第42話 自室兼物置き

「それにしても、何だってこんな所に地下室なんて…」

「まぁ、色々未来を見通して、な」


 ジャックは腕を組みながら大きく息を吐く。

 やはりこんな都会のど真ん中で地下室を作るなんて、相当な面倒をかけたらしい。


 だが、後の事を考えれば此処に作りたかった。この治安の良さそうな、周りの警備が整っている所に。


「それで?」

「ん? どうした?」

「何でこんな事になっている?」


 地下室の風貌は所々派手で、何処か毒々しい紫や黒が基調とされている。


「この方がイカしてるだろ」


 颯太は頭を抱える。

 本当に頭がイカれてると思う。普通にシンプルな見た目で良かったんだが。


「…まぁいい。他は?」

「天井には通気口、壁は防音、防水、奥にはちょっとしたキッチン、トイレに風呂、それに温度を一定に保つ様に作っている。不便はないだろう」


 …それは数日でやったのか…ありがたい。


「助かった。これは礼だ」


 俺は札束を1つ、ジャックに渡す。


「ん? 良いのか? これは元々ゾルに依頼された事だ。お前からの報酬は必要ねぇぞ?」


 ジャックは押し返そうとするが、颯太はそれに見向きもせずに近くにあった椅子に座った。


「これからも世話になるだろうからな、これからもよろしく頼むって事も含んでいる」

「…はぁ、今回みたいな依頼じゃなきゃ喜んで受けるよ。お前も色々あった様な顔してるからな」


 そう言われた瞬間、颯太の顔が歪む。


「…」

「おっと! 勘違いするなよ? 探る気はないぜ? ただ…」

「…何だよ?」

「お前のその目…似てんだよ…」

「誰に?」

「……さぁな。俺が言えるのは生き急ぐのは良くないって事だけだ」


 ジャックはそう言うと、地下室の階段を昇って行った。




 …意味深な事言ってたな…だけど俺は生き急がないと今の世界やっていけないんだよ。


 このままモタモタしてたら…何もかも押し潰されそうだ。


 颯太は顔を顰め、近くにある椅子に静かに座り、目を瞑った。




 *


 とある高層ビル、豪華絢爛でピカピカと光り輝く一室、そこに2人の男が佇んでいた。


「…この班はどうしたんですか?」

「はい。それが何者かに襲撃を受けた様でして…」

「ふむ…そうですか…」


 その一室には眼鏡をかけた優男が紙を眺めてながら、部下の男へと幾つか問答を繰り返していた。目を細く、口角は上がったまま表情が読めない。


「犯人はまだ見つかっておりません」

「死因は?」

「少々お待ちください……ほぼ全員アイスピックほどの針の様な穴が空いてます。死因はほぼ出血死、ですね…」

「ほぼと言うと?」

「そこを仕切ってたリーダー格の者は"絞殺"になっています」

「…なるほど、なるほど」


 男は頷きながら、高層ビルの下の街を眺める。


「…最近あった殺人…いえ、人が死んだ事件を調べて下さい。それに加えて近くに設置してある防犯カメラの映像も」

「はい。かしこまりました」


 部下の男は浅く礼をすると、部屋から出て行った。


 優男はキャスターのある椅子に深く腰掛けると、足を組んで紙をもう一度眺めた。




「これは"金"になりそうですね」


 男の口角は一層上がった。

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