第4話 地下

 俺が暗海さんに無理矢理連れて行かれた所は、地下へと続く階段だった。


「何ですかこれ……?」

「お! 気になるか颯太〜」

「そんなガシガシしないで下さい。ただ、何でこんな所に階段があるんですか」


 今、居るところは冷凍庫の中。1番奥にある角の地面に扉があり、それを開けたら地下へと続くであろう階段が出てきた。


「そりゃあバレない為だ」


 ニヤッと笑うと、暗海さんは階段を降りて行く。


 此処を降りたらどうなるか分からない。だけど、あの道端で救ってくれた恩人がついて来いと言った。なら、ついて行っても良いのではないかと、何故かそう思えた。


 俺は続いて階段を降りて行く。




「ここは……」

「どうだ? 凄いだろ?」


 暗海さんは自慢げに胸を張り、笑った。

 そこには大きな扉が存在した。表現するならファンタジー世界の王城にある謁見の間にある様な扉。


「凄い!」


 俺がそう叫ぶと、暗海さんはこんな反応をするとは思っていなかったのか、目を見開いている。


 これに驚かないで、何に驚くって言うんだ!! ファンタジーの世界へと紛れ込んだかと思う様な立派な大きな扉! 俺はさながら王に呼ばれた勇者って所か!!オタク心に火がつくな!


「あー……颯太。目をキラキラさせている所悪いんだが、いいか?」

「……何ですか?」


 ……別に、目なんかキラキラさせてませんが?


「お、おう。あのな、実は中に待たせている奴らが居るんだよ。早く中に入りたいんだが…」

「勝手に入ればいいじゃないですか。俺はもう少しこれを満喫します」


 そう言って数分は扉を横から見たり、地面に張り付いてみたりした。




 うん……実際にこういうのがあるとテンション上がるんだなぁ。


 扉には龍や人魚、ドワーフにエルフ、天使と人間が戯れている様な彫られた跡があり、何処か少年心をくすぐられる。


 その扉を見上げ、感慨深く頷いているとーー。


「あ! やっと終わったか!?」

「え?」


 暗海さんが俺の肩を叩く。俺の身体は瞬く間に、暗海さんによって肩に担がれる。


「じゃあ、さっさと入るぞ! 早く行かんとアイツらに怒られかねん!!」

「まだ居たんですか!? あ!! 待って! もうちょっと!!」


 暗海さんは、俺の言い分は無視して、片腕1本で自分の何倍もある大きさの扉を押してこじ開ける。


 ギイィィィィ


 大きく、低い音が空間中に鳴り響く。

 開かれた先には、住居の様な物が何個も並んでいた。しかし、人の気配は全くなく、無人のようだ。


 そして奥には長く、高い階段の様な物がある。


 何なんだこれ……。




「翔さん、遅い」


 呆然としていると、1人の少女が物陰から出てくる。


 少女は肩ぐらいまで伸びている黒髪を片手で梳かしている。それから手を離すと髪はピョンッという効果音を立てるかの様にクルクルになり、彼女を一回り大きく見せる。


 服装は白いワンピースを着ていて、歳は10歳ぐらいだろうか。


 彼女はこちらに近づいてくると、暗海さんの服の裾を少し掴む。


「悪りぃ悪りぃ! ちょっと運命を感じてよ」


 暗海さんはそう言うと、彼女の頭をポンポン叩く。


「ふーん……」


 彼女は興味を持ったのか、視線を俺へと向けて来る。しかし直ぐに興味を無くしたのか視線を外した。


「それより早く行かないと、"優理ゆうり"が怒っている」


 彼女は暗海さんの腕に寄り添い見上げる。

 その2人の姿は父親と娘の様だ。


「げっ! 優理の奴怒ってるのかよ!?」

「もう、カンカン」


 彼女は両手の人差し指を頭に立てる。

 無表情で鬼の真似をする少女、可愛いと思ったのはしょうがないだろう。だが俺の心情とは裏腹に、暗海さんの顔はドンドンと青褪めていった。


「マ、マジ?」

「マジ中のマジ」



 ……なんだ? そんなヤバいのか?



 突然暗海さんの首が180度回転する。


「えっ?」

「急ぎだ!!」

「急ぎー」


 少女は既に脇に抱えられていて、暗海さんは凄い速さで俺を再び肩へと担いだ。


「ぶっ!!」


 そして、無人の住居を通り抜けて走る。


 そのいきなりの速さの所為で、自然と息が吐き出される。


 な、何だこの速さ!? F1かよ!! あまりのGに耐え切れない!! これだとあの女の子も……。


 そう思ってチラッと少女の方を見た颯太は、その光景に驚く。


「おーーー」


 少女は前を向き、楽しそうに声を出していたのだ。


 この速さで楽しんでいる……のか? 無表情で分からないが、このGの中前を向いて声を出せるのか? 俺でも息をするのがやっとなのに、こんな少女が……この人達は一体何者なんだ!?)


 疑問に思ったが、今はそれどころじゃじゃない。身体がミシミシと嫌な音を鳴らし始めた。


 ダンッ


 その瞬間、一瞬の浮遊感を感じ下を向くと地面がドンドンと離れていくではないか。暗海さんは俺達を抱え、何百段と階段をジャンプで飛ばしたのだ。


 火龍人でも出来るか分からない様な身体能力。しかし、彼の腕には鱗はない。



 スタッ



 華麗に地面に着地をすると、突然何も言わずに正座をする暗海さん。



 ……ん?



 俺が暗海さんから視線を前に向けると、そこには1人の女性が直ぐそばで仁王立ちしている。


「遅かったですね? 翔?」


 その長髪の黒髪の女性はそう呟くと、ニコッと笑った。


 美人、そう思うと同時に何故か、その背後に、般若の様な物が見えた気がした。

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