第16話 覚悟しておけ
翌日、王城の部屋を後にした俺たちは、シルヴァンス王子と共に魔法学園へ向かった。
移動にはシルヴァンス王子が用意してくれた、豪華絢爛な馬車を使うことした。これはシェリル様がキラキラした目で『馬車』という言葉に反応していたからだ。
今まで乗ったことがないと言うのでお願いしたのだ。ソワソワしながら馬車に乗り込むシェリル様が可愛すぎて、どうしようかと思った。
馬車の中でシルヴァンス王子が、これからの俺たちの役割を話し始める。
「まずは、私がなぜ魔法学園に来てほしかったのか説明しようか」
シルヴァンス王子は、そもそも呪いや前世が常識として当たり前になっているのが心底アホらしいと思っていたそうだ。
そこで本格的に様々なアホくさい常識の定義を変えようと、三年前から水面下で準備をすすめていたらしい。その一環で『貴族だけが通う魔法学園』という概念も変えたいということだった。
階級など関係なく、実力のある者や、芯の強い者と出会う場所を作りたいと語った。自分の代には間に合わないが、これから先の国を担う者のために力を尽くしたいと。
今回のシェリル様の来訪と俺の召喚魔法の件はまたとない好機だったというわけだ。この勢いで荒療治だが一気に事をすすめたいらしい。
たしかに荒療治がうまくいけば、ハロルドさんのように正しく理解してもらえるかもしれない。だけど……アイツらが変わるのなんて想像できない。
「王城や魔法研究所はすでにレオとシェリル王女でやってくれてたから、残すは魔法学園だと思ったんだ。特殊な環境だから、情報が伝わりにくくて召喚魔法の理解が進んでいない」
魔法学園は一部の高官の子息令嬢をのぞいて寮生活になるため、防犯の観点から結界が張られ、出入りは厳しく制限される。学園長や教師もその敷地からはなかなか出られないので、最新情報がすぐに入ってこないのだ。
「わかりました……では私もエルフの王女として協力いたします」
「では、俺は場が用意されたら派手に暴れます」
「話が早くて助かるよ。それでは具体的な作戦会議をしよう」
その前にひとつ確認したいことがある。俺は昨日からその話題が出ないことが、ずっと気になっていた。
「シルヴァンス王子は、シェリル様の取引相手に興味がないのですか?」
「ああ、興味がないわけではないけど、それがなくても目的の達成に支障はないからね。国の運営も私が手がけている部門は問題ないし」
「え、でもまだ魔法学園の学生では……?」
「卒業はまだだけど、すでにいくつかの施策を実施して、陰で色々動いているんだ」
この王子、なかなかデキる人物らしい。たしかに仕事は速いし、話してても返答が的確だ。
「少しは見直してくれたかな? ではレオ、私の右腕になってくれるか?」
「なりません」
「ははは、相変わらず即答だね」
シェリル様には昨夜のうちに、何があってもどんな条件を付けられても、お傍を離れないと伝えてある。その甲斐あって今日は頬笑みながら話を聞いている。
その後の作戦を練りつつ俺たちを乗せた馬車は、滞りなく魔法学園へと向かっていた。
***
「シルヴァンス王子、ご無事のご帰還なによりでございます。そちらが至高の存在であるエルフの王女様ですな!」
レオたちをエントランスで出迎えた学園長は、満面の笑みでエルフの王女に近付いて来た。レオが嫌悪感から一歩前に出て、シェリルを背中に隠す。
「なっ! この者は……うん? お前は! レオ・グライスではないか!!」
「へぇ、学園長は彼を知っていたんですね」
シルヴァンス王子は穏やかな微笑みを浮かべたまま、凍てつくような視線を学園長に向けた。すでに馬車の中で打ち合わせした作戦は始まっている。
「シルヴァンス王子! コ、コイツは
「その口を閉じなさい! 私の専属護衛であるレオをそのように呼ぶとは……無礼極まりないわ!」
シェリル様の演技ではない本気の怒りに、学園長はビクリと身体を震わせた。驚きのあまりこれでもかと眼を見開き口をだらしなく開けている。
「え……? エルフの王女様の、護衛ですと……?」
「学園長、彼はエルフの寵愛を受けています。これ以上侮辱すると物理的にクビが飛びますよ」
シルヴァンス王子は学園長の耳元にそっと囁いた。その言葉に、学園長の顔色が一気に悪くなる。
(そんな……なぜ魔法も使えない
そこでシルヴァンス王子が、魔法学園に届いていない情報をありのまま伝えた。
「学園長……今回シェリル王女は、エルフの生薬を取引する相手を探すためにご来訪されてます。王城の高官たちや魔法研究所は該当者がおらず、私が魔法学園にお連れしたのです」
ハッとして学園長はシルヴァンス王子の顔を見て、その可能性に気づいた。
(もしもこの学園の生徒や教師が選ばれたら、学園長である自分の功績にできる。この様子だと王子とも取引しないようだ……万が一自分が選ばれれば、こんな仕事はやめてのんびり贅沢に暮らせる!!)
学園長は瞬時に損得を計算して、これからの振る舞いを決める。大きく深呼吸してから、態度を改めた。
「大変失礼しました。まずはいろいろとお伺いしたいこともあるので、落ち着ける場所に移動しましょう。ご案内いたします」
***
俺たちが案内されたのは、来客用の応接室だった。王城ほどではないが、上質な家具に美しい調度品が飾られた華やかな空間だ。
目の前には、最高級の紅茶と王室御用達店の焼き菓子が用意されている。
「先ほどもお話しした通り、シェリル王女のご希望にそうため、未熟ではありますが私が国内での世話役になりました。急遽決まったため、シェリル王女を先に魔法学園にお連れした次第です」
これはシルヴァンス王子が国王に、
『現状ではシェリル王女と一番接点があり、取引相手になりそうのはハロルドです。それもいいですが、私が選ばれた方が王家にとって都合が良いのでは?』
と持ちかけ、このシェリル様の接待役を獲得してきたのだ。
「ふむ、承知いたしました。昨日届いた親書に従い、学生寮の特別室は準備できております。他に何かご希望はございますかな?」
ここでシェリル様が口を開いた。
「それでは、貴方も含めて教師を全員集めて頂けますか? 私からお話ししたいことがあります」
「もちろんでございます。シェリル王女のご希望でしたら、喜んで手配致しましょう。ただ、全員となると授業が終わってからになりますが、よろしいでしょうか?」
「構いません。よろしくお願いします」
さぁ、この後は俺の出番だ。出来るだけ派手に暴れてやる。
————覚悟しておけ。
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