第49話 番外編③-4

「そうか……コイツが邪竜か。俺のシェリルをさらう事件を起こした元凶だな。コイツもるか」



 ここにいるのは妻を溺愛してやまない、世界最強の召喚士だ。それこそ、精霊大王ティターニアまで召喚に成功したのだ。


 邪竜にしてみれば、相手が悪かった。


「えっ、レオ? 本気? だって、邪竜よ? あのヴァルハラだって封印がやっとだったと聞いてるわ」


「そうか、それならヴァルハラを超えるだけだ。シェリルは怖い思いをしただろう? 少し待っててくれる? すぐに終わらせるから」


「え、ええ」


(え、待って! そんなとろけるような顔で言われたから思わず頷いちゃったけど、その辺の魔物倒すみたいに軽く言ってしまうの!?)



 シェリルが反論する前にクリタスを呼んで、シルヴァとアリエルのいる王城に送った。帰りに寄って一緒にエルフの国に帰ればいい。

 いまはシェリルを一瞬もひとりにしたくない。


【精霊王たちよ】


 俺の呼びかけで、残党狩りをしていた他の精霊王が姿をあらわす。


【精霊大王ティターニア】


 ためしに呼んでみたら、なんとティターニアも出てきてくれた。

 やはりいつのまにか召喚契約できていたようだ。


『レオ、だから、お前の呼び出しには逆らえないのよ。今度はどうしたの?』


「ああ、邪竜の復活だから力を貸してくれ」


『……はぁ、それなら仕方ないね』


 邪竜と聞いて納得してくれたのか、ティターニアはため息をひとつついて足元の赤く光る魔法陣に視線を落とした。



『せ、精霊大王様!?』

『うそー! レオすごいね☆』

『規格外だとは思っておったが、ここまでとは……』

『やはり加護を受けた時からか』

『ボクはレオならやると思ってたよ』

『ふふふ、私たちのレオはさすがね』

『あら、これなら邪竜も瞬殺じゃない?』


 精霊王たちはティターニアの登場に驚いていたが、まぁ、いつもの調子だから問題ないだろう。残党も邪竜が復活すれば生きてはいられない。生き残ったとしても、俺が逃さないけど。



『というか、あそこに転がってるのはレオがやったの?』


 ティターニアが分解された男をみて、眉根を寄せている。何か気に入らない事があったか?


「シェリルに手を出そうとしてたからな。これでも手加減したんだ」


『……あの玉眼は生贄の証で、ここで血を流したから邪竜が復活することになったのよ。大方あの生贄も邪竜に騙されて、上手いこと使われてたんでしょうけど』


 何? それじゃぁ、この状況は俺が原因だな。ヤバい、シェリルに怒られる。いや、邪竜を倒せば誤魔化せるか?


『シェリルが連れてこられたなら、邪竜は自分の妻にするつもりだったのかしらね?』


 この一言で、多分、邪竜を一撃で殺せるくらいの魔力がみなぎったと思う。


 いよいよ邪竜が復活するようだ。

 足元の魔法陣にいく筋ものヒビが入り、邪竜の禍々しい魔力が漏れ出している。



『お前たち。全力でいくよ』


『精霊大王様、かしこまりました』 



 床が崩れ落ち、邪竜の漆黒の巨体があらわれた。背中にはびっちりと鋭い棘がはえて、皮膚は光沢のある鱗で覆われている。

 紅く光る瞳は萌えるように光り、俺を睨みつけた。



《ククク……ついに封印を解いたぞ……我はディメント! 世界の真の王になるのだ!!》



「そうか。だが、そんなのはどうでもいい。お前シェリルを妻にするつもりだったのか?」


《なんだ貴様は? たかだか人間風情がおこがましいぞ!!》


「答えろ。エルフの女王をなぜここに連れてこさせた?」


《だから、それがなんだというのだ! 我の妻にするなら一番高貴な血の者に決まっているであろう!!》


 この答えが残りわずかな己の寿命を、さらに縮めたことに邪竜は気づいていない。それを理解していたのは、精霊王たちとティターニアだった。




「そうか。それならここで死ね」




 レオの紫の瞳が光り、身体から膨大な魔力があふれ出す。ゼウスの魔力と自分の魔力を混ぜ合わせ、爆発的なエネルギーへと変換していった。


『このままだと周りにも余波が行くね。お前たち、私に力を貸しなさい。結界を張るから補強するのよ』


 ティターニアの言葉に精霊王たちは己の力を解放する。精霊大王の張った結界の強化にありったけの力を注ぎ込んだ。




神の逆鱗インペリアル・ラス




 雷轟刀から放たれた一撃は、邪竜神殿の天から降り注ぐ。

 レオの激情をあらわすような紫雷の柱が、邪竜神殿を飲み込んだ。




     ***




「え……シェリル女王!?」


 問答無用でレオに転移させられて、私は怒りに震えていた。

 約束したのに。

 もうひとりで戦わないと、私を置いていかないと約束したのに。


 何もできない自分が悔しくて悔しくて、涙がこぼれそうになる。

 声をかけてきたシルヴァンス国王を八つ当たり気味に睨みつける。


「レオが邪竜の討伐をしています」


 見渡せば何故だか他国の国王たちも揃っていて、世界会議が今にも開ける状態だった。



「「「「はあああ!? 邪竜の討伐ぅぅぅ!?!?」」」」



 キレイに声が揃ったわね。この方たち、意外と気が合うのかしら?

 この様子がおかしくて、気持ちが少し落ち着いてきた。


「ええ、私は邪竜復活の生贄にされそうになっていたの。それをレオが助けに来てくれて……もしかして、ご存知だったかしら?」


「そうだね、その件で集まっていたから。でも、シェリル女王が無事で本当に……本っっっっ当によかったよ」


 シルヴァンス国王の言葉に国王たちは力強く頷いている。本当に今日は皆さんの息が揃っていらっしゃるわ。


「そうね、ギリギリのところでレオが来てくれて……」


「ところでシェリル女王、本当にお体はご無事ですかな?」

「怪我などはありませんか?」

「そうですね、まずは医者の手配をいたしましょう」


 そう言われて私はシルヴァンスの手配する、王家直属の医師に診てもらうことになった。


 レオが戻ってきたのは、それから一時間後のことだ。




     ***




「シルヴァ、今戻った」


 邪竜討伐が完了し、俺はすぐにジオルド王国に戻った。シェリルの様子が気になって仕方なかったんだ。

 俺を見たシルヴァは、目がこぼれ落ちそうなほど見開いている。


「はあ!? レオ、もう終わったのか!?!?」


 シルヴァにしては珍しく感情を隠せていない。


「なんと! まだ一時間ほどしか経っておらんぞ!?」

「まさか、ここまで速いとは……」

「し、信じられん……本当に邪竜はいなくなったのか?」


 シルヴァの後ろには国王たちもいて、俺が出発した後も残っていたようだ。それよりも俺は妻に会いたい。


「シェリルは来てるよな?」


「あ、ああ今は身体に障りがないか、医師の診察を受けている」


「そうか……それならよかった」


 医師が見てくれるなら、何も問題ないだろう。

 そこで念のため伝えておくかと、邪竜神殿の話をした。


「あ、そうだ。邪竜神殿のあった場所だけど、神殿ごと消し飛んで穴が空いてるから、もし調査に行くなら気をつけてくれ」


「は? 穴って……?」


「いや、ブチ切れて思いっきりやったら、底が見えないくらい大穴が開いちゃって……マズかったか?」


 シルヴァの顔が苦笑いになる。どこか諦めたような表情なのは気のせいか。


「いや、いいよ。邪竜が滅亡したなら、それでいい」



 そこへシェリルの診察終えた医師がシルヴァに報告にやってきて、そっと耳打ちする。フワリと笑ったシルヴァは、すぐにシェリルに会いに行けと俺の背中を押した。




     ***




「皆様、どうやら世界の危機は回避できそうです」


 レオがシェリルの部屋にむかったあと、シルヴァンス国王の言葉に会議室は一瞬静寂に包まれた。


「私の口からはこれ以上言えませんが、本人たちからの発表をお待ちください」


 国王たちはシルヴァンス国王の言いたいことを理解した。


「何……? それは誠か?」

「まさか、本当に……!?」

「おお、神よ! 精霊大王ティターニアよ! 感謝いたします!!」


 このあと、しばらく会議室は喝采に包まれた。




 なお、レオの開けた邪竜神殿の大穴は、エルフの女王に手を出した者の末路として解放された。

 安全対策を十分に取った上で、観光地として周知したことで後世に広く伝わっている。


 この件があってから各国での小さな争いもなくなり、それから千年の間世界は平和だった。




     ***




 俺はノックしてから、そっとシェリルが休んでいる部屋の扉を開ける。


「シェリル……?」


「レオ? え、もう討伐してきたの!?」


 背中にクッション入れて体を起こしていたシェリルは、驚いてさらに前のめりになっていた。

 ベッドにそっと腰を下ろし、シェリルの頬に触れる。

 

 そして軽く触れるだけのキスをした。これ以上求めたら、止められる自信がないからだ。


「レオ、あのね……あのね、妊娠してるって……言われたの」


「うん、そうだと思った」


 大きく開かれる翡翠の瞳を、あふれてくる感情のまま愛おしげに見つめた。


「え……わかっていたの……?」


「うん。最初は邪竜神殿で遠くにいるシェリルの声が聞こえたんだ。次に気配を探った時に、小さな精霊大王の加護の気配を感じたんだ。はっきりわかったのは、腕輪を壊した時だ」



 何故そんな事ができたのか?


 シェリルの声を俺に届けたのは、誰だったのか?

 古代の腕輪で封じられていたのに、シェリルの居場所がわかったのは?

 あの小さな小さな愛しい気配は————?


 俺とシェリルをつなぐ、生命だからできたのではないか?



「だから、強制的にここに送ったんだ。約束破ってごめん」


「もう、そんな風に言われたら怒れないわ」


「それはよかった。シェリル、抱きしめてもいい?」


「ふふ、もちろんよ。ギュッってして?」



 そっと新しい生命を宿したシェリルを抱きしめた。


 愛してる以外の言葉があるなら知りたい。

 愛してるだけじゃ、この気持ちを伝えられない。

 でも、その言葉しか知らないから、全身で愛を伝えよう。



「これからは、シェリルとこの子がいる世界を守るよ」


「私もよ。レオと、この子の未来を守るわ」




「「愛してる」」




 思い出していたのは、初めてシェリルを抱いた日の翌朝。

 あの幸福に包まれた時間だ。

 


 狂おしいほどの愛で君を守るよ。

 君以外は何もいらない。

 俺の全てを君にあげるから。


 愛してる。ただひとり、シェリルだけを。



 ————そして、これからは。


 シェリルとまだ見ぬ我が子への、永遠の愛と忠誠を誓うよ。





✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎✢︎


本当はここで完結の予定でしたが、大変嬉しいご要望をいただきましたので番外編のみ続けていこうと思います。

時系列がぐちゃぐちゃになって申し訳ないですが、なるべく皆さんが理解しやすいように書くつもりなので、暖かく受け止めていただけるとありがたいです。


また次話からはカクヨム限定公開となります。

レオとシェリルのイチャラブのみになりますがw

機会があればシルヴァたちも出したいと思います。


新作執筆中のため、今後の更新は週に一回となります。大きく変更がありましたら近況ノートでお知らせいたします。


更新頻度が落ちますので、作品や作者でフォローしていただくと続きを読む際にスムーズです。

すでにフォローや★★★での評価されてる皆様には感謝感謝でございます(T ^ T)


少しでも皆さんに楽しんでもらえるよう精進いたしますので、今後も応援よろしくお願いします<(_"_)>ペコッ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る