第13話 獣

「闇組織御用達の……情報屋?」

「あぁ、そうだ。金を積まれればどんな情報でも掴んでくる」


 男は笑って、握り拳を作った。


 てことは此処で俺が言ったとしたら、闇組織に俺が進化をしてしまった事。普通の進化をしてない事がバレてしまうという事だ。


 まだ、まだ目立つのは避けたい。



「お、何だよ。一丁前に拳を握りしめてよ〜?」


 太っている男は見下した様な笑みを見せつけ、指の骨をボキボキと鳴らしながら近づいてくる。


 俺はそれに対して口元を拳で隠して、「物体支配、発動」と呟く。


 まだ男達との距離は遠く、聞こえるはずがない声で呟いた。その筈だった。




「物体支配? 随分恐ろしそうな単語だ」


 痩せている男がヒューッと口笛を鳴らす。


「!!?」

「物体支配? 何だよそれ?」


 太った男が後ろを振り返り、聞く。そんな無防備をさらしていていいのか。そう思うところだったが、俺の心境はそれどころでは無かった。


 何で俺が言った事が!? 此処からじゃ俺の声なんて拾える訳……。


「ガキ、表情に出過ぎだぜ?」

「!」


 そう言われたが、ギリギリの所で反応を心の中にしまう。


「……何の事だよ?」

「ふふっ……まぁいいか。オブロ、ソイツ何かする気だぜ?」


 男は太っている男、オブロに告げる。


 オブロは此方を見て、先程とは違う、どこか獲物を見つけたかの様な、そんな笑みを浮かべた。


「へぇ…なんだ。実力を隠してたって訳か」


 そう言うと男は無用意に近づく。その歩みは道端をプラプラと歩いている様にも見えた。


 何だこいつ、いきなり雰囲気が……。


 俺はあまりの雰囲気の違いに一瞬気を抜く。

 しかし、それが誤ちだった。




 ドンッ!!




「かはっ!!」


 俺の身体は浮き、地面と平行に飛んだ。そして路地裏の奥の壁へとぶつかって止まる。


「い、今のは……」


 胸から急激な熱を伴う痛みを感じる。


 一瞬。ほんの一瞬見えたのは、アイツが急に俺の目の前に現れたかと思えば、俺が吹っ飛んでいた。それだけだ。


「おいおい、避けねーのかよ」

「おい。死なすんじゃねーぞ。情報はしっかり頂く」

「ちっ……分かってるよ」


 オブロは舌打ちをすると、此方に近づく。


 コイツらに本気で来られたら俺はコイツらにかなわない……まずは拘束する!


 俺の視線がオブロへと向く。


『固ま


 そう言おうとした瞬間、背後から幼さが残っている淡々とした口調で話しかけられる。


「そこで何してる」


 振り向くとそこには、モサモサの髪をたなびかせた制服を来た速水さんが居た。


「あ? なんだ嬢ちゃん? 迷子か? 中学生はこんな所に来ちゃ行けないんだぜ?」


 オブロはそう言って俺を通り過ぎ、吹の頭をポンポンと叩く。


「ーーーーな…」


 吹は頭を叩かれた後、何故か俯き、ボソボソと喋る。


「あん? 何か言ったか?」


 オブロは首を傾げる。


「早く離れろ!!」


 痩せている男がオブロに追い詰められたかの様に叫ぶ。


「何だよ、ゾイ。そんなに焦っちまって。情報は大事だがこんな小さい女の子まで巻き込む必要はねーだろ」


 そう言い、今度は吹と同じ目線までしゃがみ、頭を撫でる。


 ゾイはそれに対して舌打ちをする。すると少し小さな声で「ちっ…バカか」と呟いた。


 何であの男はあんなに焦ってるんだ……?


 そして、その疑問を解消するかの様に、それは突然鳴り響いた。




 ドゴォンッ!




 背後でとてつもない破壊音が鳴り、ゾイの方を見ていた颯太は、後ろを振り返る。


 パラパラパラ


「…かはっ」


 オブロは壁にもたり掛かる様にして、血反吐を吐いた。


 その隣には拳を横に突き出している少女が……いや、鬼が居た。


「私を子供扱いするな! デブ!!」


 いつもの無表情の顔は何処に行ったのか。眉間には皺がより、口はへの字に歪み、目を吊り上げている。


 俺は初めて吹が怒った姿に驚きを隠せなかった。


「……こ、こんなに怖かったんだ」


 優理さんが言っていた速水さんのNGワードは、"小さい"だった筈。しかし速水さんは"小さい"だけではなく、"子供扱いされる事"もNGだったんだ。


 危なかった。これが無かったら自分でもやっていたかもしれない……。


 俺は優理さんに続き、速水さんも危険指定人物へと指定する中、やっぱり闇組織なんだなぁ。と怯えを混じえつつ感心した。


 そんな感心をしつつ、オブロはゆっくりと腹を抑えながら立ち上がった。


「はは……まさかこんな中学生がこんなに強いとわな」

「おい、オブロ。今回は引くぞ。沈静カーム獣爪ビーストを怒らせたのが俺達の運の尽きだ」

「悪いけど、逃がさないっ!!」


 踏み込んだ地面が少しひび割れる。速水さんが向かった先はオブロの所。


「ちっ!!」


 視界に入ったゾイが煙玉をオブロの足元付近に投げつけるのが見えた。古典的な方法だが、今の世の中でも十分に使える代物らーー……。


「まぁ、少し寝てろや」






「ふぅ、残念。逃した……ん?」


 吹は煙が吹き飛ばした後、周りを見渡した、


「……やられた」


 周りには争った形跡しか無く、居るのは吹1人だけしかいなかった。

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