 ルージュが蓋を開ける。興味津々で覗くと、中には何もなく底が水面のように揺れていた。そこに手を突っ込んで、ルージュが三人分の大きな編みかごと小さなはさみを取り出す。


「これも魔法のなせる業なのか……? なんとも不可思議、摩訶不思議。面白き世界よ、エルーテ・ロンド……」


 思わず独り言のようにつぶやく。


「ぷっ」

「ふっ」


 噴き出す音がして、二人に盛大に笑われた。恥ずかしくて顔が火照る。


 集めるべき薬草の種類を教えてもらい、鋏で摘み取っていく。


 そして、どのくらい経った頃か、森の奥から叫び声のようなものが届いた。三人とも同時に顔を上げる。


「なんだ、今のは?」

「女性の、悲鳴のようでしたね」

「ちょっと待って!」


 リリィが立ち上がると、森の奥へと顔を向けた。【索敵】を使って森を食い入るように見つめる。


「あっちだ! 人が三人いる! 小型の魔物に襲われてるみたいだけど、数が多すぎて把握できないよ」

「助けに行きましょう!」

「うむ!」


 立ち上がり共に駆けだそうとしたが二人に止められた。


「クロちゃんはここにいて!」

「なに?」

「ええ。ここの方が安全だと思います。森の奥は別の魔物が出るかもしれませんし!」

「それじゃあね! すぐ戻るよ!」


 素早くそう言うと走っていった。だが、俺はすぐに後を追った。


 侍が遅れを取るわけにはいかん。仮に魔物にやられても、何のことはない。ただ死ぬだけのこと。それよりも、まだ一度も出会っていない魔物とやらを見てみたいという興味もあった。


 姿が見えてきたな。二人のほかに、三人。あの服は修道女か!?


「ひやぁあっ!?」

「うわぁ~! なんだ、コイツら~!?」


 ルージュとリリィの声も届く。戦っているというよりも、何やら騒いでいるような声である。


 木々を走り抜け、その場にたどり着く。その光景に目を疑った。


「こ、これは……!?」

「いやーっ!」

「あぁっ、よしてっ!」

「ク、クロード様……!」

「メルテル殿!?」


 修道女たちが身悶えしていたが、なんとその一人はメルテル殿であった。そしてメルテル殿にも、ほかの四人にも、緑色の小鬼のようなものが女子おなごらの太ももやら尻やら胸やらに張りついていた。

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