第41話 早く見つけ出さないと!!
「レオ、お手紙よ」
「ああ、クリタス。ありがとう」
クリタスが運んでくれたのは、魔族の王からの手紙だった。
シェリル様の元を去ってから、三年が経つ。
俺はいま魔族が治める国、シューリッツにいる。召喚魔法を高く評価してくれて、魔物の討伐要員として使ってもらっていた。
魔族といっても戦闘向けじゃないタイプもいるので、魔物の討伐は必須だ。しかも魔族が住んでるのは北の寒い地域で、魔鉱石が取れる代わりに魔物も強力だ。
魔物はいつ出没するかわからないし、頻度も高いから気が抜けない。
だけどシェリル様のことを考えないようにするのに、忙しくしているくらいがちょうどよかった。
目を閉じると脳裏に浮かぶ銀髪のストレートと翡翠の瞳。そして、俺の名を優しく呼ぶ声。
三年経った今でも、なにも色褪せていない。その思い出も、俺の想いも。
女王になるための試練は順調に進んでいるらしく、今は東方の竜人族の国にいるとスピリット精霊から報告を受けている。
実はいざとなったら、さりげなくフォローできるようにスピリット精霊をつけていたんだ。そして報告だけは聞いていた。
獣人の国では、一族最強の姫を倒し同盟を結んだと聞いた。獣人の一族は戦闘種族だから、攻め込もうと考える他の国への牽制になる。
この魔族の国では魔鉱石の取引を取りまとめた。これでエルフの国の魔力不足が解消されて、民の生活が安定したようだ。
そして竜人族の国では、エルフの魔力増強につながる宝珠の取引を決めたと聞いている。
俺はその間、シェリル様とかち合わないように転々としていた。
でも、もう大丈夫みたいだ。世界中の国と取引をまとめてシェリル様が王女になってもなんの憂いもない。
シェリル様がエルフの国に帰ったら、フォローも終了だとスピリット精霊には伝えてある。いよいよ、俺とシェリル様の接点はなくなるな。
そこで意識を現実に戻した。
「また魔物の討伐だ。クリタス、エンカレスの山まで頼む」
『ええ、行きましょう』
今回の標的はグリーンドラゴンだ。他の魔族では太刀打ちできない強敵らしい。至急の応援要請だった。
***
ほんの一瞬でエンカレスの山中に移動してきた。
さらに二十メートルほど山を登ったところで、深緑のドラゴンが雄叫びを上げている。
ゴツゴツとした硬い表皮は所々黒い血が流れ出ているが、まだまだ勢いはおさまっていない。
「サラレイス、どんな感じだ?」
「レオ! 来てくれたのね!」
一番近くにいた魔族、漆黒の髪に赤い瞳の王女に声をかける。
この国に来てから、サラレイスには色々と世話になっていた。魔物討伐の仕事を紹介してくれたのも彼女だ。
「今はお父様が最前線で食い止めてるけど、今回の個体は硬くてダメージが与えられないの」
普段は国王が討伐に来るほどの強力な魔物ということだ。最強の魔族でも倒せないとは、少し面倒な相手らしい。
「……わかった。全員下げてくれるか。俺ひとりの方が戦いやすい」
「わかったわ。お願いね」
そう言ってサラレイスは、闇魔法で黒い光の玉を打ち上げた。空で弾けた黒光をみた魔族たちは、次々と前線から退いていく。
それを確認して、俺はグリーンドラゴンへ攻撃を仕掛けた。
【ウェンティー、トニトルス、ゼウス】
『なぁに? レオ』
『おう、呼んだか?』
「グリーンドラゴンの討伐だ。硬いヤツらしいから、全力で頼む」
『うふふ、暴れていいのね。嬉しいわ』
『全力出してもいいのか!? 任せておけ!!』
ふたりの精霊王は意気揚々とグリーンドラゴンに挑んでいく。最近では名前だけで呼べるようになった
『
『
雨のように降る真空の弾丸と一撃必殺の雷攻撃がグリーンドラゴンに直する。
攻撃は一旦精霊王たちに任せて、最前線にいるシューリッツ国王の元にむかった。
「大丈夫ですか?」
「レオ……すまない。私の攻撃では足止めがやっとでな」
「問題ないです。後は俺が引き受けますから、回復してきてください」
そして俺も全力を出すべく、雷轟刀に魔力を込めた。全身にも魔力を巡らせて、グリーンドラゴンに立ち向かう。
極限まで高めた身体能力を駆使して、痛恨の一撃を喰らわせた。
「紫雷滅殺・連撃!!」
精霊王たちの攻撃に加えて、紫雷が縦横無尽にドラゴンの巨体を走り抜ける。そして岩のような深緑の表皮を切り裂いていった。
その傷口から遠慮のない弱点属性の攻撃を打ち込まれて、身体の中から灼かれていく。
『もう一発だな!!
「グギャアアアアア!!!!」
断末魔の叫びをあげて、グリーンドラゴンは崩れ落ちた。大地を揺らしながら倒れていく。ドラゴンを討伐して、あたりには静寂が戻ってきた。
「……派手に暴れすぎたな」
これ程までの戦闘だと目立ちすぎる。万が一にもシェリル様に見つからないように、会わないように拠点を変えることにした。
もし次に会ったら、きっと抱きしめてしまう。自分を抑えられる自信がない。
そうしたら、シェリル様を困らせる。
俺はサラレイスに世話になったとだけ告げて、違う国へと転移した。
***
「シューリッツ国王、急な謁見申請に応じていただいて、ありがとうございます」
私は二日前に北方にある魔族の国で、グリーンドラゴンがひとりの男に倒されたと聞いた。
やっと欲しい情報が手に入ったと、急いでシューリッツ国王に申請を出したのだ。
ドラゴンをひとりで倒す。そんなことができる種族はいない。どの種族でも、私たちエルフですらひとりでは倒せない。
そんなことができるのは————
「シェリル王女よ、何か大切な要件なのだろう?」
「はい、グリーンドラゴンを討伐したのは、レオ・グライスという人間で間違いございませんか?」
————私の愛しいあの人しかいない。
「たしかに、レオという人間の男だ。だが、この国にはもういない」
「えっ……? もういない?」
「ドラゴンを倒した後、すぐにいなくなってしまったのだ。報酬も渡していないというのに、世話になった礼だと受け取りも拒否された」
そんな……やっとレオの影が掴めたと思ったのに……。
ずっとずっと探していた。でもどこにいるのか全然わからなくて、やっと情報が掴めたから直行したのに……遅かったのね。
「そうですか……」
仕方ない、また情報を集めて探すしかない。シルヴァンスもアリエルも協力してくれてるから、また情報が入ってくるはずよ。
「そうか……もしや、レオの想い人とはシェリル王女のことか?」
(前にレオが話していた内容と、
「それは、本人からはっきり聞いてないのでわかりません。でも、とても大事にしてもらいましたし、私の最愛の人であるのは間違いありません」
「そうであったか、なるほど。それならサラの求婚にも応じないわけだ」
なん……ですって? 求婚と言ったのかしら、この国王は? 誰が誰に求婚したのかしら?
「ああ、心配はいらないぞ。他の女には興味ないと申しておったから、心に決めた女がいるのだと思っていたのだ」
それは……よかったわ。
けど、ひとつわかったことがあるわ。
レオを放っておいたら、絶対にダメだわ!! そうよ、なぜ今まで気がつかなかったのかしら!?
あんな素敵な人を、他の女が放っておくわけないのよ!!
急がなければ……他の女のものになってしまう前に、早く見つけ出さないと!!
「……これで、ドラゴン討伐の借りは少し返せただろうか?」
シューリッツ国王の呟きはシェリルには届いていない。だが、ほんの少しの追い込みによって、シェリルの猛烈な追撃が始まるのだった。
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