第56話 蜜月旅行⑤

竜人王国ドラコニクスは、小さな島が集まった国だ。竜人族のように翼がある種族でなければ、ひとつの国にすらならなかっただろう。

 俺はシェリルを横抱きにして、ウェンティーで目的地に向かって飛んでいた。


「まあ、上空ここから見ると絶景ね!」


「そうなんだ、これを見せたかったんだ」


 眼下に広がるのは、透き通るような青い海原に浮かぶ大小さまざまな島だ。島の周囲は珊瑚礁が囲みエメラルドグリーンから真っ白な砂浜へとグラデーションを作っている。


 竜人族たちは無数の島々を自由自在に飛び交っている。その中でも一際大きな島に俺たちは降り立った。


「シェリル、この島では温泉が湧き出ていてものすごく体にいいんだ。シェリルはいつも頑張りすぎるから、しばらくゆっくりしていこう」


「私のためにここを選んでくれたのね? レオ、本当に嬉しいわ! ありがとう!」


 弾けんばかりの笑顔を浮かべるシェリルに、年に一度は連れて来たいと思ってしまった。

 休みを取れるように義母上にも相談してみよう。


 温泉に入れる宿屋に入ると、俺とシェリルは宿屋の中で着る『浴衣』という衣装を選ぶように言われた。


 竜人族は独特の文化で発展していて、民族衣装も変わった形をしている。一枚の布に仕立てられた布を羽織り、腰に幅広の布を巻いて縛って完成だ。

 俺のは白地に深緑の縦縞模様のものを選び、シェリルは紫の花柄のものを選んでいた。


「この柄は菖蒲あやめという花で、優雅という意味があるんですよ。凛としたお客さまにピッタリの柄ですわね」


「そうなの? 私、レオの瞳の色に合わせて紫の花柄にしたのよ」


 何だって……!? ヤバい、俺の妻が可愛すぎてどうしたらいいんだ!!


「あら、そういえばご主人様も奥様の瞳の色を選んでらっしゃるのね。まあ、なんて素敵なご夫婦かしら」


「本当に妻が可愛いすぎて困ってるんです。申し訳ないがすぐに部屋まで案内してもらえますか?」


「ふふふ、もちろんでございます。どうぞこちらへ」


 いますぐシェリルに深い口づけをしたいのを堪えて、早く二人きりになりたいのだと宿屋の従業員に伝えた。シェリルは無言だったけど耳がほんのり赤く染まり、上下に動いていたので喜んでいるらしい。


 案内された部屋はドラコニクスならではの部屋で、まったりとくつろげるようになっている。


「私、初めてドラコニクスに来たときに、靴を脱いで部屋に入ることにとても驚いたの」


「シェリルもか。俺もだよ。慣れたらこっちの方が楽でいいんだよな」


「ええ、わかるわ!」


 暖かく見守っていた宿屋の女将に浴衣の着付けを教わり、早速着替えることにした。




「レオ……どうかしら?」


「…………いい。メチャクチャいい」


 銀糸の髪は結い上げられて、普段はさらさないうなじが色香を放っている。着いたばかりでなければ確実に押し倒していた。


 まるで紫の菖蒲の花が絡みついて、シェリルが俺のものだって言ってるみたいだ。


「その、レオもとっても素敵ね。ふふふ、グリーンの縦縞模様が特にいいわ」


 どうやらシェリルも同じことを思ったようだ。似たもの夫婦ってこういう時に使うのか?


「それじゃぁ、温泉に行こうか。ここの宿屋は貸切できる小さな湯殿があるんだ。そこなら一緒に入れる」


「えっ! 一緒に入るの!?」


「イヤ?」


「…………イヤじゃないけど……恥ずかしいわ」


 あああああ!! ヤバい、耳まで赤くしてモジモジしてる俺の嫁が可愛すぎるんだが!? 風呂に入るよりも激しいことしてるのに、そこは照れるとか何だろう、俺を悶え死にさせたいのか!?


「そっか、一緒に風呂に入ったことはないんだよな。でも大きな湯殿だとシェリルと離れてしまうから、できたら一緒がいいな」


「じゃ、じゃぁ、なるべく見ないでね?」


 何をだ? シェリルの裸なら見るに決まってるけど、まあ、ここはシェリルの気持ちを優先しようか。


「ああ、わかったよ」


 そうして予約しておいた貸切湯殿に向かった。




     ***




「レオ、大丈夫? 足元気をつけてね」


「ああ、大体は気配でわかるから大丈夫だ」


 貸切湯殿は外に設置されていて、海を見ながら入浴できるようになっていた。シェリルと絶景を楽しんだあと身体を洗っていたのだが、俺がガン見しすぎて、湯船に入るまでと言われシェリルに手ぬぐいで目隠しされてしまった。


「シェリル、もう目隠しとっていい?」


「ええ、もういいわ」


 そっと手ぬぐいを外すと目に飛び込んできたのは、日差しを反射してキラキラと輝く海面と雲ひとつない青空だ。時折吹いてくる風にのって塩の香りが鼻先をくすぐる。


「はあ、温泉に入ってみるこの絶景はたまらないな」


「本当ね、こんな素敵にお風呂なら毎日でも入りたいわ」


「あー、そうだな。帰ったら作ろうか? 海は見えないけど、深い森を眺めながらっていうのも良さそうだな」


「まあ! それは素敵ね! リーナにも協力してもらって回復効果のある湯になるようにしたらどうかしら?」


「いいな、そうしよう」


 夢のある計画を立てながらシェリルを見つめると、ウキウキとした顔からソワソワと落ち着かない様子になって視線を逸した。


「もう。あんまり見つめられたら恥ずかしいのよ」


 少しだけ拗ねながらも、桃色に染まった頬といつもより艶やかな唇が俺を誘っているように見える。


「でも、この絶景よりシェリルの方が綺麗だ」


 そう言ってシェリルを抱き寄せて、啄むようにキスを落とすと蕩けるような翡翠の瞳が俺を見つめた。


「レオ、せっかく来たのだから景色を楽しみましょう?」


「……わかった。じゃぁ、こっちに来て」


 シェリルを俺の足の間に座らせる。背中を向けて座ったので、同じ景色が見える。


「これならシェリの背中しか見えないし、絶景の中にシェリルがいるから俺も満足だ」


 耳元で囁けばピクリと長い耳が揺れる。シェリルの反応から昂ぶる熱を感じ取った。


「どうした? 耳が揺れてる」


 今度は長い耳に優しく口付ける。シェリルの火照った背中がわずかに震えた。


「ふっ……ん」


 大きな抵抗を見せないのをいいことに、長い耳からうなじへと口付けていく。途中に赤い花を咲かせると、シェリルの可愛い声が漏れ出した。


「あっ……レオ、待って……はっ、んんっ」


 うなじから肩へ唇を移動させても、抵抗する様子がない。もう少し大胆に攻めてもよさそうだ。


 俺はシェリルの柔らかに膨らみに手を伸ばす。薄桃の固い蕾に触れると、ビクリと身体を震わせる。


「んんっ!」


 うなじを舐め上げて感度のいい長耳に舌を這わせ、茂みの奥へと手を伸ばした。


「はあっ、ああっ! ダメっ、レオ……!」


 大きく背中を反らせて、震えるシェリルは必死に声を抑えている。

 もうここまで来たらやめられないし、やめるつもりもない。


「今すぐシェリルが欲しい」


 耳元で低く囁けば、シェリルはビクビクと身体を震わせて軽く達した。語りと力の抜ける身体を支えてもう一度囁く。


「シェリル、愛してる」


 シェリルの返事を待たずに、己の欲望を深く深く刻み込んだ。



 結果、足腰が立たなくなったシェリルを横抱きで部屋まで運んだら、回復したシェリルに仕返しだと夜まで焦らされまくった。


 ——乱れていく浴衣姿が、控えめに言っても最高だった。




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