第27話 才能と空間
「行くぞ…」
槍を持った男は背中に背負っていた槍を持つと、それを片手で振り回す。
ブォンブォンブォンッ
その風切り音は、どれだけ槍が重いかを如実に表していた。
「……」
「声も出ないだろ…これに当たったらひとたまりも無い!!」
男は叫び、距離を詰める。
……それは当たったらの話だろ。
「身体強化!」
男はスキルを叫んだ。そして男の身体に赤いオーラが纏われた。
「は?」
俺はそれに対して、思わず腑抜けた声を出してしまった。
実力者ならスキル名を言わずとも、スキルを発動する事ができる筈。それなのにコイツは今スキル名を叫んだ。
……いや、敢えて叫んだのかもしれない。
そう思った颯太は、上段から振われた槍を横に移動して避ける。
……遅い。
普通よりは速いが、オブロや速水さんと比べれば天と地以上の差があるな。
よく考えてみればこれもそうだ。
槍の有効性はその攻撃範囲にある。敵が剣を持っているならその攻撃範囲外から攻撃や牽制が出来る筈だ。
それなのにコイツは。
自分のメリットをわざわざ潰してまで攻撃をし続けている。
この距離だと槍を使う必要ないだろ。
戦闘中にも関わらず、槍の動きに注意しながらも冷静に分析を続ける。
戦闘において、大事なのは思考する事だ。
しかし、それが激情に任せて行動すると思考していたら意味がない。
怯えていようとも、動揺していようとも、怒りに頭を支配されようとも…冷静で居続ける。
戦闘が始まった瞬間、颯太は圧倒的な冷静沈着さを見せる。
それは颯太にとって、唯一の才能と言える物だった。
「お、おい…」
「う、嘘だろ…」
「くっ!! くそっ!!!」
「…もうやめとけ。俺には勝てなかった。それだけの事だ」
俺は分析しながらも槍を避け続けた。その結果がこれだ。
槍の男は汗を大量にかき、息を切らしている。
槍を持った腕はもうまともに上げれない様だ。手がプルプルと震えているのが、近くで見なくても分かる。
そして、もう1つ分かった事がある。
ゾイの言ってた事は正しかった。やはりコイツらは弱小組織だ。
最初に槍を片手で振ってたのも、あれで俺が少しでもビビるとでも思ったのか、威嚇みたいなものだったのだろう。
随分舐められたもんだ。
「……もういいだろ」
俺は小さく呟いた。
それに反応したのは槍の男ではない。
「やるじゃねぇか?」
その男は刀を腰に携え、柄に手を置いて近づいてくる。
男の表情は何処か楽しそうだ。
「ついて来いよ、
刀を持った男は屋敷の中へ入って行く。
「じゃあな」
俺は一言、3人に別れの言葉を告げて男を追いかけた。
屋敷をしばらく歩き、1番奥の部屋まで来ただろうか。颯太達がその扉の前に立つと、前にいる刀を持った男が此方を振り返った。
「此処が頭領の部屋だ。…油断するなよ」
男はそう言って、俺の肩を叩くと歩いてきた道を戻って行った。
油断するな、ね。
さっきの奴らに言われたら油断しただろうけど…あの人に言われたら油断しない方がいいな。
実力はどうだか分からないけど、何か得体の知らない、此処が見ず知らずの場所ってのは間違いない。
「…空間支配、発動」
俺は万全を期す為、新しいスキルである"空間支配"を発動させ、扉をノックした。
コンコンコンッ
「……誰だ?」
扉の奥から甲高い凛とした声が響く。
女? てっきり頭領って言うぐらいだから、歳をとった強面の男だと思ってたが…意外だ。
俺は思っている事を喉奥まで出かかったが、飲み込んで言った。
「…俺はルーラー。花形食堂の事で話があって来た」
少し間が空き、返事が返ってくる。
「…花形食堂? …まぁいい、入れ」
俺はそう言って扉を少し開けた。
そして、部屋に入る直前で動きを止めて、部屋の扉をすぐさま閉めた。
「どうした? 入れ」
中から不思議だと言わんばかりの声が聞こえてくる。
……なるほど。こう言う事か。どおりであの男が油断するなって言う訳だ…
颯太はふっと笑うと、語気を強めて言った。
「…そっちがそのつもりなら…こっちもやるつもりで行くぞ!!」
「………!!」
中から音がガタコトと音が聞こえ、また少し間が空くと扉が自然に開かれる。
「…お前を舐めていた様だ。すまない。入ってくれ」
そこから出て来たのは赤い髪を後ろに束ねた気が強そうな女が出てきた。歳は恐らく俺より少し年上。
その女は詫びる気持ちを一切見せず、言い放った。
「まさか直ぐに"毒ガス"に気付かれるとは思っていなかったよ」
そう。コイツは俺が部屋に入る前に毒ガスを部屋に充満させていたのだ。
俺が名乗った後、少し間が空いた時にでも準備していたのだろうか。あの数秒で毒ガスを部屋に充満させる思い切りの良い判断力…。
あの刀を持った男に油断するなと言われなければ、俺は死んでいた。
こいつは油断できない相手だ…。
颯太は気を引き締める。
第2のスキル『空間支配』は、建物内部の構造を視認、理解する事が出来る。
しかし、それは能力の一部に過ぎなかった。
空間支配の強みは"空間のあらゆる事象を理解出来る事"。
それは固体だけではなく、液体、気体も含まれる。
空間支配のスキル下において、建物内と言う条件は付くものの颯太に不意打ちは一切効かなくなった。
これは、それを大いに表す事態だった。
「あんなのに気付かない方が可笑しいだろ」
颯太は余裕綽綽な態度でそう言うと、部屋の真ん中に対面で置かれているソファの前まで行くと深く腰掛けた。
「…さぁ、話し合いをしようか」
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