第35話 シェリルの敵は俺の敵だ
俺は抑えてた。
魔法学園になぜか国王直属の近衛騎士たちがやってきて、他の生徒や教師たちを傷つけるから、黙って捕らえられた。
アリエルがすぐに準備して行くと古代文字で伝えてきたから、動くのはシルヴァたちが来てからにしようと抑えてた。
だけど、コイツはシェリルに攻撃を仕掛けたんだ。
しかも古代の魔道具でブーストかけた魔力で、上位魔法を放ったんだ。
もういいだろ? シェリルの敵は俺の敵だ。
「この私にそのような口をききおって……!!」
こんこんと溢れる魔力を操り、国王は次々と上級魔法を放ってくる。
「ヘルファイア!!」
【アクア、頼む】
『水刃乱舞』
水明王はあらわれると同時に、ヘルファイアを消し去り国王に攻撃を返した。アクアの魔力が込められたカミソリのような水刃が、いくつも放たれて国王を切り刻んでいく。
「ぐあっっ!」
さらに傷を増やして、国王は膝をついた。息は荒く目はどんよりと曇っている。
「貴様……これで正真正銘の反逆罪だ!」
「いや、先にシェリルが襲われてるから正当防衛だろ」
コイツは何を言ってるんだ? ああ、もしかしてダメージ受けすぎて頭が回ってないのか?
まぁ、どうでもいいや。俺の暗殺の首謀者もコイツだし、さっさと終わらせたいんだが。
「反論は許さぬ! 私に攻撃したことが問題なのだ!!」
もう話にならないから、終わらせよう。シルヴァは間に合わなかったということで、納得してもらおう。
「
その時だ。ガヤガヤと扉の外が騒がしくなった。
そして勢いよく扉を開けて入ってきたのはシルヴァとアリエル、それから近衛騎士たちだった。
「シルヴァンス! よく来た! この者を反逆罪で捕らえるのだ!!」
国王が味方が来たとばかりに喚いている。
だけど、そこで返ってきたのはシルヴァの氷よりも冷たい一言だった。
「反逆者は貴方です、父上」
シルヴァの予想外の対応に、国王はかなり驚いていた。何を言われてるのかわからない様子で、呆然としている。
「なっ……何を申すか!!」
「これが証拠です」
そう言ってシルヴァは、国王の手紙の模写と映像水晶をだしてきた。
その証拠には、宰相バートレットと前国王の毒殺のやりとりや、会話の様子が記録されていた。
「な……何故こんなものが……」
もはや国王の顔色は青から白になっていて、血の気がなかった。
震える手で映像水晶を抱えている。
「お祖父様の遺言です。……前国王の毒殺及び、前王妃と私の母である王妃まで暗殺した。そして、ここにいるエルフの王女の護衛に邪魔だからと、暗殺者を仕向けたのもわかっています。今回の件も根も葉もないでっち上げです。……貴方を、国家反逆罪で拘束します。そして————」
シルヴァは真っ直ぐに、父である国王を見据えている。
「————この時をもって、私は国王に即位します」
その言葉に大広間は静まり返った。
だが、その静寂を破ったのは、たった今罪人になった男だった。
「ふっ、ふざけるな!! こんな証拠など、燃やしてしまえば何とでもなるわ!!」
「原本は別の場所にあるから無駄ですよ。ちなみにこれと同じものを国議に提出してきました。今頃、辺境伯たちが率先して精査してます」
前国王は、顔を真っ赤にしてブルブルと震えている。すでに言い返す言葉もでてこないようだ。
「それに、ここまでのやり取りも、レオの協力で国中に配信されてます。どうやっても覆りません」
呆れたようにシルヴァが返す。
俺たちはこの日のためにいくつもの準備を整えていた。
ひとつめはハロルドの魔法研究所で、俺がもらった離れた場所をみれるという魔道具をたくさん作らせていた。
ふたつめは数々の証拠の複製を用意することだ。原本は厳重に保管して、すべての決着がつくまで隠しておく。
みっつめはスピリット召喚で水の精霊をたくさん呼びだし、国中で魔道具を発動させて、この大広間でのやり取りを流したことだ。
まあ、細かいこともたくさんあったが、古代語の講義の時間で勉強がてら作戦会議をしてたから、内容も漏れずに実にスムーズにことが進んだんだ。
他に古代語が読めるヤツなんていないからな。
これにより国王の裏の顔が暴露され、シルヴァが新国王につくことによって立て直すことができる。
「シルヴァンス……お前ぇぇぇ! 裏切り者がぁぁぁぁ!! 私に刃向かう者は排除するのだ!!!!」
ここで前国王となったシルヴァの父は、さらに指輪に生贄を捧げるために魔道具を発動させる。
黒い霧はシルヴァを守っている近衛騎士たちを取り込み始めた。
「シルヴァンス様をお守りしろ!!」
「我が命に変えても!」
「シルヴァンス様、お逃げください!!」
俺は一度ゼウスを召喚解除して、みんなを守るために別の
【メリウス、降臨】
「
国王の周りに三メートル四方の結界を張り、黒い霧がこれ以上広がらないように閉じ込めた。メリウスの結界なら破られることはほぼない。
残念ながら何人かは間に合わなかったが……同じ守る立場として彼らに敬意を持った。
「シルヴァ、俺とコイツで人気のないところに移動する」
「レオ、だが……」
「あの指輪は生贄を取り込むと魔力が増えるから、俺のひとりの方が戦いやすい。シェリルを頼む」
このまま指輪に取り込まれる人を、増やしたくなかった。俺ひとりならどうとでも戦える。
「わかった……私の父なのに……すまない。シェリル王女は私が保護する」
海のような碧い瞳は、いつものように俺を親友として見てくれていた。国王になっても変わらない、それが嬉しい。
「ああ、お前だから頼めるんだ。こっちは任せろ」
そして俺の大事で仕方ない王女様に、視線をむける。いまの会話を聞いて納得できない顔をしていた。耳も少し下がってる。
「シェリル……」
「レオはたしかに私の護衛よ。でもだからと言って、ひとりで戦ってなんて言わないわ」
「そうだな。普通の相手なら、エルフの国の時みたいに一緒に戦ってもらったよ。でも、あの古代遺跡の指輪は危険すぎる」
目の前で何人も指輪に取り込まれた事実に反論できず、不安気に見つめられる。何とか安心してほしくて、シェリルの長い耳にそっと触れて囁いた。
「大丈夫だ。俺はまだシェリルの傍に一緒にいたいから、必ず戻ると約束する」
「約束……ちゃんと守ってね?」
その言葉には気持ちを込めた微笑みで返した。
アリエルが「甘すぎて胸焼けが……」とか言ってたけど、何のことだ? ともかく、これで思いっきり暴れられる場所に行ける。
場所が場所だから、全力出せなかったんだ。
【クリタス】
『レオ、わかってるわ。どこがいいかしら?』
漆黒の艶髪を揺らしてあらわれた暗黒王は、全てを承知していた。それなら話は早い。
「召喚魔法が使えて、誰もいないところがいいな」
『それなら、この前いいところを見つけたの。そこにしましょう』
「ああ、頼むよ」
そして俺はこの罪人を連れて、誰もいない場所へとむかったのだ。
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