第26話 刀の男

「此処……しかないよな?」


 1人首を傾げ、顎に手を添えてそれを見上げる。

 そこには周りの夜のお店とは似ても似つかない、和風の屋敷の様な建物が存在した。その前にある門の横にはAOSとデカデカと看板にあった。


 屋根は瓦、壁は白塗りで、窓から漏れ出る光は薄っすらと光っている。その光がこの建物全体の怖さや凄みを出しているのだろう。


 ゾイの言い分じゃ、此処は見栄を張ってるだけという情報だけど……さて、どうだろうか。


「物体支配、発動」

『開け』


 俺はそう言うと、建物の前にある門をくぐった。






「はあ」

「ん? どうした?」

「あー……実は先輩に若い子を追加しろって言われてよぉ」

「お前そう言えば店を1つ任せられるらしいな? それ関係か?」

「そうそう。あと女の子10人追加したら任せるってよ。ったく……嫌になるぜ!」

「おいおい、顔がニヤけてんぜ? どうせ味見すんだろ?」

「あたりめーよ、オメェ!!」


 屋敷の玄関前で男が2人、自分達の役割である見張りもろくに果たさず下世話な話題で盛り上がっている。その男達の話は途切れる事を知らず、夢中で話し続ける。


 そして男1人、門の方を向く。


「ん?」

「何だよ?」

「何か人が居た様な……」

「バカ、こんな時間に来る訳ないだろうが。俺がここに来て5年、1度もない! てか、鍵が閉まってんだから人が来る訳ねぇだろ!」


 男は先程より声を張って言う。


「5年も見張りの仕事をやってんなって話だけどな!」

「何だと! 俺達同期だろ!?」


「……ちょっといいか」


 話が止まり、男達は正面を向いた。


「あ? 何だよガキか?」

「何で此処に居る?」


 男達は見下すかの様に目を細め、眉を顰めた。


 ゾイの言ってた通りだな。


「……此処の代表に会いたい」


 俺がそう言うと、男達は堪えきれなかったのか吹き出して笑う。


「「はぁ?」」

「何の連絡も無しに来たからな、取り合ってくれるだけでも良い」

「ははっ! 何言ってやがんだ!! ガキは家に帰ってママのおっぱいでも飲んでな!!」

「俺達は若い姉ちゃん達のオッパイ飲むからよ!!」


 男達はまたそれ以上に声を大きくして、笑った。


「少し下出に出ればこれか……」

「あ? 今舌打ちしたか?」

「おい、舐めてんのかお前?」


 男達が近づく。

 その足取りは軽く、早い。それは何もされないと確信しているかの様な歩み。


『ーーーー』


「か、かはっ!!」

「な、何だ……!」


 男達が苦しそうに首を抑えて、膝をつく。

 俺はコートのフードを深く被り直して、言った。


「死にたくなきゃ、案内しろ」


 そう言うと、男達は小さく頷く。

 それを見て首を絞めるのをやめ、俺は男達を見下すかの様に目を細めた。


 男達は顔を真っ赤にしながら息切れをしている。怯えて此方を見る姿は、先程のキレている様子と比べると、余計に滑稽に見え、気分が良い。


 そのまま首を絞め続けるのも手だったが、中にいる人数も能力も分からない状態で此処に入るのは危険過ぎる。


 やるとしても、もう少し情報を集めたらだ。


 俺が男達を見ながら、考えていると呻き声の様な声を男達があげる。


「はぁ、はぁ…お前何者だ?」

「くそ…ガキのくせに…」


 男達の目にはまだ少し抵抗する意思が見られた。


 しかし、此処で印象をあまり良くなくするのはダメだ。今はなるべく優しくしないと。


 俺は数秒間を開けて、心を落ち着かせながら言った。


「……支配者ルーラーだ」


 一先ずこのコートを着ている時は、この名前で行こう。顔バレもマズイから、仮面でも買っとくか…。


 俺は身バレ防止の為の対策を纏める。


「ルーラー…今、頭領に掛け合ってくる…」


 男はそう言うと、1人で屋敷の中に入って行った。


 もう1人は此方をものすごい表情で睨んでいる。


「お前…死んだな」

「…」

「俺達に勝って調子に乗っている様だから警告しとくが…頭領には勝負にもならねぇだろうからな」


 男は少し震えながらも、ベラベラとまだ懲りてない様子で煽る様に言う。


「…別に俺は話し合いに来ただけだ」

「へっ!! そう言う訳にもいかねぇぜ!!」


 男が笑って、屋敷を振り返る。


 そこには先程の男が同様に笑って、2人の男達を連れてきた。


 1人は腰に刀の様な物を差している長身で黒髪長髪の男。もう1人は槍を背中に背負っているガタイの良い男。


 どちらも服の裾から鱗がチラつく。


 2人共火龍人だ。


「お前か? 頭領に会いたいって言う奴は?」

「あぁ」


 槍の男の質問に対して俺が肯定すると、刀の男はすぐに肩をすくめた。


「…随分小さいお客さんだなぁ」

「おい、そこは関係ないだろ」

「見るからに弱そうだなぁ?」


 槍の男は擁護する様に此方を警戒して見てくるが、刀の男はヘラヘラと笑いながら先程の男達同様に近づいてくる。


 コイツもさっきの奴らと変わらないな。


 ザッ


 深くフードを被った俺を見下ろしながら顔を近づける。そして、その顔が俺の頭の数ミリ手前で止まると…


「…男…15、6って所だな」

「!」


 男は確かにそう呟いた。


 男だと言うのは別に声を聞けば分かるだろう。しかし、何故かコイツには今の一瞬で歳まで言い当てられたのだ。驚きもする。


 俺が驚いて少し身じろぎをすると、男は顔を俺の真横につける。


「俺の態度で弱いって思ったかよ? この世は騙し合い。すぐに油断すると…死ぬぜ?…ん?」


 男は俺の耳元でそう言うと、何かに気づいたのか機嫌良さげに後ずさって行った。


「何をしてたんだ?」

「品定めに決まってろうが」

「ほう、それで実力の程は?」

「さぁ? 大した事ないんじゃねぇ?」


 2人の普段話している様な、落ち着いた会話が続く。普段話している様子と言っても、油断はない。


 しかも、いつでも物体支配が出来る距離の筈なのに何故か颯太の額からは、大量に汗が流れ落ちていた。


 出鼻を刀の男に挫かれた事があった所為もあるだろうが、何より格の違いを見せつけられたのだ。


 颯太は急激な不安に襲われていた。


「…早く代表と会いたいんだが」


 気を紛らわす様に男達に向かって言うと、困った様に笑い此方を見た。


「実は今日代表はいねぇんだ。用があるなら…そうだな…」


 刀の男が腕を組んで、唸っている。


「そうだ…幹部であるコイツと戦って勝ったら、責任持ってコイツが頭領に取り合う。これでどうだ?」

「はぁ? 俺がか?」

「いいじゃねぇか! ちょっとぐらい」

「いや…でもな…」


 槍の男は悩んで、中々その提案をのまない。


 しかし、それは颯太の一言によって直ぐに決まる事になった。


「俺は手加減が苦手なんだが…いいか?」


 そう言うと、槍の男の曇っていた表情が笑顔に変わる。そしてその後少し深呼吸をすると、


「…上等!」


 大きな声で叫んで、颯太の方に歩みを進めた。

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