第40話 金木成

「何ですか? 今の音は?」

「誰かが扉を強く閉めたのでしょう。早く処理を進めて下さい」


 肩を竦めて言うと、部下の数人が処理を早める。


「ぐおっ!」

「かはっ!?」


 しかしその瞬間。周りからググもった声が聞こえ、振り返る。


「っ!!」


 男はその目の前の光景に、急いで懐の拳銃を取り出して辺りを見回す。



「……クソッ」


 だが、倉庫の中は薄暗い上に、大きな荷物が多く存在し、誰かが侵入して隠れていたとしても見つける事は困難だった。


「誰か扉を開けなさい!!」


 そう叫んだ。仲間からの声が返ってくる事はなく、代わりに違う声が聞こえた。


「もう誰もいないさ」

「…! 貴方は誰ですか?」


 男は、背後に鋭い物を突きつけられている事を感じ、振り返る事なく質問する。


 返って来たのは、冷淡な声音で一言のみ。


支配者ルーラー






(上手く行ったな)


 颯太はアイスピックを後ろ首に突きつけながら思う。


 日下さんの言う通り、倉庫に物を届ける依頼はドラッグの受け渡しだった。


 そして試しに倉庫を張ってたら、これだ。

 最初からこんなドンピシャに当たるとは思っていなかった颯太は、心の中で少し呆れる。


「支配者、ですか…」

「…そんな事はどうでも良い。拳銃を捨てて両手を上げろ」


 男は言われた通りに両手を上げる。


「…私を殺さないと言う事は…私に何か用でしょうか?」


 そして男は神妙そうに颯太に問いかける。


「外にあるドラッグ…お前らが持っているのはアレだけか?」

「はい…ぐぁっ!!?」


 男の太ももにアイスピックを突き刺す。


「な、何を!?」

「嘘をつくな。俺には分かるんだよ」


 颯太は先程から『空間支配』を発動させていた。


 その為、質問した瞬間、見ていなくても一瞬顔が強張ったのが分かった。

 足を刺したのは、コイツの裾から見える腕から火龍人だと分かったからだ。足に刺せば、身体強化をしたとしても動けない。


 まぁ、今の状態で身体強化してもすぐに刺せるからどうにもならないだろうが。


「ぐっ…まだ組織に存在します…」

「組織の名は?」

「……ぐぅっ!!?」


 もう片方の太ももにも突き刺す。


「……金木成きんもくせい


 男の言った言葉に、自分の顔が少し強張ったのが分かった。


「………金木成、ね」

「ちっ……何で俺がこんな目に…」


 目的にしてた事は終わった。


 だが、その言葉は何だ?


 男に少し苛立った颯太は問いかける。


「…お前、それ本気で言ってんのか?」

「は? 何を言って…いぎぃぃィィっ!?!」


 颯太は男の背中にアイスピックを突き刺すと、それを掻き回す様にして動かした。男の口からは血が吐き出される。


「でめ"ぇ"!!?」


 男が水気のある言葉を吐き出し、振り返る。


「……な"、な"ん…」


 男の目に映ったのは、何処か奇抜な模様が散りばめられ、目元を覆うラベンダー柄の鳥型の仮面だった。


 その仮面には少し血が飛び散り、異様な雰囲気を漂わせている。


「これの所為でどれだけ苦しんでる奴がいると思ってるんだ? お前らの所為でどれだけの人の人生が狂っているのか分かってるのか?」

「す、すび、ずびまぜ…」

「いや…別に謝罪を求めてる訳じゃないさ…物体支配発動、『締め上げろ』」


 そう言うと、男の首元の周辺の服が男の首を締め上げる。


「かっ…か…はっ…」

「ただの独り言…俺は独りなんだから」


 俺は男の息の根を止めると、外のトラックの元まで行き、後ろの荷台の扉を開けた。


 そこには大量のぬいぐるみと、黒いアタッシュケースが2個。


 一つは空っぽだが、もう一つの中は大量の札束が入っていた。


 最初のは空にしておき、自分達の手に負えない相手だと分かったら金を渡すつもりだったのか…? …とことん下衆だな。


 ただの予想ではあるが、クズのコイツならやりかねない。


 颯太はそう思うと、金の入っている方のアタッシュケースを持ち、さっきの奴が持っていたライターでぬいぐるみに火をつける。


 トラックの中にあるぬいぐるみは次々と燃え盛り、暗闇を照らす。


 一応ジャックに作らせた仮面を付けて来たが…要らない心配だったな。


 颯太は今メガネを掛けておらず、仮面の目に度が入っている物を入れている。


 戦闘でメガネは弱点になりかねない。

 そう思っての対策だった。



「金木成、ね…」


 俺はそっと呟いた。


 『金木成』

 それは日本でも一、二を争うと言われる、大企業の名前だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る