第7話 謝罪
「おい、昨日は悪かったな」
健斗は俺に通りすがりに言うと、目も合わせずにいつもの総司のグループへと戻って行った。
(……テキトー過ぎだろ)
翌日、俺は教室でいつも通りラノベを読んでいた。その途中に突然の謝罪。あまりのいきなりさと、短い謝罪。誰かに言われて言ったのは明らかだった。
俺は総司の方を見た。
総司は此方を見て優しく微笑む。
その微笑みを見た女子達がキャー! っと嬉しそうな悲鳴をあげている。
周りの奴ら……アイツの容姿に騙され過ぎだろ。アイツの腹ん中は真っ黒だぞ。
少し皆んながアイツから目を逸らした瞬間、アイツの口角が微妙に上がる。
……昨日から、いや、ずっと前から気に入らなかったが、最近になってから態度が顕著になってきたな。
何処か、優越感に浸る様な笑み……。
「……キモッ」
ボソッと周りに人が居たが俺は構わず、呟いた。
放課後、俺は学校裏の人気のない神社に来ていた。
「お前さ、総司に言ったろ」
健斗を含めた3人のクラスメイトが俺を囲む。
コイツらは俺が下駄箱で靴を履いた瞬間、2人が横から俺の事を持ち上げ、健斗が口をタオルで塞いで、俺を此処まで連れ去ったのだ。
下手したらただの拉致。しかし、コイツらは平然とそんな事をする。
この世は進化が全て…。
進化してない者は淘汰される。
「何を?」
「昨日の事だよ!! 総司が言ってたぜ? お前に頼まれてしょうがなく注意するってよ!!」
健斗が俺に食いかかってくる様に、迫る。
とんだトバッチリだ。それは俺から言った事じゃない。アイツが勝手に提案して、勝手に言っただけ。あの腹黒い奴の事だ。これも考慮しての、その言い方だったのかもしれない。
俺はそれに抵抗する様に、自分と健斗の身体との間に手を突っ張らせ、距離を取る。
「頼んでない。それはあっちから提案してきた事だ」
そう言うと、3人は一瞬ポカンとした表情を見せる。
流石にそうだとは思ってなかったんだろ。もっとちゃんとした情報を得てから来いよな。
すると、健斗達は堪えきれなかったかの様に笑い出す。
「ハッハッハッ!! 総司が? そんな訳ないだろ!?」
「何を言ってんだ、コイツ?」
「総司が言う訳ないだろ!!」
「……」
コイツら、どんだけ総司の事信じてんだよ。
平凡者だと思われていたら、話も聞いてくれないのか。
ほんと、この世界は……!!
「あぁ、此処で大声を出しても誰も来ないぜ? 此処あたりはただの森が広がってるだけ。もし来たとしても、時代の遅刻者を助けようなんて思う奴、この世にいねーよ!」
健斗が空を見上げ、両手を広げ、声を高らかに叫ぶ。
随分、漫画の世界の様な身振り手振りをするな。自分が主役にでもなったつもりか?
「俺、モデルガン持ってきた」
「甘いな、俺はスタンガンだぜ」
健斗以外の2人がコソコソ何かを話している。
「あー、そうだ。昨日はスキルを使ったから注意されたんだ……だから、道具を使えば大丈夫だよな?」
健斗の口角が上がり、手は制服の懐に入る。
そして、懐からはナイフが出てくる。
(コイツらはこれが犯罪だって理解しているのか……?)
「まぁ、死なせはしねーよ。少し血が出て、動けなくなるだけだ」
3人は俺にそれぞれの武器を見せつける様にして、迫る。
「はぁ……前の俺だったら怖かったのかもしれないな」
「あ? なんか言ったか?」
俺が呟くと、健斗は機嫌が悪そうに眉をひそめ、片眉を上げる。
2人も何処か顔を顰めている。
「……なんでもない。お前らが少し馬鹿だと言っただけだ」
そう言うと、3人は顔に血管を浮かび上がらせていた。
「っ!? 死んでも後悔すんじゃねぇぞ!!」
健斗のナイフが直ぐそばまで迫る。
隣にいる2人もそれを止める動きを見せず、逆に武器を持って健斗に続くかの様な姿勢を見せている。
「……お前らに対して最初に使うとはな」
「物体支配……発動」
「……世界は不平等だ。俺に対しても、コイツらに対しても」
日中よりも少し冷めた風が頬を撫でる。横から陽が差し、時間が思ってたよりも経っていることに俺は気づく。
「結構時間が経ってたんだな」
俺は3人へと目を向ける。
「悪いな。でもお前らが悪い。いや、この世界が悪いのか……」
俺は天を仰いだ。
俺が立っている周りには、自分が持っていたカバンが1つ、そして制服を来た男が3人倒れていた。
そこからは、鉄が錆びた様な匂いが咽せ返る程に漂っていた。
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