第5話 APN
「そ、それがだな優理? う、運命的な出会いが
「それと私達の年に1度の会合に遅れる事と何が関係あるんですか?」
暗海さんの言葉を遮り、彼女は笑顔のまま迫る。
「もう2時間です。2時間もの間、貴方は私達の時間を無駄にしたって事何ですよ? 理解していますか?」
「…分かったから…顔近いって」
そう言われると彼女は大きく溜息を吐いて、仕方ないとでも言う風に一歩下がった。
……なんか、怖そうなお姉さんって感じの人だ。
「で? 何故、
「あ、あぁ、それは
「パチンコ行くから大門の所で、"優理が外に来ない様に見張ってろ"って言われたから今一緒に来た」
先程のゆったりとした話し方ではなく、少女は淡々とした話し方で話した。
ってか、パチンコ行ってたのかこの人。
「お(まえ)! バッ(カ)!!」
威厳に満ちていた声が、聞くからに震えていて頼りない……さっきまで尊敬、とまでは行かないが助けて貰った事もあって、感謝の気持ちは少なからずあったがーー。
「翔? 後でちゃんとお話しましょうね?」
「……はい」
皆無になった。
暗海さんは俯きながら少女の方を睨んでいる。少女は何処吹く風だ。
「それで」
彼女が此方を見てくる。
「そ、颯太の事か! いや〜、アイツに今日運命感じちまってよ〜! だから遅れたんだよ!」
「ふーん……」
彼女は先程の少女と同じ様な反応を見せる。
少し顎に手をやって考える素振りを見せると、近づいて来る。
「私は
「…七瀬颯太です。よろしくお願いします」
耳がエラの様になっている…進化先は海深人か。まぁ……今の所は悪い人ではなさそうだ。
俺は彼女を観察して、情報収集を続ける。
「あの、それよりも此処何処なんですか?」
「……はぁ、成る程。何も聞かないで此処に来たんですね。分かりました、説明しますね」
日下さんは少し呆れた様子で暗海さんの方を見る。暗海さんは「時間がなかったんだ!」と抗議している。
「此処は"APN"、今の現代の生活に耐えられなかった者が集まる予定の場所」
日下さんは階段下の住居を見て呟く。その姿には何処か悲しげな感情が詰まっている気がした。
「予定の場所?」
「そう。此処、まだ出来たばかりなの」
「後はこっちに来てから話すわ。ついて来て」
「……」
日下さんはそう言うと、暗海さん達の所へ行く。暗海さんと吹ちゃんは喧嘩をしている様にも、じゃれている様にも見えた。暗海さんが吹ちゃんの両ほっぺを前後左右に引っ張っている。
それを日下さんが暗海さんの頭を殴り、止める。
(……仲良いんだな)
今、あの様な友達が居たら俺はどの様な生活を送っていたのだろうか…。学校生活でも誰にも虐められず、好きな事を共有し合う事が出来たのだろうか。
「さっ! ついて来て颯太君」
日下さんは笑顔で此方を見る。何処か此方に気を遣った様な表情。
そう言えば……いきなり連れて来られた俺を何故こんな秘密にしている様な所に連れて来たんだ?
「どうした颯太?」
僕の訝しむ気持ちが表情に出ていたのか、暗海さんが話しかけてくる。
「……俺をこんな所に連れて来てよかったんですか?」
俺がそんな事を聞くと、暗海さんは言う。
「俺が気に入ったから良いんだよ」
そう言うと、俺達を見守るかの様に見ている2人は何も言わない。
「……そうですか」
……バカな人達だ。これで僕が此処の事を話しでもしたら此処は壊される可能性が、いや壊されるだろうな。
そう思っているうちに、3人は奥へと進んでいく。
「……」
俺は3人よりも5歩離れてついて行った。
「まだこっちは未完成なんだ」
そこにあったのは、地面に置かれた昔ながらのちゃぶ台、その周りにある4つの座布団。
「……ここは屋根も壁も無いんですね」
だだっ広い地に、ただのちゃぶ台と座布団が置かれているだけ。その周りには何もない。
「別に地下だし、雨も風も吹かねーから気にすんな」
そう言うと暗海さんは座布団へと座る。それに2人も続いて座った。
「貴方も、座って良い」
吹ちゃんに言われ、暗海さんの隣へと座る。
「座らせるって事は……またあの人は休み?」
「うん」
日下さんは大きく溜息を吐いた。
「1年に1度の会合で、3年も来ないとかあり得ないでしょ……」
「アイツも何かと忙しいんだろ、別にこの会合もただの世間話になって来たしな」
日下さんは頭を抱えて唸り、暗海さんは頬杖をつきながら、つまらなそうに言う。
「あの、その人の事はどうでも良いんですけど……先程の話の続きを教えて下さい」
そう聞くと日下さんが「あっ」と忘れてた様な反応を見せる。
「……忘れないで下さいよ」
「ご、ごめんなさい。今から説明するわね」
日下さんは先程まで足を崩して座っていたが、佇まいを正す。
「先程も言ったけど此処は"APN"のアジトなの」
「アジト?」
「……そこも聞いてなかったの?」
日下さんは暗海さんの方に視線を向ける。暗海さんはそれに対して視線を外す。日下さんは、今日何度目か分からない大きな溜息を吐いた。
「私達は今、闇組織を作っているの」
俺は、数秒日下さんと目を合わせた後、暗海さんへと視線を向けた。
………何で笑ってんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます