第39話 製作屋ジャック

「………」


 颯太は立ち尽くす。目の前の光景に。あまりの異様な光景に。


 目の前には鬼の像が建っている。大きさは高さ3メートルぐらい。横は2メートルぐらいだろう。それが道ギリギリのサイズで置かれていた。


「何だこれ?」

『お前は何者だ?』


 何処からともなく声が聞こえてくる。


 それは颯太の身長よりも上の方から聞こえた。


 像が俺へと話しかけていたのだ。もう何も驚く事はないと思ってたが、少し驚いた。でも…機械的な音じゃない。人間の声だ。


「俺は颯太だ」

『別に名前を聞いてるんじゃない。お前はゾイを知ってるのか?』

「あぁ。ゾイから地図を貰ってきた」


 俺はそう言うと、ボロボロの地図を上にかざす様に見せた。


『成程…本当らしいな。今開ける。待ってろ』


 その後すぐにブツッと言う音を立てて、音は聞こえなくなる。


 何だ? アイツが例の物を作ってくれている奴なのか?


 ズズゥン


 物凄い音が響き渡る。


 そして、俺が見上げていた像が動き出す。


 鬼は徐々に上げていた両腕を床へと降ろしていく。その姿はまるで土下座。


 ズゥン


 鬼の両手の拳が床へと着く。そして少しずつ鬼の頭が下がる。


 下がり終わると、鬼の真上にある天井から梯子が降りてきた。


 …忍者屋敷かなんかか? 此処は…


 そんな事を思いながら、俺は梯子を登るとあったのは、全体的に黒々とした部屋。照明はドス黒い赤の光が出て、取手がピエロを形どったピンクのタンス。悪魔が不気味に微笑んでいるかの様な絨毯等、不気味な家具が揃っている。そして、壁には血が飛び散ったかの様な模様が付いている。


 …まぁ…人には色んな好みがあるし。


 俺が呆然としながら部屋を見渡していると、部屋の奥からモジャモジャの男が出てきた。


「悪かったな。よく来た」


 髪型、眉毛、もみあげ、髭。何もかもモジャモジャ。あまり背は高くない男が腹を掻きながら出てくる。


 身長は160ないぐらいだろう。


「アンタは?」

「俺は製作屋、ジャックと呼んでくれ」


 製作屋。て事は俺のアレを作ってくれてるのはコイツか。


「ジャックか。宜しく」

「こりゃあ珍しい。infの奴が挨拶を交わすなんて」


 そう言って俺とジャックは固く握手を交わす。


 筋骨隆々とはこの事を言うんだろう。ジャックはTシャツ短パンで、上半身に関してはパツパツで今でも破けそうだ。それに、握手した手が離した後でも少し痛い。


「俺はただの知り合いだ」

「あん? 証を持ってんのにただの知り合いって事はねーだろ?」

「証?」


 俺は首を傾げる。


「おう。外で出してたやつあんだろ」


 ジャックがそう言うと、手で五角形のマークを空中で描く。


 あぁ。もしかしてこれか?


「おぉ、それだそれ。随分ゾイに手掛けられてんだな。珍しい事もあったもんだ」


 手を掛けられてる? この証にはそんな意味があったのか? 知らなかったな…後で詳しくゾイに聞いてみるか。


「ま、そんな事よりあの依頼の事で来たんだよな? 残念だがまだ出来てねぇぞ?」

「なっ!」

「当たり前だろ。これでも急いでやってんだ」


 1人でやっているみたいだし…ゾイの言うからには闇組織御用達の製作屋らしいからな…。我儘は言えないか。


「いつ出来る?」

「あと最低でも2日かかる」

「…もっと早く作る事は…」

「俺は作るなら完璧がモットーでね。それまで我慢出来ねぇなら、この依頼はキャンセルとさせて貰う」


 …コイツの性格は頑固。物を作る拘りもある。職人気質。


「そうか…分かった」


 今は此処で縁を切るのは勿体無い。ゾイが勧めるぐらいだ。凄い人物なのだろう。


「その代わりと言っちゃ悪いんだが…」

「ん?」


「…構わないが…お前、何する気だ?」

「別に…ただの暇つぶしだよ」


 俺はそう言って部屋から出て行った。






 とある倉庫前。


「此処が依頼の場所か?」

「はぁ〜…だりぃ。さっさと終わらせて金貰ってオサラバしようぜ」


 男達が大型のトラックに乗り、依頼人を待つ。


「このぬいぐるみだっけか? 運ぶだけで5000万。こんな簡単な仕事あっていいのかよ?」

「バカ野郎…普通に考えて危険な仕事だって事だろ…そろそろ気を引き締めろ…時間だ」


 ガッ ガガンッ


「「っ!!?」」


 左方から何か物が落ちた様な音が響く。


「…今のは…」

「俺が見てくる」


 助手席に乗っていた男が、トラックから降り、左方にある倉庫の扉を警戒しながら少し開ける。


 そして、運転席に座っている男を手招きする。


「アタッシュケースが置いてある」


 男はなるべく小声で言った。それを聞いた運転席の男は歯を剥き出しにして、トラックから降りる。


「マジか!」

「あぁ。アレが恐らく金なんだろうが…お前は此処で周りを警戒しといてくれ」

「任せろ!」


 1人の男が、開けた倉庫の真ん中に落ちているアタッシュケースに近づく。もう1人は倉庫の入り口で周りを警戒する。


 一歩一歩。アタッシュケースへと男が近づく。


(よし…! あともう少し…!!)


 男は手を伸ばした。


 しかし、男の手はアタッシュケースを触れる事は無かった。


 バァンッ!!


 倉庫内に銃声音が鳴り響いた。


 男の頭には風穴が開き、血が止めどなく流れる。


「な、な…!?」


 倉庫の入り口にいた男はあんぐりと口を開ける。


 そして、急いでトラックに向かって走る。


 バババババァァァンッッッ!!


 幾つもの銃声音が一斉に鳴り響くと、その一帯に静寂が訪れる。


 倉庫の入り口で周りを警戒していた男の身体は、何十もの銃創が出来た。




「今回も上手く行きましたね」


 1人のスーツを着ている男が呟く。


「はい。ここまでバカが集まるとは」


 その周りに控えるのは、同じくスーツを着用している男達が数名。皆、その通りだという風に頷き、笑い合っている。


「この世にはバカが多い。この調子でもっと稼がせて貰いましょうか。外にあるあの薬でね」


 男達は下卑た笑顔を見せる。この後どれ程の金が彼らに入るのか。簡単に想像できる様な表情をしていた。


「さっ、早くトラックを回収しますよ」


 男がパンパンっと手を叩くと、男達が遺体の処理、トラックの移送等、薬物の移動を開始する。


 男達は散らばり、1人リーダー格の様な者と遺体を処理しようとしている数人が、そこに残される。リーダー格の男は懐からタバコを取り出し、ライターでタバコに火をつけた。


「ふぅーーー……」


 1仕事終わった後の1服。その男は、上に向かってゆっくりと煙を吐いた。


 男達のこの仕事は、もうこれで何十回も成功させており、慣れたものだった。


 だから油断するのも仕方のない事だったのである。


 バタンッ!!!


 すると突然、倉庫の扉が勢いよく閉まった。

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