第12話 inf

 そして、俺は続けて言った。


『固くなれ』


 すると校長の動きが突然止まる。


「な、なんだこれは!?」


 校長先生はいきなり起こった事に対して、目を白黒させ、キョロキョロ目を動かした。


「……自分が言える事は何もありません。それでは」


 俺は騒ぐ校長を尻目に、マイクに向かってそう言うとゆっくりと礼をする。


 背後では何故か後ろに下がる途中の姿で固まった校長先生が、騒ぎに騒いでいる。


『着用者の口を覆え』


 そう言うと校長の腕が突然動き、顔を覆う様にして固まった。体育館にいる生徒、先生達が校長の奇行にザワザワと騒ぎ出す。


 礼をした後、俺は今この喧騒に気づいたかの様な反応を見せる。


「な、なんだ?」


 マイクにもこの声を敢えて拾わせた。そして、皆んなの視線を辿り、後ろを振り向く。


「ひ、ひぃっ!?」


 俺は情けない格好で教壇の影で尻餅をついた。そしてその一瞬、生徒達は俺から目を離す。教壇の下で俺は口を歪ませ呟く。


『締めろ』


 すると、校長先生の首に掛かっているネクタイが急激に締まって行く。


 モゴモゴ言っていた校長先生が静まり返る。


「な、何なんだ!?」


 怯えている振りをして、四つん這いで俺はステージ上から降りた。



 さてと……どうなるかな?


 俺はステージ横で、ステージ上の校長の様子に眉を顰めて怯えた表情を見せ、尻もちしながら見上げていた。横目で見た生徒や先生の方を見ても、ステージ上の校長先生に注目している。


 もし、誰かが俺の様子を見ていても、これなら疑いようが無い。


 校長は今、首を絞められ息が出来ていない状態。あれならスキルを使う事も出来ないし、呼吸が出来なくて顔が赤らんでいても、腕で隠れてて見えない。


 後は時間が経てば……。




 颯太は校長に対し、『物体支配』のスキルを使用した。颯太の物体支配は目をつけた物にしか命令をする事しか出来ない。その為、靴紐を結び直すとしゃがんだ時、少し後ろを振り返った。


 そして、命じていた。


 スーツ全体には『固くなれ』と。

 スーツの上着には『着用者の口を覆え』と。

 ネクタイには『締めろ』と。




 此処で今1番の問題は、俺が佐藤達の殺人を犯したと言う容疑をかけられていた事。

 今のその問題を俺は、俺から校長の謎の死にすり替えられる。


 皆んなの意識の中には、もう俺は居ない。居たとしても、あそこから怯えて降りてきたオタク男子と言う印象だけだ。佐藤達を殺した犯人だと後から言われても、証拠はない。やってないを突き通せば良いだけだ。


 ステージを見つめていると、やっとステージ上に職員達が恐る恐る上がり始めた。


 もう絞め始めてから、2分から3分は経っている……校長は70代。もう下手したらーー。


「おい!! 救急車!!」

「マイ先生! 早く!!」


 腕の隙間から校長の顔が見えたのだろうか。ステージ上に一気に緊張感が張り詰める。

 そして、ステージ上に急いで保険医のマイ先生が上がった。


「診断」


 マイ先生がスキルを使い、腕が顔から離れない校長先生に緑色の線が行き渡る。

 そして、マイ先生は唖然とし俯く。しかし数秒後、顔を上げ、スキル「癒光」を発動させていた。


 その時点でもう時間は7、8分は経っていた為、俺はスキルを解除した。


 マイ先生も大変だな……もう十分だろ。


 ステージを見ると、ステージ上の校長がスーツの拘束が解けたように自然に仰向けになる。


 マイ先生はそれに戸惑いを見せたものの、続けてスキルを発動させ続けていた。


 数分後、救急車が着き運ばれるが、校長の死亡が学校に告られる事になった。






「ちっ…」






 俺は自宅に帰り線香をあげた後、制服から着替えてバーに向かった。


 力をつける為には、色々と情報がいる。闇組織の本元から話を聞くのが効率が良いだろう。


 外はもう真っ暗で学生が歩いていい時間帯ではなかったが、目的の為には最善の行動を行うべきだった。

 俺がバーに後3分で着く。そんな時、


「おい、時代の遅刻者。ちょっとツラかせよ」

「大人しくこっちに来たらいい事してやっからよ?」

「……」


 俺は2人の男に絡まれた。見るからに大人。腕には鱗が付いており火龍人だと言う事が分かる。風貌はボロボロで太っている男とボロボロで痩せている男、両極端な2人だった。


 しかし、そこで疑問を覚えた。


 何で俺の事を知っている……?


 俺はいつも外に出る時は、基本長袖長ズボンの格好をして家から出る。腕を隠せば、1番人口が多いと言われている火龍人だと思われるからだ。それなのに一目見ただけで"時代の遅刻者"と呼ばれた。それは可笑しい。


「おら! 早く来い!!」

「おらおら、早くしろ」


 1人の男に肩を組まれ、肩を掴まれる。


 自分の筋力では、これは抜け出せない。スキルを使うなら別だが、今日学校であんな事があったのに、此処でも問題を犯したらまずい。

 そう思った俺は大人しく男達に連れられ、路地裏へと入って行った。




「で、俺に何の用なんだよ」


 俺がキッと睨んで聞くと、男達は何も気にしていない様子で言った。


「あ? お前を痛ぶり殺すんだよ?」

「時代の遅刻者なら殺しても何も言ってこねーだろ?」


 男達が飄々とした態度で悪びれる様子もなく、そう言い放つ。


「そうか」

「そろそろ良いよな、もう我慢できん」

「おいおい、まだもうちょっと話して情報をだな……」


 ーー情報? コイツらは俺から何かを聞き出すつもりなのか……いや、聞き出す事はあの事しかないか。


「お前、学生3人をどうやって殺した? 今日は校長も殺したんだってな?」


 ……もうそれは確信してるのか。


 颯太の額から汗が流れ落ちる。


 この情報収集能力は警察でも出来ない……。


「お前ら、闇組織か?」


 俺がそう聞くと一瞬男達はポカンとする。

 そして、数秒後堪えきれずに笑い出す。


「な、何だよ」

「ハハハッ! 成る程な! そう来たか!!」

「残念ながら違うな。まぁ、この際だから言っちまうか」


 痩せている男はそう言って、五角形の何かの証の様なものを取り出して俺に向ける。


 その証の中には、周りを線で五角形を引かれ、その頂点が全部黒い点が描かれていた。その中には帽子を被った男が壁にもたりかかっている姿が描かれている。


「俺達は迅速で正確な情報を売りにしてる、闇組織御用達の情報屋"inf"だ」




 迅速で正確な情報を売りに闇組織という危ない連中と渡り合う男達が、今、颯太へと接触する。

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