第14話 取引
「……ここは?」
路地裏から意識を失っていたのだろう。俺は何もない部屋で椅子に座らされ、手錠を掛けられていた。
「ふっ……言う訳
「ここは俺達のアジトだ!! もう逃げられねぇからな!!」
部屋の隅、天井付近に付いているスピーカーから声が聞こえる。
バンッ
「イッテェ!」
物凄い物音が響いた後に、アジトだと自白した男の声が聞こえた。確か名前は、オブロだったか。
「アジト、情報屋infのアジトかぁ……」
颯太は反芻しながら、ブツブツと声に出し、考えをまとめる。
「兎に角! お前が此処に連れてこられた理由は分かるな?」
ゾイは少し焦りを含ませながら、此方に語りかける。
「……何のことやら」
「………お前、それ以上舐めた口聞いてみろ。後悔するぞ」
「後悔……後悔ね」
「あ?」
「そんなの何回もしてきたよ、バーカ」
俺が呆れた様に笑って告げると、スピーカーから声が聞こえなくなる。そして数秒後、部屋の中の1つの扉が開かれる。
開かれると、そこにはゾイとオブロが並んで立っていた。
そしてゾイが1人で近づいてきて、俺の首を片手で掴んで持ち上げる。
この細い体で何処からこんな力が……!
首を掴まれ息が絶え絶えとなる。自分の身を捩りそれから逃れようとするが、ゾイの握力がそれを許さなかった。
「で? 話す気にはなったか? お前の能力。まぁ、大体察しはついてるが……こちとら一流の情報屋。確実な情報が欲しい」
「……」
俺はそれに対して少し間を空けた後、小さく頷いた。
するとゾイはの首から手を離す。
尻餅をつき、ゾイを見上げる。
「……取引しないか?」
「何?」
「俺の能力を包み隠さず言う。その代わり、俺と取引しろ」
「はぁ。何を言ってるんだ? そんなの俺にメリットはない」
「そうか? 確実な情報が欲しいんだろ? この情報はお前ら以外に知る者がいない。なら、とても貴重な情報になるとおもうんだが……」
「はははっ! こんな状況で取引する必要もないだろ」
「………なら、死ぬか?」
「何?」
ゾイの顔が困惑に変わる。
そして、口を開く。
『着用者の首を締め付けろ』
「かはっ!!」
俺が口にすると、ゾイのボロボロの服が捻り上がるようにして首を絞める。
『固くなれ』
「うっ!!」
そして、服、ズボン、全ての衣服が固まり、ゾイの身体を拘束する。
「ゾイ!!」
オブロが数歩離れた所から此方に駆けて来ようとするが、それを俺は止めた。
「いいのか? それ以上近づいてみろ……コイツの命はない」
「くっ……」
ゾイを人質に、脅すという形で。
オブロは眉を顰め、足を止めた。
オブロの能力は異常だ。
火龍人の為、スキルを使われでもしたら、最悪服を破き、拘束する事が出来ないかもしれない。
俺はなるべくならオブロに近づいて欲しくなかったが、ゾイだけが此方に来た時は、俺もまだ天に見放されてないと思った。
「な、何で、使える……」
ゾイが途切れ途切れに言う。
「マイクからじゃ、俺の声は聞こえなかったみたいだな」
「ち……そういう事か」
「俺がスキルを発動させたのに、気付きもしないで入ってきてくれて凄くラッキーだったよ」
ニヤリと口角を上げる。
ゾイと会話している途中に、アジトだとオブロの口から言われた時、顔を伏せていた。
その時だ。
俺は2人が揉めている時を見計らい、「物体支配、発動」と呟いた。少し聞かれているのではないかと心配になったが、ゾイが此方に1人で近づいてきた時にほぼ確信した。
聞こえてないと。
「で? どうする? 取引に答えるなら首を絞めるのをやめてやる」
「……」
「悩むのか……これは取引なんだ。お前等が一方的に損する話じゃない」
此処で断られたらマズイ。ゾイを倒す事が出来たとしても、恐らく今の俺じゃオブロは倒せない。手錠も後ろ手に付けられているから、外す事も出来ない。
あの圧倒的な身体能力で襲われたら、俺は何も出来ずに殴り殺されるだろう……。
ゾイはそれに対して少し考えたのか間が空く。そして、首を縦に振る。
『首を絞めるのをやめろ』
命令すると首元だけ服が緩み、赤みがかったゾイの顔から少しずつ血の気が引いていく。
「すぅー……はぁー……」
ゾイは大きく吸い込み、大きく吐いた。
そして首だけ動かし、此方を見る。
「分かった。取引に応じる」
「懸命だな」
「流石の俺も命は欲しいんでね。とりあえず最初にアンタのスキルを教えて貰えるか?」
「あぁ、俺のスキルはーー」
「なるほどな……だからこう動けず仕舞いって訳か」
ゾイは感心したかの様に自分の身体を見下ろす。
「よし、これで俺の願いを聞いてくれるな?」
「……まぁ、そう言う取引だからな」
「じゃあ、1つは俺にいつでも情報を流せる様にする事」
「ちょっと待て」
ゾイが制止の声を上げる。
「何だ?」
「1つはって何だよ! しかもいつでも情報を流すって……タダでか!?」
ゾイは此方を見て声を荒げる。
「まぁ、その情報の価値によるな。大した事ない情報だったらタダで教えてくれ。俺にとってこのスキルの情報は命を差し出した事に等しいんだからな」
「……まぁ、それを許可したとして、まだあるんだよな?」
ゾイは眉を八の字に変え、半笑いで質問する。
「あぁ。こっちの方が俺にとっては重要だ」
「何だ?」
「俺のーーーーーーーーーーーくれ」
「あ?」
「出来ないのか?」
「何でそんなもん……」
「……いずれ必要になるから、だな」
「それが俺達にとって本当に利益になるのか?」
「それはお前達次第だ」
俺はゾイにそう告げると、何とか2つの願い共、納得して貰った。
オブロが「ゾイは約束を破らねぇ男だからな!」と大笑いしてくれた事がどうやら効いたみたいで、「あ、当たり前じゃねぇか!」と吃りながら言ってた姿には口角が上がりそうになった。
こうして颯太は情報屋infと手を組んだ。
しかし、颯太はまだ知らない。
infという組織の強大さに。
まだ知らない。
この2人組との取引のお陰で、颯太と言う人物は世界を手に入れる丈夫な足掛かりを手に入れた事に。
まだ知らない。
その丈夫な足掛かりが、奇しくも天への足掛かりになっているという事に……。
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