第46話 番外編③-1
【クリタス】
『あら、今日の相手は強敵ね』
「ああ、今回は流石にクリタスも呼ばないとキツくてな」
『ふふ、任せて』
俺の目の前には白く輝く鱗をもち、まばゆい光線を放つ古代竜がいた。
通常のドラゴンよりも強力で、普通の魔法がほとんど効かないことからレオが呼び出されたのだ。出現したのはジオルド王国で、緊急連絡用に残していたスピリット精霊から知らされた。
眼前にいる古代竜の属性は光属性だ。弱点であるクリタスが必須だった。いつもはシェリルを守るためにつけているが、今回ばかりは呼び出さざるを得なかった。
『
漆黒の鎖が白い巨体に絡み付いていく。意思を持った鎖は、確実に古代竜の動きを封じる。
クリタスから放たれる怨魂は古代竜の硬い鱗を喰い破ってるが、大きなダメージにはつながっていない。
俺はすでに召喚していたハデスで、とどめを刺しに行く。湾曲した大鎌は、獲物の血を欲してギラリと光っていた。
「
大鎌を一振りするたびに、対象の命を刈り取っていき安らかな永遠の眠りを贈る。通常のドラゴンでも二、三度の攻撃で絶命するが古代竜は倒れない。
「さすが古代竜だな」
【ルキス!】
『呼ばれるのを待ってたよ、レオ』
「それなら、思いっきり全力でやってくれ」
『いいねぇ、久しぶりだ。
七色に輝く幾万の光の刃が、古代竜へと放たれた。
クリタスの漆黒の鎖を避けつつ、突き刺さっていく。
「ギャォオオオォォォ!!」
『
クリタスもさらに強力な攻撃で、古代竜の命を削り取りにいく。
そして、俺も渾身の一撃を放った。
「
「ガアアアアッッ!!」
漆黒の大鎌から放たれた本気の一撃で、古代竜はやっと地面に沈んでいった。
『はー、今回は強かったね』
ルキスが振り返る。そういう割にはやけにスッキリした顔をしていた。
『でも、どうして古代竜がこんなところに?』
クリタスの疑問は俺も感じていた。なぜ古代竜がこんなところにあらわれたのか。原因によってはさらなる対策が必要だ。
「そうなんだ、シルヴァが調べてくれるとは思うけど……とにかく帰ろう。シェリルの側に戻りたい」
古代竜の調査と片付けはシルヴァに頼んで、俺はシェリルの元に急いだ。緊急事態でクリタスを呼び出したから、シェリルに精霊王が誰もついていない。
他の精霊王も各地に魔物の討伐で派遣しているから、代わりもつけられなかったのだ。
そしてこれらが全て陰謀だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
***
「シェリルが……いない」
そうだ、シェリルがいない。忽然と姿を消してしまったんだ。
俺が出発するときには、女王の執務室で仕事をしていた。外にいた護衛兵に聞いても、俺が戻ってくるまで誰も部屋から出ていないと話していた。
部屋の中に荒らされた様子はない。書類も書きかけのままで、ペンは机の上に転がっている。
焦燥感と不安と疑問が入り混じった感情が押しよせた。
自分から出て行ったのか? それとも誰かに攫われたのか?
ざわりと感情が波打つ。
落ち着け、まずは何があったか調べるんだ。そうだ、ハロルドだ。たしか画期的な魔道具を発明したといって、自慢されたヤツがあったな。あれを使えば調べられないか?
【クリタス】
俺の影からスルリと漆黒の姿をあらわす。
『レオ、ごめんなさい。私が離れたから……』
「違うよ、俺が呼んだんだ。クリタスはいつもよくやってるよ」
いつもシェリルにつけているクリタスまで、ションボリしている。なにも落ち度などないというのに。
「それで、シェリルのことを調べたいから、ハロルドのところまで頼む」
『わかったわ。スピリットたちにもシェリルのこと探してもらうわ』
「うん、そうしてくれる?」
義母に一時的にエルフの国を頼んでから、魔法研究所へと移動した。
***
「ハロルド」
「うわっ! だっ……レオ!? あー、ビックリした。せめて前から声かけてくれよ」
クリタスで音もなくあらわれて、背後から声をかけたから驚かせてしまった。いや、そんなことよりも、火急の用件があるんだ。
「魔道具を貸してくれ。シェリルの行方を追いたい」
「……何かあったのか?」
俺の様子から緊急事態だと感じ取り、ハロルドも所長の顔になって応じてくれた。
「シェリルが消えたんだ。何があったのか調べて、必要なら敵を殲滅する」
「そういうことなら、この魔道具だな。その現場で使えば、一週間前まで遡って何が起きたのか調べられる」
「助かる。それじゃぁ……」
「待て、オレも一緒に行く」
硬い決意がにじんだ瞳は、真っ直ぐに俺を見据えていた。
「え、だってここはどうするんだ?」
「何言ってんだ、こんな時のためにカーターがいるんだろ。それにレオが困ってるなら力になりたいんだよ」
「うん……ありがとう」
俺の返事を待たずに、ハロルドはカーター副所長を呼びつけてあれこれ指示を出していた。当たり前のように力になってくれるハロルドに、不安な気持ちが少し和らいだ。
クリタスの影移動でシェリルに執務室に戻ってきた俺とハロルドは、早速魔道具を起動させる。
部屋の真ん中に円柱型の透明な道具を置いて、ハロルドが魔力を込めていく。すると魔道具が淡い光を放ち部屋の中を照らしていった。
すると、部屋の中に一週間前のものと思われる俺とシェリルが浮かびあがる。色褪せていて透けているからすぐにわかった。
ハロルドが再生速度を調整して、一時間を十分程度で見れるようにした。
うん? ちょっと待て、俺たちがイチャイチャしはじめたな?
あれ、これはもしかすると、日々のイチャイチャしているのや、三日前の激しいヤツも映るのか? ダメだ、あんなシェリルを俺以外に見せるわけにはいかない!!
「っだぁ!! ストップ! ハロルド、スト————ップ!!」
「な、何だよ?」
ハロルドはすぐに止めてくれたが、すでに一週間前の俺の手はシェリルの美しい太ももを撫で上げているところだった。
シェリルを見せたくないはもちろんだが、こんなところをハロルドに見られるのは、恥辱プレイ以外のなにものでもない。
「に、日時を指定して見れるか?」
「ああ、できるけど……あー、そういうことか。お盛んだな、レオ」
「うるさい、シェリルが可愛すぎるんだよ! ちゃんと休憩時間に……くっ、いいから、今日の分から見せてくれ」
これ以上墓穴を掘らないように、さっさと設定を変えてもらう。ついでに再生速度は二倍にしてもらった。早すぎて情報を取りこぼしたくないからな。
ていうか、出来るなら最初からやってほしかった。
気を取り直して、今朝俺が出かけた後から再生してもらう。
ひとり執務室の残ったシェリルが映し出された。黙々と仕事している。さすがシェリルだ、仕事してても佇まいが美しい。
「……なんだコイツら?」
突如黒いフードに仮面をつけた輩が五人もあらわれた。シェリルも驚いている。そのうちのひとりが、素早くシェリルに腕輪をつけた。
間髪入れずにボール型の魔道具をシェリルにむける。すると空間が歪んでシェリルが取り込まれた。魔道具はパタリと閉じられ、魔石らしきものが光りはじめた。
シェリルを取り込んだボール型の魔道具を袋に入れて、五人は一瞬で姿を消した。
「おい、これは……」
「ああ、シェリルが
————世界はある意味、危機を迎えていた。
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