第18話 これが召喚魔法です

「ほんとレオは容赦ないなぁ」


 シルヴァンス王子は若干苦笑いで、目の前で繰り広げられる一方的な戦いを眺めていた。


 これだけの教師を倒せば、授業に影響がでるのは織りこみ済みだ。その前提で、シェリルが召喚魔法や精霊魔法について、講義をすることになっている。


「おかげで明日の私の講義は、みんな真剣に聞いてくれそうですね」


「ええ、こんなの見た後なら食いつきもいいでしょう」


「でも、ここまで使いこなせてるとは……さすがレオです」


 ここまでエルフの王女に言わせるなんて……やっぱり右腕に欲しいな。だけど、どうやってもシェリル王女の傍を離れる気配ないんだよなぁ。この私が打つ手なしとは……それなら、対等な関係を結んでみるか?

 こんな優秀な人材で、あんな逆境でも諦めなかった彼の強さには心惹かれるものがある。

 ……もっとレオを知りたい。話を聞きたい。


 シルヴァンス王子はレオの勧誘をやめて、違う方向から攻めることにしたのだった。




     ***




 ルキスの全体攻撃で半数以上の教師たちが、戦闘不能になっている。精霊王たちは、もう出番がないと姿を消していた。


 俺がクロノスの召喚を解除すると、時間流れはもとに戻った。

 いい感じに削れたし、後は各個撃破でいくか。


【ウラノス、降臨】


 ゴッド召喚は強力だが一体ずつしか召喚できないので、小回りのきくゴッド召喚に切り替えた。



 天空神ウラノスの武器は『虹閃こうせんの弓』だ。ピンポイントで狙える上に、中距離向けなので魔道士相手に戦いやすい。


万壊の虹閃デレティス・アロー


 七色に煌めく無数の矢が、残っていた教師たちに次々と突き刺さっていく。魔力はほとんど込めてないので、攻撃を受けても気絶するくらいだ。


 バタバタと倒れ、最後の一人である学園長が真っ赤な顔でブルブルと震えていた。


「レオ・グライス! 貴様ぁぁぁ!!!!」


 学園長は怒りに任せて魔力を解放しはじめた。近くに落ちていた両手剣を手に取り、魔力を込めている。

 学園長から冷気があふれ出し、周囲の気温を下げていった。


 へぇ……学園長も魔法剣士だったのか。

 武器は両手剣ね。それなら同じ武器で勝負しようか。

 俺はウラノスの召喚を解除して、次のゴッド召喚をする。


【テラ、降臨】


 大地神テラの武器は『マグマの大剣』という両手剣だ。切るというより、叩き潰すという方がしっくりくる。マグマを固めて作ったような剣身は、常に高温で触れることすら叶わない。


「ふんっ! お前が同じ武器を持とうが、私に敵うわけないだろう!!」


「やってみればわかるだろ」


「生意気な奴め! アイスクラッシュ!!」


 こめかみに血管を浮き上がらせて、学園長は俺に切りかかってくる。上段から振り下ろされる氷の両手剣を、『マグマの大剣』で受け止めた。


 触れた途端、超低温の氷魔法と灼熱のマグマがぶつかり合い、爆発と共に炎と水蒸気が巻き起こる。


「くっ……まだだ! 極氷の一撃!!」


 学園長はもう一度魔力を込めて、今度はサイドから両手剣を叩き込んできた。これも何なく受け止める。魔力を込めて、俺から仕掛けた。


「破砕の鉄槌」


 魔力を込めた『マグマの大剣』は、淡く赤い光を放ち触れるものを燃やし尽くしていく。振り下ろした剣撃は、受け止めようとした学園長の両手剣をあっさり切断した。


「へっ!? なっ、け……剣が!!」


 両手剣に込められた氷魔法ごと砕いて叩き折られ、学園長の顔色は悪くなる。そこへシルヴァンス王子が、学園長に助け舟を出した。


「学園長、この剣を使ってください。これは城で管理していた、魔法効果増大が付与された両手剣です」


 そう言って投げ渡したのは、煌びやかな装飾の鞘に収められた両手剣だった。おそらく王家で管理していた遺物だろう。

 王子の眼は「これくらいなら余裕だよね?」と言っていた。

 後で学園長に言い訳をさせないために、わざわざ用意したものだ。


 ……余裕なのに間違いはないが、あの王子のニヤけた顔が気に入らない。「壊れても文句言うなよ」と視線で返す。

 そして、隣にいるシェリル様の期待に満ちた瞳には応えるしかない。だけどシェリル様とシルヴァンス王子の距離が近すぎないか?


「あ、ありがたく拝借いたします!!」


 俺を倒すことに執着している学園長は、王子が何故そんな物を持っていたのかまで気が回らないようだった。


「覚悟しろ! レオ・グライス! 極氷の一撃!!」


 魔力を込めた煌びやかな両手剣は、先程の倍の威力になっていた。学園長は次々と攻撃を仕掛けてくる。


「はっ! どうした!? 手も足も出ないか!!」


 そんなわけあるか。ここでやったら周りに倒れてる教師が巻き添え食うから、人気のない場所に移動してるだけだ。

 でも、説明する気もなかったので、無言で攻撃を避けながら練習場を移動していく。


「これで最後だ!! 極氷の一撃!!」


「破砕の鉄槌」


 他の教師を巻き込まないところまで来てから、反撃に転じる。予想外の行動に学園長は、目を見開いていた。

 先ほどよりも大きな大爆発を起こして、剣と剣がぶつかり合う。俺はそのまま『マグマの大剣』に魔力を込め続ける。


 やがて『マグマの大剣』は灼熱の炎を吹き出し、すべてを飲み込むように溶かしていった。


「何だ!? 剣が……剣が溶けてる!?」


 学園長が慌てて離した両手剣は、すでに半分ほど溶けて原型をとどめていない。『マグマの剣』からは紅蓮の炎が立ち上がり、灼熱の熱波を放っていた。


「なっ……まさか、そんな……本気ではなかったのか……?」


 武器をなくし、魔力も残りわずかな学園長は、そこで初めて俺がまだ全力を出していないことに気づいた。


 圧倒的な実力の差を、本能で感じ取ったようで顔色は一気に青くなる。足がもつれて尻餅をつき、そのまま不恰好に下がっていった。


「来るな! 来るなぁぁぁ!!」


 俺は最後の仕上げにかかる。残りわずかなプライドを打ち砕くべく、『マグマの大剣』大剣を振り上げた。


 そして学園長めがけて、勢いよく振り下ろす。


「ひっ!!」


 ビクッとした後、学園長が座り込んだ床の上には水溜りが広がっていた。『マグマの剣』の切先は学園長の髪先をかすり、鼻先でピタリと止める。



「学園長、これが召喚魔法です。理解してもらえましたか?」



 不遜な態度を改めてニッコリ微笑んでみたが、学園長はガクガク震えてるだけで返事は返ってこなかった。


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