第50話 男の進化先

 俺が男に迫ると、背後に控えていた秘書が主人を守る様に前に出て来る。


「好きにはさせません」

「出来るのか?」


 俺はアイスピックを構えてそのまま突っ込んだ。

 相手はファイティングポーズを取って超近距離で的確に拳を繰り出して来る。袖口から見え隠れする鱗に火龍人だというのが分かったが、それでも俺は構わず前に出た。


「見えてるんだよ」


 空間支配により、俺の視界は普通ではなくなっている。見るというより、感じるに近い感覚。どんな速くても、目を瞑ってでも反応出来る。


「っと……やりますね!」


 相手の怒涛とも言える攻撃を躱すと、彼はニヤッと口角を開けつつ俺から距離を取った。


 此処まで来て体力は大分消費してる……何とか最速でコイツを倒して、あのイかれた野郎をーー。


「!!」

「ほう、今のに気付きますか」


 と考えてた所、俺の頰を銃弾が掠る様に通過する。

 背後に視線を向けると、イかれ野郎はサプレッサーの付いた銃をクルクルと回しながら、テーブルに腰掛けておどけていた。1人は近接、1人は気配を消しての銃撃。


 そこら辺の雑魚、普通の状態なら問題ないが……


「ふむ。見えてない筈なのに避けられましたね……このサプレッサーは特注で一切の音や光、匂いも出さないと言うのに。凄いですね」

「……まぁ、殺気を感じられるからな」

「ふむ、殺気ですか。確かに。私も取引を繰り返してきた中で、殺気というものを取引相手から感じた事はありましたが……」


 イかれ野郎は人当たりの良さそうな微笑を浮かべている。

 生粋の商人、そこから来る観察力。足からは出血、疲労困憊。


「……油断出来ないな」

「ははっ、ずっと警戒してるんでしょ? 伝わって来ますよ、ピリピリと此方を警戒している意識が」


 それすらも、バレている。どうにかして動揺させようと思ったんだが……今までの相手とは違う。


「ふっ!!」


 隙をついたつもりなのか、背後からの秘書の拳を俺は紙一重で避ける。

 認識は出来ている、だけど身体が動かなくなって来た。


「うおぉおぉぉぉっ!!」

「さて、また油断した時に撃ってみますか」


 ーーこれ以上の戦闘は時間の無駄か。


「っ! 成宮なるみや離れなさい!!」

「は、はい!」


 そう思った所、タイミング良くか……男が執事に注意を促し下がらせる。


「お前……今のは何だ?」

「……何とは? 貴方から殺気を感じたので、部下を下がらせた。それだけですが?」


 ……偶然か?


 俺は今『物体支配』を使ってアイツらを殺そうとした……それはつまり、アイツらがその効果範囲に居たという事。『物体支配』最大の弱点は、効果範囲がおよそ2、3メートルという短い範囲だという事だ。


 距離を取られたら相手の動きを止める事も、相手の首を絞める事も勿論出来ない。

 それを今、アイツは無意識に感じ取ったという事なのか? 何の能力も無しに……いやーー。


「……お前、進化先は何だ?」

「……」


 数秒の沈黙の後、答えの代わりに俺には無情な弾丸が放たれた。

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