第4話 雇ってもらえませんか?
王都ブルーリアは王城を中心に、四区画に分かれている。東西南北に分かれていて、それぞれの区画にギルドは設置されていた。
一番近かったのは、南区画にあるギルドだ。大通りに面した三階建ての建物の一階にギルドの受付が設置されている。
恐る恐る扉をあけると正面に受付があって、若い女性が他の冒険者の対応をしていた。
冒険者のうしろに並んで、大人しく順番を待つ。
「お待たせしました、次の方どうぞ!」
「あの、初めて来たのですが、冒険者か護衛の仕事をしたくて……」
「初めての方ですね、かしこまりました! まずは登録が必要になりますので、こちらにご記入ください。記入が終わりましたら、実力検査があります」
「わかりました」
もらった用紙には名前、性別、活動地域、魔法適性とあった。苗字は使いたくないので、名前だけ記入する。活動地域は国内ならどこでも良かった。魔法適性は召喚魔法と書いておく。
……わかってもらえるといいんだけど。
「ご記入ありがとうございます。えーとレオさんですね。……あの、召喚魔法って何ですか? 申し訳ないですが、初めて聞いた言葉でして……」
「いえ、珍しい魔法なので仕方ないです。ええと、簡単に言うと精霊を呼び出す魔法です」
「へ? 精霊?」
「見てもらった方がわかりやすいです」
そう言って俺は、今度はランクを下げて召喚魔法を披露した。
【スピリット召喚、火の精霊】
出てきたのはワインボトルくらいの大きさの、赤い光を放つ精霊だ。可愛らしい少女の姿で、俺の周りを飛び回っている。
「ヒッ!! ギ、ギルド長————!!」
受付の女性は慌てふためいて、逃げていった。代わりに白髪混じりのガタイのいい男性がやってきた。
「おかしなモン出したのは、お前か!?」
「おかしな物ではなくて、火の精霊です」
「っっ!! お前! 何だ、それは!? そんな魔力の塊は見たことねえぞ!!」
おお、さすがギルド長と呼ばれる人だ。精霊の魔力がわかるんだ。この人ならわかってくれるかも知れない。
「そんなモンはいらねえから、魔法を見せろ!!」
「魔法は……これ以外使えません」
「なに? 他の魔法が使えないって、どういうことだ?」
「俺が使えるのは、この召喚魔法だけです」
「お前……まさか
やっぱりダメか。そこに会話が進まないように、頑張ってみたんだけどな。
「……そう呼ばれてました」
「ふざけんな!! そんな奴が冒険者の登録できるわけないだろ! しかもおかしなモン呼び出しやがって!! 俺たちまで呪われたらどうすんだ!? 今すぐ出て行け!!」
本日二度目の出て行けを喰らってしまった。
困ったことに冒険者や護衛の仕事をするのは、どうやら無理みたいだ。俺は素直にギルドからでて行った。
こうなると、どんな仕事をしたらいいのか悩んでしまう。大抵のことは召喚魔法で何とかなると思うけど、まずは理解を得なければ難しいみたいだ。
ふと顔を上げると、ギルドの正面にあるカフェテリアに『アルバイト募集!!』の張り紙を見つけた。
「とりあえず、手当たり次第に頼んでみるか」
店には若い女性客が多く入っている。募集要項は十五歳から二十五歳までの健康な男性。週休二日は保証してくれるようだ。
俺は案内係の若い男性店員に声をかけた。
「あの……アルバイト募集の張り紙みたんですけど……」
「ああ、そうなんですね! 今店長呼んできます、少しお待ちください」
五分ほど待っていると、厨房の奥からさわかなイケメンの青年が出てきた。
「君がウエイター希望の子?」
「はい、あの働くのが初めてなんですが、大丈夫ですか?」
「はは、そこは問題ないよ。ちゃんと教えるから。じゃぁ、面接するからついてきてくれる?」
店長のあとについていくと、厨房の奥にある小部屋に通された。手前には小さめの机があり、奥にはソファーが置かれている。
店長は机とセットの椅子に座り、俺は奥のソファーに座るよう促された。
「それでは、名前と年齢を教えてくれる?」
「レオと言います。十七歳です」
「レオ君ね。年齢は問題ないね。週にどれくらい働ける?」
店長はメモを取りながら、俺に質問を投げかける。
「いくらでも働けます」
「ははは、やる気あるね。頼もしいよ」
朗らかに笑う店長を見ると、感触は悪くないように思う。このまま決まれば、全力で働くつもりだ。
「得意な魔法属性は? あ、これは属性によって配置変えるから聞いてるんだ」
来た、この質問だ。ギルドでは面倒なことになったから、最初から正直に話す。
「……魔法は使えませんが、精霊の召喚はできます」
「魔法が使えないって……え、まさか
「…………はい」
「はぁ、悪いんだけど、ウチは客商売だから……そういう人は雇えないんだ」
「裏方でも何でもしますから、雇ってもらえませんか?」
「だから!
さっきまでの笑顔は消え去り、苦虫を噛み潰したような表情の店長から追い出された。
俺はその後も手当たり次第、雇ってもらえないかとお願いしてみる。
だけど結果は全敗だった。
正直に魔法は使えないと話すと、
召喚魔法が使えると言うと、見せてくれと言われて、披露するとおかしな物を呼び出したと逃げられる。そしてさらに
エレメント召喚も試したし、色々な属性も試したけど同じ反応をされてしまった。
結局すべて追い出されて終わったのだ。
王都なら働けると思ったけど……甘かった。どこも雇ってくれない。さすがに雇ってもらえないとは思わなかった。
魔法学園や侯爵家だけじゃなく、この街にすら居場所がなかった。
今までの
お先真っ暗なうえリアルに日も暮れて、身も心も闇に包まれていく。
この街にも居場所がないなら、いっそ外の世界に出てみるか?
誰もいないところまで行けば、召喚魔法を使っても何も言われない。魔物を倒せば食料にもなる。本で読んだけど、そんなレシピがあった。
例えば森なら薬草も取れるし、運が良ければ果実も手に入る。考えれば考えるほどベストな案だと思えた。
この辺りの大きめの森といえば、東にある迷彩の森だ。
もう夜だけど、この街にいても仕方ないし迷彩の森に行こう。
そこで召喚魔法を使いまくって、生き延びるんだ。
これから俺は、ひとりで生きていくことを決めた。
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