第2話 プロローグ~【悲報】サムライ、テンプレを理解できない~神呆れ、女神キレる【すきる? すてぇたす??】

 異世界に旅立つ前に、転生の儀式というものを受けねばならないようだ。


「どんな儀式をするのだ?」

「転生者には、神から様々なスキルやステータスが与えられるのだ」

「すきる? すてぇたす?? なんね、それは?」

「エルーテ・ロンドを生き抜くため、そして、この世界を救ってもらうために我々神が授ける力のことです」


 アクトレイがそう言うと、フロスペクトも頷く。


「エルーテ・ロンドは、美しくも気高き剣と魔法の世界。だが、そなたが生きた世界よりも、過酷な面がある。地底には迷宮があり、あちこちにモンスターもいてな……。あ、モンスターと言うのは魔物のことだ。妖怪あやかしと言えば分かりやすいかの?

 特に今は、魔族と戦をしている時代でもある。魔族とは、鬼のような存在だと思ってもらって構わん。とにかく、転生すると多くの脅威が待ち受けているのだ。そのための対抗手段がスキルなのだ」

「そうね。承知した」

「たとえば【飛翔】というスキルは空を飛べる能力。【全属性魔法習得】は、すべての魔法が習得可能になるスキルです」と、アクトレイが付け加える。

「ふむ」

「あなたがいた世界では幻のような魔法も、ここでは現実的な力として存在しているのですよ」

「ふむ」

「よし! それでは、転生の儀式に移ろうではないか。毎回、腕が鳴るわい!」


 フロスペクトは、手を叩くと楽しげに笑った。


「そなたは、ティアが命を賭して転生させた人間だからな。破格の待遇をさせてもらうぞ。本来、転生者には、それぞれ神一柱から力が与えられるのだが、そなたには、ティアの残した力と合わせて、この儂、光の最高神フロスペクトの力を乗せて授けよう。

 まずは【鑑定眼】と【アイテムボックス】、そして【魔力無限】【空間転移】【経験値獲得100倍】のスキルは標準セットとして、オススメは、【レベルアップボーナス:全ステータス+500】あたりを──」

「いや、よか」

「うん、ん!? えっ、よか?? よかって、必要ってことだね?」

「いや、いらん。よかよ」

「「…………」」


 急に目を丸くして見つめ合う二人。「「いやいやいやいや!!」」と慌てだす。


「き、聞いていましたか、クロードよ。エルーテ・ロンドは、あなたが生きていた世界よりも過酷なのです。山のように大きなモンスターもいるのですよ?」

「もう聞いた。けど、いらんよ」

「どうしてだ? 貰っておけ貰っておけ。タダなのだぞ?」

「借り物の力なぞ一切不要。持て余すだけだ。姫神ティアは、俺が必要で、俺をここへと呼んだ。ならば、俺はこのままでいく。俺が呼ばれたのはそのためのはず」

「し、しかしなあ、クロードよ」

「あ、それなら!」


 アクトレイが、何か思いついたように手を叩いた。


「スキルに使わない分をステータスに上乗せしてはどうでしょう? そうすれば、心身をうんと強化できますよ?」

「おお、それは名案だ。スキル分を変換してステータスに振り分ければ、すべての能力が絶大なものとなるだろう」

「いや、よか」

「よかっ!? スス、ステータス強化も不要だと!?」

「よくわからんけど、いらんよ」

「よくわからんなら、貰おうよ~」


 アクトレイが急に困ったような顔で言ってくる。


「くどい!」

「……弱ったな」

「弱りましたね。何も持たせずに転生させるなど死にに行かせるようなものです」

「あっ……」

「えっ!?」

「ど、どうした? 気が変わったのか? 気が変わったのだな、そうだな?」

「この世界に刀はあるね?」

「うむ、転生して来た者たちによって、刀は知られているし、作られてもいるが」

玉鋼たまはがねから作ることができる刀鍛冶がいるということね?」


 重ねて問うと、二人は互いの顔を見合わせた。


「いや……。そのあたりの詳しい事情は知らんのだ」

「現代日本において、刀は日常では使われておりませんからね。もしかすると、あなたが望むものとは異なるかもしれません」

「そうか……。ならば、この刀を強くしてほしい」


 下げ緒を解き、腰に差していた刀を鞘ごと引き抜く。


「その武器に力を?」

「我が殿、勝茂かつしげ様から頂いた刀、今では大事な形見となった。長く使い続けられるように、刃こぼれや折れたりしないようにしてもらいたい」

「わ、わかった……。ならば、ティアと儂の二神の力を、すべてその刀に注ぎ込もう。刀をこちらへ」


 俺は両手で刀を掲げた。フロスペクトが手をかざすと、刀がまばゆく輝きはじめた。鞘も下げ緒も同じように輝いている。


 光がおさまり、鞘から刀身を引き抜いてみる。特に変わった様子は見られない。


「もうその刀は、ただの刀ではないぞ。神が持つ武器──神器と同等の力が宿っている。用心して使うのだ」

「承知した」


 そっと鞘に刀身を納め、腰に差す。


「ならば、次は容姿と年齢ですね」


 今度は、アクトレイがそう言った。なぜか嬉々として小躍りしている。


「なに?」

「転生する前に、見た目や年齢も変えることができるのですよ? あなたの今の年齢よりも若くし、容姿も眉目秀麗にして、背も伸ばし、もう、うんとイケメンにして送り出しちゃう!」

「いや、よか」

「くっ────!!」


 嬉しそうな顔から一転、女の神は、苦虫を嚙み潰したような顔になった。


「はぁ……。これも、よかか」と、フロスペクトがため息を漏らす。


「い、いいでしょう。ならば最後にレベルです」


 落ち着きを取り戻したアクトレイがそう言った。


「れべる?」

「レベルとは、その者が生きている間に得た成長の証のこと。転生するにあたって転生者には、レベル1から始めてもらっています。ですが、安心してください。生前の成長の度合いは引き継がれます。一から始めるのは、遠回りのように思えますが、この世界の法則に従うことで、より強く成長できますよ」

「なんかわからんけど、よか」

「フッ……、そう来ると、思っていましたよ?」


 アクトレイの、その笑顔は怖かった。


「わかりました。それでは最後に、当然ながらエルーテ・ロンドの言葉は、あなたが知るものとは異なります。言語理解能力を与え転生の儀式は終わりです」

「よか──」

「いいえっ! これだけは絶対に授けさせてもらいますからね! と言うか自動付与ですから!!」

「う、うむ」


 よかろうと言おうとしたのに……。


「あなたが転生する場所は、シエンナという町にほど近い森の中です。シエンナは辺境にある小さな町ですが、冒険の始まりにはうってつけの場所でしょう。まずは、その町の冒険者ギルドへと向かってください」

「ソーガ・クロード、ティアが命を懸けて転生させたサムライよ。この世界を頼んだぞ」


 俺は二人に向かって頷くと、姫神ティアの椅子を見つめる。

 やがて自分の身体がまばゆい光を放ち始めて目がかすんでいった。


 こうして俺は、異世界エルーテ・ロンドへと転生した。

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