世界に嫌われる平凡者は、世界と平和を天秤にかける ~意思は無くならない、感情は存在する
ゆうらしあ
第1章 始まり
第1話 対立
ペラッ
俺は昼休み、教室の端っこで本のページを捲る。
「おい!
「きゃははは! 本当だ! キモーい!」
本を捲る途中、不快な声が挟まれる。
「
助けようとしている訳では無い、ただのハッキリとした差別。
聞こえていないとでも思っているのか。彼等は黒板の前の方で、俺を見て笑っている。クラスの中でも上の立場の者達。所謂、陽キャ達が俺を馬鹿にしている。俺は昔からアニメや漫画、ライトノベルが大好きだ。時間があったら見たり、読んだりしている。
だが、何故今こうして言われているのには俺が平凡者だと言う事が大きいだろう。
平凡者、何も進化を遂げていない、時代の遅刻者。
そう言われるようになったのはここ最近だ。最近と言っても数十年前からなのだが。
俺は、その声を少し気にしながらも本のページを捲る。
すると、それが気に入らなかったのか、健斗が此方に眉を寄せ近づいてくる。
バンッ
「おいおいおい! そんなキメェ本読んでじゃんねーよ!! 」
健斗が俺の座っている椅子の脚を思い切り蹴り、俺は転倒する。
「何をしてんるだ、健斗!」
黒板付近から総司が叫ぶ。
「おら! 見ろ! お前がそんな辛気くせーから、ここの教室の雰囲気が暗くなんだ…ろ!!」
腹に1発、重い蹴りが入る。
ッ!! さっきまでは皆んな普通に騒いでたろうが! お前が俺に絡んできたから…!!
跪きながら健斗を睨むと、
「お?? なんだよ? やんのかよ?」
健斗はムカついたのか、指の骨を鳴らし、威圧的な視線を此方に向ける。
「身体強化!!」
健斗の身体から赤いオーラの様な物が浮かび上がる。
「待て!! 健斗!!」
総司が此方に近づいてくるが、もうそれは遅かった。
健斗の拳が俺の顔面を捉えて、掛けていたメガネが割れる。俺の鼻はゴキッという嫌な音を立てて熱くなる。朦朧としている意識の中、教室の外から先生が何か言って入ってくるのが見えた。
入学してからまだ3週間。まだ放課後まで授業を受けれた事がない。俺はいつも通り教室の壁へ寄りかかりながら気絶した。
何世紀か前にある1人の人間は、神々しい光を全身から発し、それが収まると彼の身体には変化が起きたと言う。
それから、目の前にスキル欄という物が浮かんだらしい。そのスキルはその身体の特徴により変わり、その者に多大な富と名声を与えたと言われる。
今となってはそれは常識だ。
だが、そのスキルは自己防衛の時のみにしか使ってはならないと法で決まっている…
「痛い…」
俺はベッドの上で目を覚ました。外を見ると日はもう沈む途中で、時計の針を見ると6時を過ぎていた。
「起きた?」
声を掛けられる。声を掛けた本人はコップにコーヒーを注いでいる。
そして、コーヒーカップを持ち此方に近づいてくると手をかざす。
「診察」
手から緑色の線が自分の頭の上から足先まで行き渡る。
「…うん。異常なし」
ベットの横にある椅子に足を組んで座ると、その人はコーヒーに口をつけた。
「ありがとうございます。先生」
俺は保健室の先生、マイ先生にお礼を言うと、少し頭に頭痛を感じるがベッドから起き上がる。
「お礼なんていいのよ、気にしないで」
マイ先生は、ニコリと慈愛の満ちた笑顔をしながら言う。
「それにしても健斗君…スキルを使ったんだって? そこまでするなんて…酷いわね」
「あぁ…別に…」
「しかもあの子は火龍人だったわよね? てことは身体強化…だから鼻が折れてたのね」
マイ先生は指で鼻を指す。
「折れてたんですか…これは先生が治してくれたんですよね?」
「そうよ、何たって私は珍しい風妖人ですから!」
マイ先生は胸を張り、ドヤ顔を決める。
胸は服のボタンが弾け飛ぶのでは無いかと言うぐらいに、パツパツになる。
火龍人、風妖人。これらは人間の進化先の名称である。
火龍人は"身体強化"、風妖人は"癒光"のスキルを与えられる。また身体の変化としては火龍人が腕に小さな鱗が付き、風妖人は尖った耳へと変化する。
火龍人は比較的よく見るが、風妖人は数十万人に1人の確率で進化を遂げるらしい。
マイ先生に関しては癒光の他に、"診察"を身につけている。世界中探しても数百人しかいないダブルホルダーの風妖人だ。
「治していただきありがとうございます。…それじゃあ俺帰るんで」
「…あまり無理しないで此処でもう少し休んで行ってもいいのよ?」
心配そうに背後から声を掛けてきたマイ先生だったが、俺はこれを無視して保健室から出た。
あ、そう言えば眼鏡……そうか、割れたのか。
保健室に一瞬戻ろうとしたが、殴られた時の事を思い出して、教室に戻る。
そしてカバンを取って昇降口に向かう。
「はぁ、今日の部活だりー」
「それな! 監督来なければなー」
行く途中の廊下で部活バックを持った者達と会う。その者達は騒々しく、俺の横を通り過ぎて行く。
ドンッ
「あ、悪りぃ。監督もよー…」
眼鏡を掛けていなかった所為か、途中で肩がぶつかり、カバンの中から漫画やライトノベルの本が零れ落ちる。
「クスクスクス」
「ちょっとー…」
女子から蔑みの笑い声が聞こえてくる。
誰1人、俺を助けてくれる人はいない。誰も俺の事を触れない様に……まるで腫れ物の様に扱う。
ちっ…少しは手伝ってもいいだろ。
「大丈夫か?」
そう言って本を拾ったのはクラスの陽キャの中心、総司だった。
総司は、本を1冊拾うと俺に手渡してきた。
「…どうも」
「総司君、優しいよね」
「あんな奴に手を貸すなんてね!」
俺の背後で総司を称賛する様な会話が聞こえてくる。
総司はそれに少し口角を上げる。
そしてーー
「健斗の事止められなくてごめん。俺がもう少し健斗に気づいていたら…」
総司はそう言うと眉尻を下げ、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「アイツにはキツく言っとくから、それでアイツの事を許してくれないか?」
頭を深く下げると、周りに集まった人達が総司を称賛する声がまた聞こえてくる。
コイツら頭おかしいんじゃないのか? 俺は何もしてないのにアイツに蹴りを入れられた。今日に限っては終いに、身体強化を使われて鼻を折られた…。それで、キツく言っとくからアイツの事を許してくれないかだって? 許せる訳ないだろ!!
ーーそう言えたら良かった。
弱い犬ほどよく吠えるという、ことわざがある。
弱い犬というのは俺みたいな者を指すんだろう。
しかし……
本当に弱い犬は吠える事さえ許されない。
「……分かった」
「そうか…! ありがとう!!」
総司はそう言って、ここから立ち去る。
すると周りの人が総司について行く様に散って行った。
俺は周りに落ちた本を拾う。
総司が拾ったのは最初の1冊のみ。
偽善者が……。
俺、
絶対に。
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