第52話 蜜月旅行①
「シェリル、ハネムーンに行かないか?」
「ハネムーン?」
俺はシェリルにひとつの提案をした。
これから先、一ヶ月間も堂々とシェリルとイチャつける休みなんて来ないかもしれない。すでに女王様の許可は取ってある。
このチャンスを逃す手はなかった。
「うん、人間界では結婚したばかりの夫婦が愛を深めるために、ゆっくりとふたりきりで旅行するんだ」
「まあ、ステキね! これ以上ないくらいレオを愛してるけど、行ってみたいわ」
うん、シェリルの愛はこの前の変身薬の件で嫌というほど理解したよ。……とは言わずに、旅行の相談を続ける。
「クリタスで移動もいいけど、移動中の風景も楽しむならウエンティーかな。最初はどこに行きたい?」
「そうねぇ……やっぱりジオルド王国からがいいわ! レオと初めて訪れた外の国だもの」
「わかった。じゃぁ、これから出発でいい?」
「ええ! もちろんよ!」
この世界の幸せを集めたみたいな眩しい笑顔でシェリルはうなずいた。
穏やかな風が頬をなでていく。
ときおり、腕に抱いた愛しい妻の白銀の艶髪が甘い匂いを運んでくる。ふたりとも旅人の衣装を身にまとい、お忍びで旅をする予定だ。
ジオルド王国まで迷彩の森の上を飛び、地平線に広がる景色をたのしみながら今後の予定を立てていく。
思いつくまま気の向くままに行く贅沢な旅行だ。
「ねえ、私ブルーリアでレオとデートがしたいわ!」
「え、そんなんでいいのか?」
「レオと手を繋いで、誰にも邪魔されずに歩きたいの!」
「わかったよ。じゃぁ、またソフトクリーム食べようか?」
「食べたいわ! 今は何味かしら?」
そんな他愛もない会話をしながら、ジオルド王国の王都ブルーリアを目指す。いきなり街中では目立つので、町外れに降り立ち散歩がてら前にふたりで訪れたスイーツ店に向かった。
あの時はもう秋の半ばだったけど、いまは春が終わり夏になろうとしている。
「まあ、あの時よりも活気があるわ! ふふふ、シルヴァとアリエルたちの治世がうまくいっているのね。友人として嬉しいわ」
「あのふたりに任せればこの国は安泰だよ。あ、そうだ、明日の夕方にお忍びで会いたいって連絡来てたけどどうする? たまには学生の時みたいに四人で食事するのも楽しいかと思うんだけど」
「そうなの!? 結婚式ではゆっくり話ができなかったから、ぜひ会いたいわ! ああ、どうしましょう! 今から楽しみね!」
シェリルの長い耳が上下に揺れている。
よほど嬉しいのか、ずっとピコピコ動いていた。それならせっかくだから、あそこがいいか。今夜にでもシルヴァに相談してみよう。
それから俺はシェリルと手をつなぎ、指をからませて街中を散策した。
あのとき溶けてしまっていたソフトクリームにリベンジすると、自然に笑いが込み上げてきた。爽やかなイケメン店長のいる洋菓子店にも顔を出すと、結婚祝いだと大量の焼き菓子を持たされた。
「あの店長さん、とても気前がいいのね」
「ああ、いつも大量にくれるから、逆に顔出しにくくてな……」
「それじゃぁ、いただいた分のお仕事をしましょう! レオ、あそこのベンチがいいわ」
街の広場にあるよく目立つベンチに俺とシェリルは腰掛けた。ジオルド国にも他の種族が入ってくるようになったけど、エルフはまだ珍しいのかシェリルは注目の的だ。
そんなことは気にせずに、さっきもらったばかりの焼き菓子を一口頬張る。
「んん〜〜! レオ、やっぱりこの店のマドレーヌは最高よ! いつも買っているけど、帰るまで我慢できなくらい美味しいわ!」
「ふっ、シェリル口の横にマドレーヌのかけらがついてる」
そう言って、舌でなめとった。
わかってる、注目を集めてるのもわかってるんだ。いや、むしろここまでやるなら、広場中の注目を集めなければ意味がない。
「もう! レオったら、恥ずかしいわ……! でもこのマドレーヌのおかげで片想いが実ったのだから、恋の進展に効果があるのかもしれないわね」
「そうだな、すぐに売り切れるから明日も買えるといいけどな」
俺たちの様子を横目で見ていた女子グループが、一本向こうの通りに向かっていった。あの洋菓子店がある通りだ。
俺もひとつ口に放りこんで、シェリルの口元にも持っていく。餌付けされる雛みたいに口を開けてパクリと食いついた。
ああ、このまま俺がシェリルを食べたい。
そっと周りを見渡せば、カップルたちが一本向こうの通りに向かっているのが見えた。
その後も、シェリルとイチャつきながら半分ほど焼き菓子を平らげた。
「そろそろいいか?」
「そうね、そろそろいいんじゃないかしら?」
そうして俺たちは一本向こうの通りにある、ホテルに向かって歩いた。シルヴァからは城に泊まれと言われたが、今回はお忍びだからと断って王都のホテルに宿を取っていた。
途中にある焼き菓子店を見ると、カップルや女性客たちでてんやわんやしていた。貰った分は恩を返せたみたいでよかった。
ホテルにチェックインして、部屋に入るともう待てないと言わんばかりにシェリルに口付けた。
「レオッ……ふぁっ、待って……んっ」
「無理、待てない。焼き菓子じゃなくてシェリルが食べたい」
そのまま扉にシェリルをもたれかけさせて、柔らかな膨らみや、張りのある大腿をなであげる。
「あっ……待って、こんなとこ……で、んんんっ」
「イヤ? でもメチャクチャ良さそうだけど」
耳まで真っ赤になりながらも、その翡翠色の瞳はやめて欲しくないと雄弁に語っていた。その身体はどんどん熱も持ち始め、俺の手に、舌に、敏感に反応している。
「もう、イジワル……ああん」
「あんまり大きな声出すと廊下に聞こえる」
「っ! ふっ、んん!」
「声、我慢して」
必死に声を我慢するシェリルが可愛いすぎて、止められなかった。俺が満足する頃には足腰が立たなくなっていて、そのままベッドまで優しく運んだけどメチャクチャ怒られた。
ちなみに万が一にもシェリルの可愛いい声が漏れないように、
***
「シルヴァ。悪い少し遅れた」
「レオか、構わないよ。書類仕事をしてたからな」
俺はあらかじ約束しておいたシルヴァとの面会にやってきていた。夜空には月が高く昇っていて、シェリルもアリエルもぐっすり眠っている。
「それで、頼みとはなんだ?」
「うん、もう今日になったけど四人で集まる時に使う場所で提案があるんだ」
「いい店でも見つけたか?」
「いや、店じゃないんだけど……魔法学園の隠し部屋はどうかな? 許可を取れるか?」
そこでシルヴァは腕組みして考え始めた。もちろん事前に申請していれば、卒業生でもあるしさほど難しくはなかっただろう。
ただ、セキュリティ上の問題で当日の申請が通るかどうかだ。
以前に犯罪者(俺の父だった奴だ)がスルッと入ったことから、より申請が難しくなっていると説明してくれた。
そこで秘密兵器を出すことにした。
「シルヴァ、これはリーナが開発した薬なんだ」
「シェリルの妹君が?」
「ああ、獣人族のような耳と尻尾が生える変身薬だ。効果は俺が実証してるから間違いない。ちゃんと人間用に調整してあって、解除薬もセットでつける」
シルヴァが固まった。
「変身薬……だと? 耳と尻尾だと……?」
「ああ、俺は猫耳だったな。シェリルが思いの外気にってくれて、まあ、そのなんだ……メチャクチャ良かった」
「それを先に言え。……後日追加で注文も可能か?」
「もちろんだ。シルヴァにならいつでも用意する」
「よし、明日の朝から入れるように手配する。私に任せろ」
「さすがシルヴァだ。頼んだ」
青い小瓶が変身薬で、赤い小瓶が解除薬だと伝えて、それぞれ二本ずつ渡して部屋に戻った。
アリエルが妊娠中だから、落ち着いてから使うつもりなんだろう。親友が妊娠中の妻に獣耳と尻尾を求めるようなマニアックでないと祈りたい。
なんにせよ、これで準備は整った。
部屋に戻りシェリルを抱き枕にして、眠りについた。
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次の更新は来週です☆
一話ごとのイチャイチャ目指してます!
お楽しみに(*´罒`*)♡︎
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