第20話 フードの男(ヤス視点)
「おい…そこのお前。ちょっと待て」
後ろを振り返ると、コートに付いているフードを深めに被った小さめな男が話しかけて来た。
(……殺気が漏れてるな)
「……お嬢、車の中へ先に行っておいてください」
エミリーに鍵を渡したヤスは、振り返りエミリーを守る様にして仁王立ちする。
此処は店の裏側。
従業員の車しかない、その為人通りが少ない。
(まさかまだ日も落ちる前にこんな目に遭うとは…)
「何の用だ?」
ヤスは男へと聞いた。しかしその返事は返って来る事はなく、フードの男の懐から長い針の様な物が取り出される。
「……まぁ、この業界やってればこういう事もあるわな」
俺はタバコに火をつけ、腕を捲る。
「かかって来いよ」
手を曲げて、挑発する。
少しでもこれで思考が単調になってくれれば良いと思っていたが……どうやら、上手くいった用だ。
フードの男は激情したのか、一直線に此方に走ってくる。
(思ったより弱そうな相手だな。無鉄砲にも程がある)
「おらぁ!!」
ドゴッ!!
「…ッ!!」
ヤスの拳がフードの男の腹へと突き刺さり、従業員の車のボディに当たる。
「こんなもんか?」
聞くと、男は無言で何事も無かったかのように立ち上がった。
(……殴った感触はした。ただ鉄板を殴っているかの様に硬かった……俺と同じ地堅人か?)
ヤスはそう頭の中で整理すると、その男に言い放った。
「お前が地堅人なら分かるだろ? 地堅人同士の戦いにおいて、大切なのは力と戦闘における技術が物を言う。悪い事は言わねぇ。出直しな」
ヤスは諭す様に話しかけた。
何故ヤスがこう言ったのか、それには理由がある。
近くには、エミリーがいる。
此処でエミリーに何かあったら、兄貴がどうなるのか想像に容易い。
いや、どうなってしまうかは分かるが、何をするのかだけは分からないと言った所だろうか。
ヤスの額から一筋の汗が流れ落ちる。
「よくその立場で言えたもんだ」
フードの男がボソッと答えた。
「ははっ…どうやら命が惜しくねぇようだな」
ヤスは笑った後、顔を引き締め、フードの男を睨む。
(ここまで言われちゃ…黙って引く訳にもいかねぇか)
「後悔すんじゃねぇぞっ!!」
もの凄いスピードで男へと近づいたヤスは、身体硬化を発動させてそのまま突進した。
「ッ!!」
男から声にならない焦った様な息遣いが出る。
その突進に対して男は、腕を前でクロスして受け止める。
しかし、ヤスという大男からの突進の勢いを小さな男が耐え切れる筈もなく、その男はボールの様に飛んで行く。
ドンッ!!
男は車へとぶつかり、疼くまる。
そしてヤスはゆっくりと近づく。
ジャリ ジャリ ジャリ
ぶつかった車の割れたガラスの破片が、ヤスの足元から音をたてる。
「挑発する割には随分とお粗末じゃねぇか?」
男はそれに対して何も反応を示さず、車を背もたれに下を向いている。
「……何も言い返す気力もないか。まぁ良い。これで終いにしようや」
ヤスの拳は容赦なく男の顔面に放たれた。
ドンッ!!!
「何だよ、まだ動けたのか」
ヤスの拳が車へとめり込まれる。
男は最後、首を傾けてヤスの拳を避けた。
「ふふふっ!!」
男が堪え切れなかったという風に、笑う。
「何が可笑しい……」
「相手の情報も何も知らないで、無遠慮に近づくのは闇組織の奴としてどうかと思うぞ?」
「何?」
こいつの力で俺の腕をどうにか出来る訳が無い、そう思っていた。
「こんな茶番に付き合ってくれてありがとな」
男はそう言うと、何故か俺の拳が突き刺さっている車体を見て言った。
『めり込んでいる腕を離すな』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます