第43話 APNへの依頼
「……それで? 何の用だ?」
早朝。颯太は家の玄関にて顰めっ面で、彼女と向かい会っていた。
「今すぐ集合、早く準備」
そこには、寝癖をつけている吹の姿があった。
「…まずは用件を言うべきだと思うんだが……」
「…早くする。私も暇じゃない」
吹は言うと、颯太を引き寄せ抱き上げる。
いつ自分の家を知ったのかは分からないが、何故今日に限って此処に来るのだろうか。昨日なら、あの地下室でゆっくりとしていたのに。
颯太はそんな事を思い浮かべながら、吹へと大人しく担がれて行った。
そしてAPNバー。
「良さそうな依頼が入った!!」
翔が眠そうな3人を目の前に叫んだ。
依頼、か。
「はわぁ……何の依頼?」
「都心で行われるオークションで出される商品の護送、そしてオークションの警備だ!!」
優理が欠伸を噛み殺しながら聞くと、翔が高らかと叫ぶ。
闇組織の依頼としては普通か?
「報酬はどれくらいなんですか?」
「大体5000万ぐらいだな」
「ごっ!?」
思わず口から変な声が出る。
「こっちの世界ではこれが普通ぐらいなんだよ?」
「そ、そうなんですか…?」
「ま、命を張ってると思えば妥当な値段じゃねぇか?」
これが妥当なのか……こっちではコレが普通、覚えておこう。
俺は闇組織の常識を頭に刻みながら、会話を続ける。
「この依頼はいつやるんですか?」
「今日!」
「は?」
「今日!!」
胸を張り、翔は言う。
「…………急過ぎません?」
「颯太君…翔の奴いつもこうなのよ」
まぁ、俺が今出来る、やりたい事はほぼ無い。APNに貢献してないから脱退、なんてのもおかしくないだろうしな。誰が好き好んで平凡者を仲間に……
「颯太〜! 初めての依頼だな〜、緊張してるか〜?」
翔は颯太の肩をぐっと引き寄せて言う。
居たよ…。
「…特には」
「嘘つけ〜! だって命のやり取りだぞ? 怖く無いのか〜?」
翔は颯太の事を平凡者だと思っている。そう思われるのも仕方がない事だった。
颯太は少し間を取り、言いづらそうに言った。
「…勿論、怖いです。だけど翔さん達が居るし、自分もそれなりに戦える様にはなったんで……」
戦闘において。真正面、この距離でなら颯太は3人に敵わないだろう。しかも口に出してからのスキル発動。奇襲された際にはすぐに動く事が出来ない。
だが、颯太はそれなりの修羅場を潜ってきている。些細な自信、立ち振る舞いでもしたら訝しまれるだろう。
何でそんな自信が?
そう思われてはいけない。
さも、弱々しく。だが、少しは自信は付いた少年が口元を隠す演技をする颯太。
「ほぅ〜…だってよ? 吹?」
「……甘い考え」
それに吹が眠そうに答える。
吹と同じ立場なら、俺もそう答えるだろうな。
「よし! じゃあその甘い考えを改めさせてやろうぜ!!」
「おー」
「はぁ、ごめんね」
「別に、気にしてないですよ」
***
数時間後。
「では、よろしくお願いしますね」
「お任せ下さい」
いつもとは違う翔の口調、綺麗なお辞儀。それに颯太は目を見開いた。
「流石に依頼人の前では、ね」
「まぁ、そうですよね」
隣にいる優理が小声で颯太へと伝える。
世理達はあるビルの1室にて依頼人へと会っていた。部屋にはAPNの4人、それともう1つ闇組織であろうグループの4人が依頼人から説明を受けていた。
話によれば……3台の車、その真ん中に商品を乗せた車を配置。それを前後で囲うらしいが……。
「私達、囮?」
「まぁ、そうなるな」
吹の問い掛けに翔が苦笑いを浮かべる。
囲む形ではあるが、商品の乗った車には依頼人の護衛が乗るらしいからな。案の定囮だろう。他の闇組織の奴らも気付いたのか、真っ先に狙われなさそうな後続車に乗る事を断固として決めてたからな。
「ま、依頼人がそうしたいっていうんだから仕方ねぇ。行くぞ」
俺だったら譲らないが……この人は優し過ぎる。
俺は気づかれない様、小さな溜息を吐き、APNの面々の後をついて行く。そして外に出て先頭の車に乗り込む。運転席には翔さん、助手席に俺、後ろに優理さんと吹が乗った。
外に出ると、雨が降っていた。いや、雨というよりも霧に近い霧雨。辺りは見渡しづらいが、車は徐ろに走り出す。
見えるのはポツポツとある何十メートル置きにある街灯の光のみ。
「ふぅー…」
「肩に力が入ってるぞ。楽に行け、楽に!」
「……分かりました」
俺にとっては初めてのAPNのメンバーとの依頼。しかも戦闘があるかもしれない依頼だ。
今回、俺達は仕掛けられる側の人間……今までは仕掛ける側ばかりだったからな。こっちも経験しておいて損は無いだろう。
俺は先頭に乗った事をポジティブに考え、この先にある会場での振る舞い、略奪者との戦闘が起きた場合のシミュレーションをするのだった。
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