第17話 面倒だから、まとめてかかってこい

 その日の授業終了後、学園長と教師たちには魔法の練習場に集まってもらった。暴れるなら、ここが最適だ。


「シェリル王女、これで全員揃いました。それで話というのはどういったものでしょうか?」



「……貴方たちは召喚魔法というものをご存知ですか?」



「召喚……魔法?」

「そんなのは聞いたことないな……」

「エルフの王女様が言うのだから、何かの属性じゃないのか?」

「いや、そんなわけないだろう。属性は解明されてるはずだ」


 教師たちはザワザワと話しているだけで、一向に返事が返ってこない。


「これが召喚魔法です。レオ、お願い」


 シェリル様の指示で召喚魔法を使う。そうだな、せっかくだからあの時と同じにしてやろうか。


【イグニス】


 燃えさかる炎をまといながら、炎獄王イグニスが姿をあらわした。


『うげっ! レオ、大丈夫?』


 イグニスが以前の事を思い出して心配してくれて、心が温かくなる。俺は穏やかに微笑んで答た。


「問題ないよ」



「あ……あれは!」

「学園長! あの時の悪霊です!」

「そんなバカな! あれは魔法ではなく悪霊だろ!?」

「あの恐ろしいものが魔法だって!? ありえない!!」


「……先生方は何を根拠に悪霊とおっしゃているのですか?」


 シルヴァンス王子の、低く冷たい声が練習場に通る。教師たちはピタリと話すのを止めた。


「私も先日聞いたばかりですが、これは魔法の一種です。悪霊だとわめく時点で、己の無知をさらしていると気づきませんか?」


「だが、あの生徒は魔法が使えない呪われた存在カース・レイドだぞ!?」

「魔法の適性なんてなかったんだ!」

「そうだ! 適性がないのだから魔法ではなく悪霊だろう!?」


 今度はシェリル様が突き刺すような覇気を放って、教師たちを黙らせる。


「適性? それなら、私も貴方たちが使うような魔法は使えません。精霊魔法の適性しかありませんから」


「なっ! そんな、バカな!」

「だってエルフ様だろ? 魔法が使えないのか……?」

「いや、エルフの一族は精霊魔法が使えるから……」


 教師たちの声音はショボショボと小さくなって、最後の方はよく聞こえなかった。


「それではこうしましょうか。あれが悪霊だというのなら、先生方で退治してください」


 それはもういい笑顔でシルヴァンス王子がいい放つ。さては、ずっと俺にけし掛けたくてウズウズしてたな。教師たちも絶句してるじゃないか。


「悪霊なら危険ですよね? シェリル様を危険から守り目を覚まさせたとなれば、きっと父からも褒賞がでることでしょう」


 褒賞という言葉に、学園長をはじめとした教師たちの目の色が変わる。エルフの王女様を救った褒賞となれば、それなりのものだろう。それぞれが己の欲しいものを思い浮かべていた。欲にまみれた顔は醜いものだ。


「よかろう、では我々が責任もって悪霊を退治しようではないか」


「さすが学園長、素晴らしい決断力ですね。ですが、もし退治できなかった時は……彼が召喚魔法を使っているということになります」


「なっ!? 何故そうなるのですか!?」


「シェリル王女から、召喚魔法は精霊魔法と同じくらい強力であると聞きました。ですから、もし先生方の魔法でも退治できなければ、強力な召喚魔法だということになります。まぁ、問題ないですよね?」


「う……うむ、問題ない。よいな、全員であの悪霊を倒すのだ!」


「「「はい!」」」


 これで準備は整った。さて、どれだけ暴れてやろうか。




     ***




 練習場には俺と学園長をはじめとした教師たち、そしてその周りを取り囲む観客席には寮生たちが集まっていた。

 周囲には魔法の被害が及ばないように、強力な結界が張られているので見学しても何ら問題ない。


 もちろんあの王子の差金だ。シルヴァンス王子の狙いは、むしろこの生徒たちだ。今後この国を担っていく生徒たちの目を覚まさせたかったのだ。


「それでは、始めてください」


 観客席に移動したシルヴァンス王子が開戦の言葉を放った。シェリル様は王子の隣に座って、余裕気に見下ろしてる。

 ……これはご期待に応えないといけないな。


「では、私から行きます」


 一番手は水魔法の得意なヤツだ。炎属性の弱点だから自信満々だ。ここの教師たちは、ハロルドさんには及ばないが魔法の腕は悪くない。


「タイダルウェーブ!!」


 眼鏡をかけた教師は、渾身力を込めて上級魔法を放ってくる。


「イグニス、少し派手にやってくれ」


『りょうかーい☆』


 イグニスはフワリの俺の前に出て、指先に炎を灯した。そして左から右へと弧を描くように指を振る。


紅蓮の波レッド・ウェーブ


 その言葉とともに灼熱の炎の波が、押し寄せる荒波を飲み込んだ。炎は衰えることなく、飲み込まれた荒波は霧になって消えていく。

 いとも簡単に弱点属性の魔法を飲み込んだイグニスの攻撃に、練習場は静まり返った。



「面倒だから、まとめてかかってこい」



 俺は挑発的にニヤリと笑った。


「なにっ!? 生意気な!!」

呪われた存在カース・レイドの分際で!」

「口の聞き方がなってないわね……!」


 プライドの高い教師たちは、一気に頭に血が登ったようだ。総勢五六人の魔道士たちが襲いかかってくる。


【クロノス、降臨】


 時神クロノスの武器は、先端が大きな輪でその中に十字架クロスがついた錫杖『輪廻の杖』だ。杖を一振りして、俺の半径三メートルだけ時間の流れを変える。


時の歯車タイム・ギア


 カチリ、カチカチカチと歯車が回る音が聞こえた。途端に周りの動きがスローモーションのように遅くなる。

 見上げれば、後方で魔力特化型の教師たちが一斉に魔法を放っていた。そのすべてが俺に向かっている。


【ラキエス】


『ふっ、今回も面白いことになっているな』


 冷気と共にあらわれた氷刃王は、アイスブルーの瞳を細めていた。そして後ろから俺に抱きつくように腕を回す。逃げ場のない状況が、むしろ楽しいようだ。


「絶対防御を頼む」


容易たやすいことだ。絶対零度の牢獄ゼロ・プリズン


 ラキエスの氷の檻が俺たちを包みこみ、着弾する魔法をすべて凍りつかせた。そしてラキエスの細い指が触れると、氷の檻ごとバラバラと砕け散ってゆく。


『なんだ、物足りぬな』


 そう言っていつもの冷たい眼に戻り、スッと消えた。思ったより手応えがなくて、興味をなくしたみたいだ。


「早く終わらせたいから、本気出せよ」


 たしか魔法剣士も何人かいたはずだ。数が多いから、サクサクさばいてシェリル様の元に戻りたい。俺の言葉に、三人の教師たちが武器に魔法を付与して攻撃を仕掛けてきた。

 雷属性の矢と、氷属性のレイピア、炎属性の両手剣だ。……そろそろ半分くらい削っておくか。


【ルキス】


『レオ、お呼びかな……って。どうしたの、コレ』


「全員敵だ。殺さない程度にガッツリ削ってほしい」


『あ、そう。それなら遠慮なく』


 俺の隣にフワリと降り立った光の妖精王は、麗しい笑顔で鬼のような攻撃を放つ。


百華光乱ひゃっかこうらん

 

 無数の光の華が舞い上がり、幻想的な情景を生んだ。でもそれはルキスが見せる最後の慈悲だ。次の瞬間、光の華が鋭利な刃物と化して、敵に襲いかかる。


「ぎゃっ!」

「うわああああ!!」

「きゃああ!!」


 いたる所からうめき声や悲鳴が上がり、残る二十人ほどは茫然と立ちつくしていた。


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