第11話 情報源はどこなの?
どうしましょう。
さっきレオが『シェリル様以外はどうでもいい。一ミリも興味ない』って言ってたけど、聞き間違いではないわよね?
つまり、それだけ私を大切に思ってくれている……ということなのかしら? それは、もしかして、もしかすると、もしかしなくても、す、す、す、好きということ……!?
あ、ダメだわ。ちょっと心臓が激しく鼓動して、全身から汗が吹き出してきたわ……!! 私をこんな風にしてるのに……レオは平常通りなんて、ズルいわ!!
……平常通り? そうね、レオはいつも通りね。とても愛の告白をした後には見えないわね。
え、嫌だわ! 私、また勘違いしてしまったの!? す、すぐに気づいてよかった……!!
以上が、謁見の間から用意された客室に向かうまでに、シェリルの脳内を駆け巡っていた内容だ。
レオは確実にいい仕事をしていた。
***
案内係が言うには、王城の客室でも一番グレードの高い部屋に、シェリル様と俺は案内された。
部屋に入ると高級感のある落ち着いた家具やソファーが並び、奥にある扉を開けるとそこがベッドルームになっている。
浴室も完備されていて、快適に過ごせそうだ。
「シェリル様。いつものように俺がお傍から離れるときは、精霊王を置いていきます」
「ええ。それでいいわ、お願いね」
シェリル様の護衛をするにあたって、お願いされたことがある。
一、食事は一緒に取ること。
二、俺もちゃんと休むこと。
三、今まで通りに接すること。
この三点だ。精霊王たちに協力してもらえば一と二は問題ない。無理をして身体を壊せば護衛どころではないので、ありがたい話だ。三についても、護衛としてわきまえて接したら悲しい顔をされてしまって、追加された項目だった。
「それよりも、レオ。貴方の話を聞きたいわ。……人間の国でどんな扱いを受けてきたの?」
「……黙っていてすみません。少し長くなりますがよろしいですか?」
「もちろんよ。詳しく聞かせてほしいわ」
俺は魔法学園に入学してからの事を、簡単にまとめながらシェリル様に話した。
魔法属性がないと言われ、魔法学園では独学で召喚魔法を取得したこと。召喚魔法をみせたら悪霊と呼ばれ、最終学年で退学になったこと。そして侯爵家からも身ひとつで追放されたこと。
……うん、なかなかの人生だ。そして今の俺は幸せすぎる。
「…………そう。そうだったのね。とても辛い思いをしてきたのね」
「今はシェリル様がいるから平気です」
「そうよ。私の専属護衛として雇ったのだから、レオも幸せになってもらわなくては困るわ。でも、こんなに無知な種族だなんて……これでは取引したところで、エルフの生薬を正しく扱えないわね」
シェリル様は次期王女になるための試練で、様々な課題をこなさなくてはならなかった。今回の第一の試練は、人間と取引をしてエルフの国を豊かにするというものだった。
人間はひ弱な種族であったけど、金を稼ぐのは他のどの種族よりも上手いので貨幣が潤沢だ。今後の他種族との交易のため、その貨幣を取り入れるのが目的だった。
エルフの国にある薬草や生薬は別格で効果が高いので、少量でもいい価格で取引ができそうだ。今回は日持ちする生薬に絞って話を進める予定だった。
ただ、扱いが悪いと効果が半減するので、ある程度の魔法や薬草に関する正しい知識が必要になる。無知なままでは扱えないのだ。
「レオ、他の街も同じなの?」
「そうですね、概ね似たようなものかと。常識にとらわれず、学ぶ意欲のある者でないと難しいと思います」
「そう……しばらくは人材発掘ね」
***
翌日の午後、魔法や薬草に詳しい高官や士官たちが集められ、城の会議室を埋めていた。
別室でひとりずつ面談をしていく。俺は光華王ルキスを召喚したまま、シェリル様の後ろに立った。
「まさか!? 召喚魔法など初めて聞きました。ソ、ソレは間違いなく悪霊です!!」
「ひいい!! あ、悪霊!!」
「やはり呪いです! そんな恐ろしいもの、魔法なわけがない!」
「き、君はグライス家の嫡男だろう! そんな悪霊を呼び出してはお父上が悲しむぞ!」
いや、一番平和そうな精霊王を選んだんだけど……それでも悪霊呼ばわりか。常識にとらわれたままのコイツらじゃ、話にならない。
召喚魔法の説明をして、実際に目の前で見せても信じるものがいなかった。
あ、ヤバい。今日もシェリル様がお怒りだ。
面談が全て終わったタイミングで、プルプル震えていたシェリル様が無言で待合室である会議室へと向かって行った。
そして勢いよく扉を開けて、一歩踏み込む。結果待ちのため、面談を受けた全員が揃っていた。
護衛の俺も当然あとを追って部屋に入ると、ルキスを見た士官たちが騒ぎ出した。あちこちから叫び声が聞こえてくる。
ああ、ルキスを呼びっぱなしだったな……とのんきに構えてたら、シェリル様が極々小さな声で呟いた。
「大地の精霊よ。我の願いは静寂な時」
すると床から勢いよく棘のある
ムチのように柔らかくしなり、あっという間に悲鳴をあげている士官たちを縛り上げ物理的に口を塞いだ。棘が痛そうだが、唸り声しかでてこない。
一瞬にして待合室は静寂に包まれる。
「貴方たちに魔法の知識を授けているのは、どこなの?」
恐怖に包まれた待合室で、口を開くものはいない。いや、物理的に無理だった。俺はそっとシェリル様の耳元で囁く。
「シェリル様……全員の口を塞いでいては話せません」
ハッとしたシェリル様が小声でボソボソと呟くと、士官たちを縛り上げていた
「よく聞きなさい。私の専属護衛であるレオは、ここにいる誰よりも優秀よ。今後レオを侮辱するのは私が許さないわ! それで、どこなの? 魔法の知識を発信しているのは、情報源はどこなの?」
「はっ……魔法、のことなら……国立魔法……研究所……です」
「そう、乱暴にして悪かったわ。少し感情が昂ってしまったの」
「い……いえ」
「ここにいる全員とは取引しません。結果は以上です。解散してください」
何とか口を開いた士官は、ガタガタ震えていた。他の士官たちも顔色が悪い。そんな士官たちは一切無視して、ギラついた瞳のシェリル様は次の目的地を決めた。
「レオ。国立魔法研究所に行くわよ。腐った根から直すわ」
「……あんまり暴れないでくださいね」
「何を言っているの、暴れるのはレオよ」
「…………え、俺?」
そして何かを企むシェリル様と、国立魔法研究所に向かったのだ。
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