第15話 仲間
「じゃあ頼む」
俺は海沿いにある何処かの倉庫の扉から出て、ゾイ達に話しかけた。
「はぁ、詐欺にでもあった気分だぜ」
「これを持っていけ」
ゾイが頭を抱え落ち込んでいる横、オブロからゾイが持っていた物と同じ五角形の証のような物を手渡される。
「何だよこれ?」
「まぁ、持ってれば役に立つのは確実だ!」
「なら貰っておくけど……」
俺はおもむろにそれをポケットに入れる。
「いつまでそこに居んだ! 早く行きやがれ!」
ゾイが叫び散らし、此方にガンを飛ばす。
「はいはい。それじゃあ、また来るよ」
俺はそう言うと、そこから出て行った。
◇
颯太がinfのアジトでゾイと交渉している頃。
「何!? 颯太が攫われた!? 大変だ!!」
翔は洗っていたコップを乱暴に置き、カウンターから飛び出す。翔の顔は不安に包まれ、心配でどうしようもないと言う顔をしていた。
「ちょっと! 待ちなさい翔!」
「グェッ!!」
飛び出した翔の襟を、優理が後ろから掴む。
「な、何するんだ! 早く行かねぇと颯太が!」
「焦らないで。その前にちゃんと準備してから行かないと……吹」
「ん」
「その人達の特徴とか……その人達が何者なのか分かる様な物、見た?」
優理に聞かれた吹はそれに対して、
「ボロボロな2人組だった。痩せた人と太った人」
そう答えた。
すると、翔と優理の身体が動きを止める。
「なら、いいか」
「そうね。大丈夫でしょ」
そう言い、2人は元の位置に戻った。
吹は制服を着替える為、奥へと入って行った。
◇
「お、颯太! 無事だったか! 心配したんだぞ〜!!」
俺がバーへと入ると、翔さんがカウンターを飛び越え、涙目で抱きついてくる。
「……すみません。でも何も無かったですから」
俺はそう言うと翔さんを突き放し、カウンターの椅子へと座る。
話は速水さんから聞いてるみたいだな。
「颯太君、心配したのよ? 」
優理さんが眉を八の字に変えてカウンターの中から声を震わせて言う。
「……本当に心配かけました。でも本当に何も無かったので安心して下さい」
「そう……でも心配させる様な事をしちゃダメよ? 心配で倒れる所だったのよ? 翔が」
「おい! そんな事言うなよ!!」
そう言って2人は仲が良さそうにじゃれつく。
……で、速水さんは何処に行ったんだ?
颯太は店の中を見渡すが、その姿はない。
しかし、何処からともなく破壊音らしき音が聞こえてくる事に気づいた颯太は、何の音か気になった為バーカウンターの奥へと進む。
冷凍庫から地下へと続く階段を降りた先には、前と同じ大きな扉。地下へと降りたせいか、音がドンドン大きくなっている。ふと音鳴っている方向を見ると扉の左側の突き当たりに、普通の扉がある事に颯太は気づいた。
あんな所に扉があったのか。前はあの扉に夢中で気づかなかったな。
そこを開けると、体育館の様な広い空間が広がっていた。
その中心には学校の体操服を着ているであろう速水さんが居る。
速水さんは戦闘の時見せた様に、拳を前に突き出す。
ドンッ
空間が揺れる様に大きな音を鳴らす。
ドンッ
それは速水さんが拳を突き、足を踏み出す度に鳴っている事が分かった。よく見ると力強さの中にも、何処か相手の急所を狙っている様な場所を考えて突き出している事が分かる。
「凄い、な」
「ん?」
それに俺は思わず声に出してしまう。小声で言ったつもりだったが聞こえていたのか、速水さんは此方を振り返る。
「おかえり」
「え、う、うん」
「「……」」
一言二言話すと数秒沈黙になり、速水さんはドンッ、ドンッとまた拳を突き出す。
「あ、あの!!」
「……何?」
速水さんは少し不機嫌そうに此方を振り返る。
「あの、よかったら俺にもその体術教えてくれ!」
俺はオブロにも対応できる、あの体術が欲しかった。速水さんの様に動ける様になれば、自分のスキルをあまり使わなくて済む様にもなる。もし、あの単純な強さがあったら……
そう思って言った。
しかし、
「無理」
キッパリとそれを断られる。
そしてまた、拳を突き出す。
「ま、待ってくれ! どんな修行でも耐えてみせる! お願いだ!!」
今度はそう言って速水さんに頭を下げる。
「……無理」
しかし少し間を置き、言った言葉はまた否定の言葉。
「その力が欲しいって訳じゃない! どういう風に戦えばいいのか、心構えとか、あと、真正面から殴られたらどう対処したらいいのか……小さな事でもいいんだ!」
「……」
それに対して速水さんは無言で背中を向けて来る。
此処まで断って来るとは……最悪見て盗むか? いや、殴り合いの喧嘩もした事ない俺が出来る訳がない。
一応、俺は翔さんに誘われてANPへと入った。"仲間ではある筈"だ。それならーー。
「は、ははっ……お、俺が平凡者だからか」
俺は呆れた様に地面を見て、拳を握りしめた。拳からは血が滴り落ちる程に強く握り、離れた所にある速水さんの耳にも聞こえる程の歯軋りをする。
少し痛みを感じるが、強くなる為なら何でもする。
側から見て変だとしてもだ。
「……やっぱりそうなんだ」
俺は呟いた。そして諦めて、そこから出ようと振り返るとーー
「これは修行で身につけた物じゃない」
速水さんはいつの間にか俺の服の裾を掴み、止めていた。
「え……」
後ろを振り向き、速水さんを見る。速水さんが冗談を言っている様子はない。
「私は生まれつき人よりも力が強かった、技術も何も無い。最初から出来たから、出来た」
「それは火龍人でスキルを使ってるから……」
そう反論すると、速水さんは首を横に振る。
「違う。私は火龍人じゃない」
「……は? じゃ、じゃあ、地堅人とかか? 身体硬化で身体を硬くして負担を
俺が言ってる途中、速水さんはそれに被せる様に言った。
「私は平凡者」
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