第38話 近未来

「…階段?」


 颯太は、いきなり出てきた階段に目を丸くする。


 先程まで普通だった筈の地面が、少し目を離した隙に突然無くなり階段が出来ていたのだ。驚きもする。


 だが、颯太の頭の中ではそれと同時に地図の場所は此処で合っていたという安心が、頭の中で浮かんだ。


 行くか。


 颯太は階段を降りていく。


 階段の途中には電球が設置されていた。地下の階段は思っていたより汚くなく、逆に綺麗だと思う程に空気が澄んでいた。


 APNの地下は基本埃っぽい。初心者が頑張って穴を掘り進めた様なデコボコな地面があり、少し走れば砂が舞う。


「おいおいおい…!!」


 だが此処は違った。


 颯太が最後まで階段を降り切った先に待ち受けていたのは、限りなく近未来な物だった。


 そこは地上の暗い路地裏からは想像できない光景だった。


 下を向くと舗装されている道が、右を向くと草原が、左を向くと川が流れている。上を向くと燦々と光り輝く太陽があった。


「地下…だよな?」


 颯太は階段を見つけた時以上に目を丸くさせる。そしてオタク心をくすぐられ、道から外れ歩き出す。


 ガンッ


「っ!!」


 硬質な物と当たった様な音を立て、颯太の額が肌色から赤色へ変化する。


「…痛い。何だ? 壁?」


 手を伸ばすと、壁の様な物が目の前に立ち塞がっている事が分かった。遠くには草原がある様に見えたが、それは触れる事が出来ない。スベスベとした壁しかなかった。


 よく見ると、小さな四角い物が乱列されており、その1つ1つが草の色を再現している。


「これは…ホログラムってやつか?」


 颯太の言う通り、これは草原や川、太陽をリアルに再現したホログラムだった。


 音もよく聴いてみれば、周りに設置されたスピーカーから流れおり、どこか歪だった。


 …使っておくか。


「空間支配、発動」


 すると、颯太の頭の中に周りの構造が立体的に映し出される。


 …やはり周りは壁だ。


 壁は途切れる事なく奥へと続いている。そして、下のホログラムと同じ様に道なりに通路が進んでいた。


 なるほど…俺が興奮して道から外れなければ、壁にぶつかる事はなかった訳か…はぁ。


 颯太は自分の浅はかな行動に溜息を吐き、道のりを進んでいく。




「ん? 入り口に人? ゾイの奴か?」


 部屋に設置されているセンサーから音が鳴った。


 モニターを確認すると、どこからどう見ても陰キャでチビの眼鏡がそこに居座っていた。


 何だ? 迷ったのか? ちっ、こちとら忙しいってのに…。


 男はボーッとしながらモニターを見ていると、その眼鏡がある物を取り出した。


「あ、あれはinfの…?」


 そいつはinfの証、五角形の内側の周りを線で五角形を作り、その頂点が全部黒い点が描かれていた。その中には帽子を被った男が壁にもたりかかっている姿が描かれている。


 この五角形の頂点に描かれた黒い点。これは数によって、その証の所持者がその組織によってどれだけの人物かを証明する物だ。


 それがコイツは5。最高クラスだ。infはコイツを大事に扱っていると言う事。


 …こんなガキを?


 男の頭の中では、自然に疑問が浮かんだ。


 infは日本でもトップクラスの情報屋。そう簡単にはこの証を渡す事はない。


 それがこんなガキが持っている筈はない。そう判断した俺はモニターから目を離した。そして金槌を手に取る。


 こちとら依頼が溜まってんだよ…。


 そして大きく振りかぶる。そして、


『ゾイの奴…』


 モニターからそう聞こえた。


「な…コイツ、ゾイの事知ってんのかよ…」


 ゾイの事を知ってるって事は、もう確実だ。証を偶々に拾ってやって来た唯のガキじゃねぇって事。infと何らかの関係があるガキ。


 男は金槌を置き、近くにあったボタンを押す。


『何だ!?』


 モニターの中では慌てふためき、辺りを見渡しているガキ。


 はぁ…新人が出来たなら1度直接連れて来いって言ったのによぉ…。


 男は弱々しくぼやいた。

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