第37話 署と例の場所

「はい…失礼します」


 バタンッ


 部屋の扉が少しうるさく閉められる。


「ふぅ」


 ガチャ


「…誰だ? さっきの少年は?」

「お、おはようございます! 田中警部!」

「あぁ、おはよう。それよりさっきの少年は何なんだ? 微かに殺気が出てた気がしたんだが…」

「あぁ、アレですか? 昨日捕まえたドラッグの平凡者が居たじゃないですか? アイツの知り合いらしいです」

「あー、アイツのか…」

「最近知り合ったみたいでドラッグの事も知らなかったみたいですけど…まさか2人とも平凡者とは…」

「…平凡者……」

「どうしたんですか?」

「いや、何でもない。そう言えばあの件はどうなった?」

「は、はい。まだ確かな証拠は…」






「最悪な気分だ」


 颯太は1人、道端で呟いた。


 最近は人生を変える様な出来事が多くあった。


 進化を果たし、闇組織に入り、学校の連中にこれまでの事を偶々だがやり返す事が出来た。一昨日は闇組織の頭領とも話した。


 そう、何もかも上手く行っていて少し調子に乗ってたかもしれない。


 そこで足下を掬われた。


 何もかも上手く行く人なんて存在しない。いたとしらそれは人間じゃない。


 神ぐらいだろう。



 自分の人生なら、自分が変われば良い。


 簡単ではないが、単純だ。




 しかし、


 他人の人生を良い方向に進ませる事は複雑で、難しい。




「…気づいてやればよかった」


 最初から思えば変だった。凄い元気な奴だと思ってしまった。ドラッグの所為だなんて1ミリも思わなかった。


 夜中、あの部屋であった時気づくべきだった。あの時気づいてれば花見は…



 いや…やめよう。もう終わった事なんだ。



 こんな過去の事を振り返るよりもも………やるべき事はあるよな。


 颯太はいつもの道をいつも通り行く。


 その背中からは何かを成し遂げる様な、そんな気概が感じられた。







「……朝っぱらから何の様だ」


 午前8時。infのアジトの入り口で颯太は首下がヨレヨレの服で、目の開いていないゾイの寝起きの顔と対面していた。


「"例のもの"は?」

「あぁ?」


 ゾイが機嫌悪そうに頭を掻きながら声を荒げる。


「前取引しただろ?」


 俺が一言そう言うと、顔つきが少し変わる。少しだけだが目が開き、不機嫌そうな顔が少し和らぐ。


「あれか…そろそろ出来てるか?…まぁ、まだ店から何の連絡も貰ってねぇから出来てねぇとは思うが…お前が様子見て来いよ」

「は?」


 ゾイは1度アジトの中に入り、5分程したらまた出てきた。


 折り畳まれた紙をゾイから手渡されると、


「あの証渡したろ? この場所に行って証見せれば大丈夫だ。じゃあな」


 ゾイはそう言って、早々に欠伸をしながら扉を閉めた。


 行くって…何処に…あっ、これか?


 ゾイから渡された少しボロボロな紙を広げる。そこにあったのは緻密に書かれた街の地図。颯太はその中に1つ、赤いペンで丸が書かれている所を見つける。


 なるほど…此処か。面倒だが後々の事を考えれば行った方が良いか。


 そう考えた颯太は紙をポケットに入れると、目的地へと歩き出した。




「はぁ…」


 1人の男が奇抜な部屋の中、大きく溜息を吐いた。照明はドス黒い赤の光がその男を物語の主人公かの様に照らす。


 取手がピエロを形どったピンクのタンス。悪魔が不気味に微笑んでいるかの様な絨毯。壁には血が飛び散ったかの様な模様が付いている。


 そして部屋の奥には、その部屋には絶対合わないであろう綺麗で銀色に光り輝くテーブル。その上には使い古されているのか傷だらけの金槌。その他工具が置かれていた。


「早く世界滅亡しねぇかな…」


 男はそう呟くと、テーブルの上にある金槌を手に取った。


 そして、ある物を見つめて金槌を上に大きく振りかぶった。




「此処が例の場所らしいが…」


 颯太はとある路地の突き当たりで立ち尽くしていた。


 颯太が見つめていた場所には何も建物がなかった。何かバレない様な仕組みでもあるのだろうかと、周りを隈なく探しても何の手掛かりも見つからなかった。


「あいつ…間違えて地図を渡したのか?」


 確かに渡された地図の記された所に来た筈だ。しかし、何も無いと来たらゾイの間違いだと自然と思うしかない。


「これを出せば良いって言ってたからちゃんと持って来たのに…」


 颯太は懐から五角形で作られたinfの証の様物を取り出す。


「とんだ無駄足だった…か」


 颯太は手に取った証を見つめて、落胆した様な表情を浮かべた。此処まで来るのに1時間。infのアジトに戻るとなると合計で2時間も掛かっている。そんな表情になるのも無理はない。


 時間はまだあると言え…あまり時間を掛けたくなかったな。


 颯太は後ろを振り向く。


「ゾイの奴…」


 ボソッと名前を呟くと、それは起こった。



 ゴゴゴゴゴッ!


 地響きが起きたかと錯覚する様な、大きな音が辺りに鳴り響く。


「何だ!?」


 颯太がまた振り返った先には、地下へと続く階段が存在した。

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