第41話 吹と学校

「あら、颯太君。久しぶりね、訓練しに来たの?」


 午前8時を少し過ぎたAPN、カウンターの中で日下さんがコップを拭きながら言う。

 それに対して俺は少し頭を掻いた。


「まぁ…ちょっと時間潰しに…」


 今日は行く所があるから…それまでは此処で少しでも訓練を…。

 そう思いながら奥にある階段へと進み、地下へと向かおうとした瞬間。



「ん、ダメ」


 キュッ


 いつの間に居たのか、吹が颯太の服の裾を掴む。


「何?」

「颯太……学校は?」

「あ…」


 吹に言われ気付く。

 最近色々な事があって忘れていた。


「1週間近く来てない」

「……そうだな…行っとくか」


 そう返事をすると、吹は少し眉を顰めて此方を見る。学校に行く事は普通だけど、この返事は流石に可笑しかったか。


 いや、それよりも…だ。


「何で俺が学校行ってない事知ってんだよ?」


 そう言うと、2人はポカンと頭を殴られた様な表情を見せる。


 別にAPNに来てないからと言って、学校に行ってない事にはならないだろ。そこまで可笑しい事言ったか? そんな事を思っていると、


「あれ? 颯太君知らなかったの?」

「? 何がですか?」


 いち早く意識を取り戻した優理が、颯太へと問い掛ける。


「吹、颯太君と同じ学校よ」

「…………は?」


 ……小さいとか、頭絶対悪いとか、思い浮かんだがそんなの問題じゃない…コイツ平凡者なんじゃないのか? 平凡者だったら俺みたいに…


 颯太の顔から考えを読んだのか、吹が言う。


「私、強い」


 一言だけ…それを言われたらしょうがないか。火龍人よりも身体能力がある平凡者なんている訳ないって思うのが普通だよな。


「なるほどな。じゃあ先に行っといてくれ」

「ダメ」

「……なんで

「休むのダメ」

「やすまないから先に

「ダメ」


 颯太は吹に連れられ、学校へと連れて行かれたのだった。





「おい…あれ…」

「何でアイツと…」


 学校の校門前、周りからヒソヒソと話し声が聞こえる。


 だから先に行けと言ったのに…。

 颯太は大きく息を吐いて、チラリと横を見る。そこにはいつも通り無表情の吹。


「ん、何?」

「いや…何でもない」


 平凡者で馬鹿にされてる俺と一緒に居れば、注目の的になるのは目に見えていた。


 颯太が肩身の狭い気持ちを感じていると…


「あれ? もう学校に来ないと思ってたんだけど…」


 此方にギリギリ届く声量で奴は言った。

 何処がキザで、自信に溢れた顔。総司が目に入る。


「何だよ…」

「…良かった! 心配してたんだよ!? 急に学校に来なくなるから!」


 少し意外そうな表情を浮かべた後、すぐに表情が変わる。まるで本当に心配をしていたかの様な表情だ。


「流石総司君!」

「カッコいい!」

「あんなの心配しなくても良いのに!」


 それに周りの奴等が、アイツを褒め称える様な事を言う。


 もはや笑えてくるな。


 誰だって学校に急に来なくなったら、こんな言葉を掛けるんじゃないか? さっきの顔を見なかったのか? コイツの舐め腐った表情を。

 颯太は眉を顰める。


「ん、何コイツ」


 吹が颯太へと話し掛ける。


「別に、ただの他人だ」


 そう言って、自分を平静に保とうとした颯太は、総司の横を通り過ぎる。


 その瞬間。


 ガッ


「っ…何だよ」

「…何で君が沈黙獣爪カームビーストと、いや…まぁいいか」


 肩を掴まれるが、総司はすぐに離れて行った。


 吹の異名ってもしかして結構有名だったりするのか?


 さっきまで周りから聞こえて来てた話も、俺というよりも、吹が有名だったからか? もしかしたら俺の態度が軟化してるか?


「居るだけで最悪だよね…」

「同じ空気吸いたくないよね」


 …まぁ、だからと言って、俺の学校での立場は変わらないか。


 最後俺が学校に行ったのは集会の時。校長を殺した時だ。


 あんな不可解な死が俺のすぐ近くで起こったんだ。そう思われるのも仕方がない。だが近づいて来ないなら好都合だ。


 颯太はその後、悠々と学校に入り、教室で自分の席に座った。


 何事もなく放課後まで終わったが、授業が終わる毎に吹が、俺が居るかどうか確認しに来たのは正直参った。






「……」






 颯太は学校が無事終わった後吹と別れ、製作屋へと行くと、ジャックの案内である所へ来ていた。


「いい出来だな」

「そうか? まぁ、そう思うなら良いが」


 目の前には大きな部屋。


 颯太がジャックに製作を頼んだのは、高層ビルが立ち並ぶ、間の細い路地の地下に作られた地下室だった。

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