第44話 襲撃
前方を走っている翔達の車とは裏腹に、商品を乗せている車では異様なまでの静けさが車内を支配していた。
「ふぅー…」
その中でも、依頼人は大量な汗をかきながら車に揺られていた。
(今回のオークションの大元はあの"金木成"……失敗は許されない…)
金木成は、最近大きなトラブルがあったという噂があり、警備に多くの人を掛けているらしい。
その為、中小企業である運送会社に商品を送る様にした訳だが……
「もっと…もっと事前に調べておけばこんな仕事……」
男が後悔しても、もう遅かった。
ドオォンッ!!!
出発から5分程経った頃。
背後から大きな爆発音、そしてサイドミラー越しに火が燃え上がるのが見える。
(来たか!)
「くっ!! お前らぁ! ちゃんと捕まってろよぉ!!」
翔は見事なドリフトを決め、車が180度回転する。
颯太達は急いで降りる。
「…こりゃあ、無理だな」
隣に居た翔が呟く。
この炎の強さ、爆発の大きさから言って車から飛び降りて避けた限り生存は難しいだろう。
「商品は、どうなったんですかね?」
「まー…壊れてるだろうな。探してみるか」
そう言って探し出そうと車へと近づこうとした瞬間、颯太はある事に気がつく。
(大破した車が1台………後ろを走っていた車はどうなった?)
足を止めて車を見ていると、視界にいた翔が突然居なくなる。同時に、吹と優理が背中合わせになり腰を低くしている。
(クソッ!)
颯太はそれに遅れてアイスピックの針を構えた。
「はははっ! 今回は楽な仕事になりそうだなぁっ!! ガキが2人もいるぜ!?」
大破した車の影から3人の黒服が姿を現す。
見た所…進化先は分からない様にしている。
3人とも服や帽子などで、進化先が分かるような所は隠していた。
「おい! 今ここで死ぬか、それとも俺達に甚振られて死ぬか、どっちが良い!!」
「優理、何か変な事言ってる」
「そうね、随分頭の悪さが滲み出てるわね」
翔さんがやられたかもしれないのに、随分と余裕そうだ。今の所2人にも見えていたと思うが、翔さんは敵に襲われて何処かに消えて見えた。
(3対3…翔さん達を合わせれば4対4か……)
颯太は冷静に目を細め、前にいる3人を見た。
幸い、相手の視線や言動から此方をみくびって見ている事は明らか。
まぁ、それもそうだろう。服もてんでバラバラ、4人のうち2人が子供だ。子供というだけで、身体強化などのスキルは効果が下がる。
(ま、その括りにこっちが当て嵌まったらの話だが…)
「悪いな坊主、こっちも仕事なんだ」
3人の内、1人が此方に来て目の前で拳銃を構える。悪者ではないような、そんな者の言葉が聞こえてくる。
しかし、颯太はそれにすかさず答えた。
「別に良いさ、こっちも良い経験になる」
颯太は口角を上げた。
「空間支配、発動」
俺は空間支配を発動させると、直ぐにそこから横に転がった。
パンッ
男が引き金を引こうとしているのが分かったからだ。
「な、何だ!?」
男は動揺している…そんなに避けられるのが意外だったか? まず対処するのは…飛び道具!
俺は姿勢を低くし、地面を這う様に男へと近づく。
「っ!!」
ここで物体支配を使ったら簡単な話だろうが…それだと簡単にヤれて意味がない。それに加えて俺は今、ただの平凡者。吹や優理さんが此方をチラチラと見守っている中で使う訳にはいかない。
俺は驚いた男の隙を突くと、拳銃を持っている手をアイスピックの柄で拳銃を叩き落とした。
そしてアイスピックを男の体へと突き立てようと振りかぶる。
ーーが、それはギリギリの所で避けられる。
「ちっ! 何だってんだ……」
男の速さが上がった。身体強化…火龍人だったか。
男はファイティングポーズを取る。
そして一気に此方と距離を詰めて、超近距離戦闘を行うのだと颯太は理解する。
(…さっきの早さからしたら……こんぐらいのタイミングか)
颯太はいつも通り、男が突っ込んでくるであろう場所に只々アイスピックを置いた。
「ふぅ…もし、これを最初から使われていたら危なかったかもしれないな」
颯太はアイスピックに付いた血を払いながら呟く。
自分が思っている以上の速さの攻撃を繰り出されたら、空間支配と言えど対処は出来ない。
襲われる側は細心の注意を払わなければならない…良い勉強になったな。
颯太は思ったよりも早く終わった戦闘に息を吐きながら、2人の女性による戦闘に目を向けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます