第30話 因果応報

「随分大きな音が聞こえてきてたんだが…何があったんだ?」


 扉から出ると、待ち構えてたかの様に刀を持った男が壁に寄りかかり此方を見ていた。


「…少し話し合いをしてただけだ」

「お、おい!」


 俺は男にそう伝えると、そこからすぐに離れた。


 しばらく歩き、また先程の玄関先へと着く。


 そこでは槍の男と見張りの男が2人が此方を見てニヤついていたが、俺の様子を見て表情を変える。


「何だ? お前頭領と会ったんじゃないのか?」

「さっきの物音からしてボコボコにやられたと思ってたが…」

「まぁ、その方が良い! リベンジのしがいがあるってもんだ!!」


 見張りで頭領に掛け合った者と、槍の男は俺に話しかける。


 もう1人の見張りの男は、関係ないと言わんばかりにナイフを持って此方に走ってきた。


 ……もういいな。アマンダとは話をつけた。


 胸糞悪い話しやがって……


 男は颯太の腹めがけてナイフを突き出す。


 颯太は掌で男の腕をはたき、腕を掴んだ。そして、男が突っ込んできた勢いをそのまま利用して投げ飛ばした。


「ガハッ!」


 男は地面に強く背中を打ちつける。


 持っていたナイフも落とし、男は苦しそうに地面をのた打ち回る。


「懲りないなお前も」

「俺が勝てなかったんだ。お前ごときが勝てる訳ないだろ」


 俺が男を投げ飛ばすと、呑気に2人がゆっくり此方に肩をすくめ呆れた様子で近づく。


「う、うるせぇ!!」


 男は唾を飛ばしながら叫ぶ。


 ……うるさい。


 俺は男が先程まで持っていたナイフを地面から拾った。


 そして転がっている男の近くにしゃがみ込んだ。


 ドスッ


「ゴフッ!!」


 男から空気が漏れ出る様な音が鳴った。


 口からは赤い液体が大量に出てくる。


「なっ!?」

「おい!! 何しやがる!?」


 焦った様子で、見ていた男2人が近づく。


 しかし、その者達の動きは颯太に『固くなれ』と言われた後突然止まる。



 颯太は男の腹へと深く、深くナイフを突き出した。


 それはゆっくりと…時間をかけて…痛みを心に刻む様に刺された。


「て、てめ……」

「お前のやった事は許されない事だ…分かってるか?」


 颯太は続けて言葉を紡ぐ。


「人を傷つけて…のうのうと生きている奴がいる。虐げられてきた者は何もしてない筈だ…俺らが何をした…!!」

「…す、すま」

「…罪を犯した者はいつか天罰が下る。お前はそれが今だった。それだけだ」


 颯太は突き刺していたナイフを一気に引き抜いた。それと同時に男の腹からは大量に血が溢れ出る。


「人の人生を狂わせた…それを後悔もしないで生きてるのは死に値する。まぁ遅かれ速かれアマンダにやられるだろうしな」


 もう一度颯太は男の身体へとナイフを突き出す。


「じゃあな」


 ドスッ


 胸からナイフの柄が生える。

 男の辛うじて動いていた瞳が止まり、光が無くなる。


「テメェッ!!」

「クソッ!! なんて事しやがる!!」


 物体支配で拘束している男達の目からは涙が浮かぶ。


 それを見た颯太は思わず頰を緩ませた。


 お前らが涙を流すのか……お前らが傷つけた者には家族がいて、誰かしら大切な人がいた筈なんだ。その人らだってお前らの様に涙を流した筈だ…


 俺は立ち上がり、男達に近づく。


「因果応報だ。じゃあな」


 俺はそう言うと、男達の頸動脈辺りを掻っ切った。




 颯太は呆然としながら、自分の手を見つめる。


 初めて自分の手で人を殺した。


 皮を切る感触が、肉を切る感触が、手に残っている。


「思っていたより…何ともないな」




 ……いつか俺にも天罰が下る、だがそれは今じゃない。


 俺は死なない。世界をぶっ壊すまでは。




 颯太はAOSの屋敷の門を潜った。




「ったく…あの歳であんな事を…化け物だな。ウチの大将と何があったんだが」


 刀を持った男が物陰から颯太を見つめる。


 その男の懐から五角形の物体が顔を覗かせていた。






「ふぅ…」


 俺はAOSの屋敷から出ると、大きく息を吐く。


 一先ず明日…いや、もう今日か。今日は花形食堂でずっと待機だな。


 アマンダが間に合わない可能性はハッキリ言って大いにある。今日明日で花形食堂の犯人を見つけ出すのは無理があるだろう。


「今日は徹夜か…?」


 颯太は欠伸をしながら、歩を進めた。

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