第22話 法(ロッキー視点)

「エミリー……何があったんだ……」


 俺、萩原はぎわらロッキーは今、警察署から妹のエミリーを連行したと言う連絡を貰い、数人の子分達と共に急いで向かっていた。


「お嬢が何故警察署に連行されたんでしょう……」


 1人の子分が呟く。


 そうだ……普通に考えればエミリーが何かの事件に巻き込まれた可能性が高い。


 携帯にもヤスからの着信が入っていた。


 事件に巻き込まれたとしたら、エミリーが誘拐されたって所か? それで俺や子分達にも連絡が来ていた。


 まぁ、こんなところだろう。後でヤスはシメるとして……おっ、着いたな。


 俺達は警察署に着き、入り口にいる者に聞くとある一室に連れて行かれ、警察から詳しい話を聞いた。


「お嬢がヤスさんを……そ、そんな事する訳ねぇだろうが!!」

「お、おい!! 俺達を舐めてんじゃねぇぞ!!」

「後悔させんぞ!! ごらっ!!」


 ソファに座っている俺の後ろで、子分達が警察へと怒鳴り散らしている。


 俺はあまりの衝撃に言葉が出なかった。


 ヤスが死んだ……? ウチの中でも上の方にいるヤスが? 相当の手練れとやったか、油断している所をやられたか、それともエミリーを庇ったのか……。


「……バカが」


 ロッキーは小声で呟く。


 今、アイツの事を考えてもしょうがねぇか。今は此処からエミリーを連れださねぇと。


「待てお前ら。此処は穏便に、だ。赤の他人から見えたらそう見えたって事。そうだろ?」

「で、ですが……」


 ギロッ


「な、何でもありません」


 子分達を睨むと、忙しなく動いていた口が直ぐに閉じられる。


 よし……静かになったな。こういうのは冷静にならねぇといけねぇんだよ。先ずはこっちの事情を話してみるか。


「エミリーとヤスはだな……」


 俺はエミリーとヤスの関係を教えて、連れ戻そうとした。


 しかし、


「それだけでは証拠になりません」


 と突っぱねられた。


「もっと物的な証拠がないと……」

「ちっ、もしこのまま証拠が見つからねぇとどうなる?」


 俺は正面に座っている警官へと問いかけた。


「先行者特殊児法、第1条。どんな年齢であっても殺人を犯した場合、懲役5年の刑に処す……」


 これは最近出来た法律だな、でもこれは確か……


「それって先行者にしか適用されないのでは?」


 子分の1人が警官へと話しかける。

 そうだ。妹のエミリーはまだ6歳。進化を遂げるのは大体10歳から12歳の間。その法律は適用されない筈だ。


 そう思っていた。


 しかし、次に警官の口から出たのは衝撃的過ぎる内容だった。



「え? はい。だから先行者特殊児法に適用されます」



 俺達は咄嗟に言葉が出せなかった。

 まだエミリーは進化する様な歳じゃない。進化する訳が無いのだ。それなのに何故この警官は先行者特殊児法が適用されると言っているんだ?


 それだとまるで……



 エミリーが進化を遂げている様な言い方じゃないか?



「……エミリーと会う事は出来ますか?」


 ロッキーがそう言うと、警官が今のあまりの異質な空気と、ロッキー達に気圧され、思わず頷く。


「しょ、少々お待ち下さい。上の者に掛け合ってみます!」


 そう言って、警官は部屋から出て行った。


 数分後、3回扉がノックされると妙齢の白髪の男性が部屋に入ってくる。


「警視長の羽場はばと言います。私がエミリーさんの下までご案内させていただきます」


 警視長……か。随分上の者が来たもんだ。


「あぁ、頼む」


 俺達は羽場警視長の後を追い、エミリーの下へ向かった。




「此処です」




「彼女の精神は今不安定になっております。家族の方であろうと、あまり刺激なさらない様にお願いします」


 不安定?


 ロッキーは一抹の不安を覚えながら、部屋へと入った。


 部屋は先程いた部屋と変わらない作り。家具は簡素な椅子が2脚と机が1つ。奥の椅子には1人の少女が座っていた。


 彼女の髪色は金髪から白髪に変わり、血色の良かった顔色は真っ青に変わっていた。


 しかし、ロッキーには分かった。


 その少女が妹のエミリーだと。

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