第6話 創立理由

「闇組織?」


 それって俺がボコボコにされた奴らと同じって事だよな。今此処にいる人達はあの人達と同じ様な組織って事か……。


 俺は少し後ずさり、立ち膝になる。どの様な状況になっても逃げ出す、そんな気持ちが自然と動きに表れてしまう。


「安心してくれ、とは言える立場ではないが……俺達はお前に手を出さない。これは事実だ」


 今度は此方を真剣な眼差しで見つめる。


「ハッキリ言えば信じられません」


 俺は物怖じしない態度を前面に出した。こういう場面で怯えでもしたら、それは相手の思う壺だと思ったからだ。


「そんな態度取っても無駄。ここから逃げようとしても平凡者の貴方なら逃げれない」


 隣から吹ちゃん……いや、吹が淡々と告げてくる。その告げる言葉に自然と冷や汗が流れ、顔が顰まる。


「吹、そんな事を言ってはもっと誤解されるだけでしょう……」


日下さんが眉を抑えながら言う。


「……どう言う事ですか?」

「俺達は闇組織は闇組織でも、この世界を変える為に作った闇組織なんだよ」


 暗海さんは後ろに寝転がり、日下さんは「最初にも言いましたよね」と微笑んでいる。


 それに俺は納得し、少し息を吐いて立ち膝を崩す。


「確か……現代の生活に耐えられなかった者が集まる予定の場所って言ってましたよね?」

「えぇ」

「てことは此処に何人もの人を連れてくるんですか? この地下に」


 俺がそう言った瞬間、暗海さんは大きく飛び起きる。


 ダンッ


「そうだ!! いつかは此処に何人もの人が集まる!! 日本中……いや! 世界中からそんな奴を集めるんだ!!」


 その興奮しきった行動に俺は気圧される。


 この人にとって、これがどれだけ真剣な事なのかが分かる。


 きっとこれがこの人の……


「そして変えるんだ! この世界を!!」


 似ている。俺の夢と……


 しかし、決定的に違う。


「俺は此処に居る奴らと! この世界を平等な世界へと変えるんだ!!」



 平等な世界…。

 なんて魅力的な言葉だろうか。


 この人の夢は


 俺は



 この人は俺が言った言葉に何を感じたのだろう……。俺が夢を語ったあの時の笑みはどういう意味を含んでいたのだろうか。


 疑問は尽きない。




 しかし、俺は此処に居たいと思えた。此処に居たら3人が先程戯れていた様に、俺もその輪に入って行きたいと、そう思ったから。



 俺は暗海さんがちゃぶ台の上で夢を語り続けるのを見上げる。途中で、日下さんがその演説の様な語り部から我に帰ると、そこから暗海さんを引き摺り下ろし、頭にタンコブを作った。


 その光景を見て俺は、


「ふっ、まぁ悪くないか」


 そう小さく呟いた。






「……」


 そんな中、1人、吹は無表情で颯太を見つめる。

 何故颯太を見つめているのか、無表情で理由はよく分からない。

 しかし、ちゃぶ台の下で何故か、彼女の拳は強く握り締められていた。






「いつでも来いよ、颯太!」

「……気が向いたら来ます。暗海さん」

「そんな苗字でなんて、翔でいいぜ!」

「私も優理で良いわ」

「なるほど……考えておきます」


 俺はそう答えると、足早に帰路につく。

 後ろを振り返ると、そこには笑顔で手を振る2人と、無表情で此方を見つめて居る少女の姿があった。


 俺はそれに何も返す事なく、前を向き直り歩く。


 しばらくして、俺は空を見上げた。

 日は沈み、雨は止み、暗闇が訪れている。そして、蛙の声だけが静かに聞こえてくる。歩を進める度に、パシャパシャと水飛沫が立った。

 普段なら鬱陶しいと思うのだが、今日だけは何故か気分がいい。

 気分が悪くなる事も、勿論沢山あった。しかしそれ以上に、新しい出会い、場所、そして自分が進化した日……。


 あまりに非日常な連続が続いたが、今までの人生で初めての体験。しかも自分の進化先はクインティプルホルーダーの可能性がある……!


 俺は高鳴る鼓動に、連動する様に身体を揺らした。






 この日、似て否なる夢を持つ2人は出会った。この先2人はどの様な道を辿るのか、どんな結末になるのか、


 それは、神のみぞ知る。

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