【古代召喚魔法】しか使えない俺は、悪霊を呼び出したと追放されました。でもエルフの王女を助けたら溺愛されたので、俺も王女様だけ大事にします。あ、邪魔する奴らは排除一択でいいよね?〜
里海慧
第1話 本日をもって退学に処す
「レオ・グライス。君は呪われているうえに悪霊を呼び寄せるため、危険極まりない。よって本日をもって退学に処す」
卒業まであと一年。最終学年にあがったばかりの春のうららかな日に、俺は魔法学院を退学になった。
「また、寮からは三日以内に退去するように。三日を過ぎて残っている私物は、すべて処分の対象になる。まぁ、早々に出て行くことだ」
「……わかりました」
それだけ返答して、俺は学園長室をあとにした。
もうここの教師たちに期待する気持ちは、カケラも残っていなかった。
この世界には魔物が多く生息していて、人々の命や財産を脅かしている。そのため身を守る魔法が発達してきた。
魔法が使えないものは魔物に対抗できずに喰われてしまうので、そういう血筋は自然と途絶えていく。
いま残っているのは、魔力の扱いに長けた者の子孫のみだ。そのため、平民から貴族まで何かしらの魔法が使える。
特に領地を与えられ管理している貴族は、魔力量の多い者を妻や夫に取りこんできた。そのせいか魔力量が多い子供がよく生まれていた。
貴族の家に生まれた子供は、領地と民の安寧のため八歳から魔法学園に通いその腕を磨いていくのだ。
ただ残念なことに、それでもたまに魔法が全く使えない子供が生まれてくるときがある。
どの属性の魔法も使えないのは、前世で非道を尽くし神の呪い受けたせいだと考えられていた。前世での悪い行いを今世で罪滅ぼしするためだとも言われている。
そして
俺、レオ・グライスはその
たしかにみんなが使うような魔法は使えない。どんなに頑張っても、勉強してもダメだった。それは認めるよ。
でもな、呪いって何。
前世の行いが悪いって何。
例え前世があったとして、なんでそんな記憶のないもので、今の俺が苦しまなくてはいけないのか理解できない。この九年間で様々な本を読みあさって知識を蓄えてきたけど、どの本にもそんなことは書いてなかった。
いや、まぁ、一部の信憑性のうっす——い伝説とか眉つばな話がのってる本には書いてあったかな。
だけど真面目に教材として使うような魔法の指導書や魔力の教本なんかには一ミリもそんな記載はなかった。
でも、どんなに声を大にして叫んでも、誰も俺の話を聞いてくれない。呪いのせいにして存在を無視される。友達になれそうなヤツもひとりだけいたけど、結局理解してもらえなかった。
世間の常識がそうさせていた。
俺は荷物をまとめるため学生寮に向かう。
校舎から外に出ると、柔らかな春の日差しが心地よかった。寮まで続く道の両サイドには、春ならではの色とりどりの小さな花が咲き乱れている。
俺に降りかかる現実とはかけ離れた景色が目の前にあった。
寮まで向かうあいだ、今までの自分の人生をぼんやりと思い出していた。
***
俺はジオルド王国の王都に屋敷を構えるグライス侯爵家に生まれた。領地はここから南に馬車で二日ほど下ったところにある。
そんなに大きな領地ではないけど、温暖な気候で作物はそこそこ採れて、海産物の水揚げもあり潤っていた。
二年後には弟のテオも生まれて魔法学園に入学するまでは、よく一緒にいたずらして怒られていたのが懐かしい。
通常は五歳ころから初歩的な魔法が使えて、学園に入って力を伸ばしていくものだった。
弟は才能があるのか三歳から魔法を使い始めていたけど、俺は八歳になっても初歩的な魔法すら使えなかった。
魔力の流れは感じているから、魔力がないわけではなかったんだ。
父上も母上も心配はしていたけど、俺が嫡男なこともあり魔法学園に入れば使えるようになると信じていた。
そして魔法学園に入学して数日後。
「次、レオ・グライス君。はい、ここに手を乗せて。そのまま動かないでね」
心配した両親につき添われながら魔法の適性検査を受けた。これはどの属性が得意なのか確認するものだ。他にも何人か両親も一緒に検査を受けている生徒たちがいた。
検査担当の教師が、驚き周りの教師に声をかけてる。どうしたんだろうと思って見ていた。
「レオ・グライス……君は魔法の適性がない。どの属性も適性ゼロだ……」
そこで俺は
それから俺の周囲は手のひらを返すように変わった。
今まで優しかった両親は顔も合わせてくれなくなった。すぐに学生寮に入れられ最低限の金でやりくりするように言われた。
まだ八歳だった俺は戸惑った。
でも魔法を使えるようになれば、みんなも認めてくれて、優しい両親に戻ると信じて勉強を頑張ろうと思っていた。
「レオ・グライス君、君には教えることがないから、自習していなさい。あぁ、教室には入ってきてはダメよ。ここは他の生徒たちがいるから」
変わったのは両親だけじゃなかった。昨日まで優しかった教師たちも、俺に教える事はないと相手にしてもらえなかった。
周りの大人たちは誰も助けてくれなかった。
さらに教えることがないのだからと、授業にも参加させてもらえない。最初のうちはあまりの環境の変化に泣いてばかりいた。
泣いてばかりいて、部屋から出なくなっていた。当然そんな俺に気づいてくれる人なんて、誰もいない。飲まず食わずでもったのは二日だった。
今の俺からしてみたらささやかな抵抗だったと思う。我慢できずに学生寮の食堂で腹いっぱい食べた。
幸いなことに学園側は、俺を追い出すつもりはないらしい。寝るところと食べることには困らない。
自分で学ぼう。教えてもらえないなら、自分自身で学ぶんだ。そう決意した。
俺は魔法学園の図書館を使うことにした。魔法学園の図書館は、貴族が高度な魔法を学ぶために、充分すぎるほど設備が整っていた。
読み書きは実家にいたころに、家庭教師がついて教えてくれていたので問題なかった。こう考えると割とついてると思えてくる。三食付きで、好きな事を好きなだけ勉強できたんだ。
「ねぇ、知ってる? この学園に
「ああ、学園長がぼやいてたな。授業料や寄付金をもらう代わりに押しつけられたって」
「寄付金がほしいから退学にもできないんだって」
「まぁ、いいんじゃないの? 大人しくしてるみたいだし。今のところ他の生徒にも、知られてないみたいだし」
「他の生徒に知られたら一大事よ。親からどんな抗議されるか……ましてや同学年に王太子様もいるんだもの」
「そりゃ
「そうね……」
俺が図書館でこっそり勉強してることを知らない教師たちが、コソコソ話しているのを耳にした。
その頃には周りには何も期待してなかったから、生活基盤が保証されてることに、なんてありがたい……と感謝すらしたもんだ。
そうして俺は図書館の書物を片っ端から読んでいった。魔法に関するものから初めて、薬草から薬学に関するもの、食物から調味料に関するもの、ありとあらゆる知識を詰め込んでいった。
そうしたら、魔法を使うヒントが見つかるかもしれないと思っていたんだ。
五年ほどかけて図書館の本を読みあさり、ついに古代文字で書かれている書物に手を伸ばした。
これが大当たりだった。いつの間にか『
そこに書かれていたのは古代召喚魔法【ヴァルハラ召喚】についてだった。
————そこから俺の人生は変わったんだ。
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