第25話 AOS

 コンコンコンッ



「………何だよ、お前か」

「昨日ぶりだな、ゾイ」

「ゾイ"さん"な!! てか、何の様だよ」


 俺はinfのアジトへと来ていた。


 倉庫の扉をノックして、数分後ゾイは倉庫の扉を開けて、訝し気に言ってくる。


「少し情報が欲しくてな」

「……そういう話か。中入れよ」


 ゾイはそう言うと扉の前からどいて、俺を中へと入れる。


 暫くゾイの後をついて行き、ある一室へと入る。そこは前いた部屋とは雲泥の差があって、倉庫の中にあるとは思われない高級感に溢れていた。ある程度ソファや棚などの家具も揃っていたので、恐らくは此処が情報を話す所などだろうと予想出来た。


「今日オブロは居ないのか?」

「……関係ないだろ。さっさと知りたい情報を言え」


 ゾイはソファに座り足を組むと、不機嫌そうに言った。


「世間話もなしか……じゃあ本題だ。"花形食堂"っていう定食屋を知ってるか?」

「あのスーパーの近くの汚ねぇ定食屋か。アレがどうした?」


 流石だな。あんな汚い定食屋の事がすぐ出てくるなんて。


「実は闇組織にショバ代として法外な金額を要求されてるらしいんだ」

「へぇ、あんな所からショバ代を取る必要があるのかね?」


 ゾイがふざけてるのか小気味良く笑い、肩をすくめる。


「あんななりでも、料理は結構美味かったからな?」

「お前、よく入ろうと思ったな……」


 ……そんな引くなよ。確かに見た目は汚かったからそう言うのは仕方ないけど。


「まぁ、今度食べに行ってみろよ……でだ、俺が知りたいのはそこの店に手を出している闇組織。あと、その所在を知りたい」


 颯太が言うと、ゾイはソファにもたれ掛かって大きな溜息を吐く。


「なるほどな……まぁそれぐらいならタダで良いだろ。あそこを取り仕切ってる闇組織って言えばAOSだ」

「AOS?」

「あぁ。AOSはショバ代やら風俗営業を生業にしている闇組織の中でも弱小な組織だ。俺もあまり関わりがねぇ大した事のない所だ」


 はっ! と鼻で笑うゾイは懐に手を突っ込み、紙を取り出す。


 そして、ゾイの前にある机へとその物が広がられた。


「場所は、此処だ」


 ゾイが出したのは此処ら一帯の地図。そしてゾイはある所を指し示した。


「此処に行けばあるんだな?」

「あぁ。弱小な組織っていうのは力を誇示したい奴ばかりだからな。隠そうとしない」

「……まぁ、ありがとうな。助かった」


 俺はそう言って部屋の扉の方へ向かって歩き出す。


「まぁ、お前のスキルの情報と比べたら天と地ほどの差があるからな。お安い御用だ」

「それは良かったよ。また何か聞きたい事があったら来るから、その時も宜しくな」



 バタン



 颯太が部屋から出て行った後、ゾイは1人静かに呟いた。


「……能ある鷹は爪を隠す、か」






「よっと……」


 颯太はinfのアジトに来る前に物陰に隠しておいたフード付きのコートを羽織り、スマホを開く。


「……もう22時か」


 もう太陽は西に沈み、暗闇が辺りを覆っていた。


 最近色んな事があり過ぎて、時間が経つのが早すぎる気がするな。

 身体をほぐす様に背伸びをする。


 ……前までの生活と比べればずっと良い事なんだろうけどな。




 前までの俺は生きていて、同時に死んでいる様なもんだった……強いて楽しみがあったとしたらアニメぐらいで、それ以外の時は呆れ、怒り、そして"無"だけしか感じていなかった。


 周りの同級生からは蔑みと過度の暴力を貰った。

 俺が道を歩くだけで、周囲の人はトラブルを避けようと離れた。

 道でどんな辱めを受けようと、皆見て見ぬふりをした。




 しかし、今はどうだろうか。


 周りからは平凡者だと思われているが、本当は違う。


 お前らを倒すだけの力が自分にあると思うと、心の中にも余裕が出来た。



「悪くない気分だ」


 そう言うと、俺はAOSの拠点へと向かった。

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