第8話 加入

『本日、ーー学校裏の神社で3人の学生が倒れているのを、参拝に来た者により発見されました。救急隊が駆けつけたものの、直ぐに死亡が確認され』



 ピッ。



 俺はテレビの電源を消す。


「何も問題はなかったか」


 頬に小さな絆創膏を付け、1人自宅の部屋で呟く。


 あそこでは俺はただの平凡者……。犯人の候補にさえ入らなかった。平凡者が先行者を倒せる訳がない。


 そんな凝り固まった考えが、この世界の欠陥と同時に、俺の強さを際立たせる。


 俺は自分の手のひらを見た。






「物体支配……発動。浮け」


 そう呟くと、俺の周りにあった物の中、意識を集中させていた物体だけが浮かび上がる。


 シャーペン、消しゴム、定規、時計…その他にも浮かび上がる。


 俺はその中のハサミに目をつけた。


『柔らかくなれ』


 そう言うとハサミは、ぐでんっとまるでプリンにでもなったかの様に変化する。


『元に戻れ』


 ハサミは元の形に戻る。




「解除」


 そう小さく呟くと、空気中に漂っていた物体は電源が切れたかの様に突然地面に落ちる。


 このスキルが有れば……世界なんてあっという間だな。


 俺のスキル"物体支配"はいわば、あらゆる物体への絶対命令権。自分の質量以上の物は動かせないが、それを含めても圧倒的な能力であった。


 硬くなれと言えば硬くなり、柔らかくなれと言えば柔らかくなる。


 その様な単純な命令以外にも、ナイフに『俺の目の前にいる3人を滅多刺しにしろ』と、もし言えばナイフは自分の目の前にいる者に突然襲いかかる。


 だが忘れてはいけない。俺がもし言う事を封じられたとしたら……なんらかの方法で頭の中でイメージが出来ない様にされたら、それは俺にとって命を落とす事に等しい事を。


 俺は考える。確実に世界をぶっ壊す為にはどうすれば良いのか。


 俺は何をしたらいい?


 自問自答を繰り返し、俺は1人寂しい部屋の中、目を瞑り、これからする事を纏めるのだった。






「おう? 颯太か? メガネカッコいいな!」

「いらっしゃい」

「どうも……」


 俺は家で数時間考えた後、深夜にあのバーへと来ていた。


 客は誰1人いなく、翔さんと優理さんがバーテンダーの格好をして働いていた。


 俺は2人の近くのカウンターへと腰を下ろす。


 俺が此処に来た理由は、此処に居た方が有意義な時間を過ごせると思ったから。


「何を飲む? ワイン…ってまだ未成年だよな? オレンジジュースぐらいなら出せるぜ?」


 翔さんは笑いながら言うと、冷蔵庫の扉を開ける。


「いや、金ないし……」

「気にすんな! 颯太から金なんて取らねーよ!」


 手に取ったオレンジ100%のジュースがグラスへと注がれる。


「おら!」

「……どうも」


 俺は翔さんからグラスを受け取る。

 そして俺はグラスをテーブルに置き、俺は翔さんの方に向き直る。


「実は話があって来ました」


 俺が少し声を張り出すと、2人は突然の事に少し目を見開いた。


「…へぇ。何だよ」


 翔さんの目が細められる。さっきまでの楽しそうな表情から一転、険しい表情になる。


「俺を此処、闇組織APNに入れて下さい」

「え?」


 俺がそう言うと、優理さんから少し間が空いて最後にクエッションマークが出る様な声を上げる。


「………ダメですか?」

「いや、私てっきりもう入ってるのかと……」


 は?


「そりゃ良かった! 入って貰えないと一般人が俺達の組織の事知ってる事になるからな! 俺が優理に殺されるところだったぜ!!」

「「は?」」


 翔さんが言い、俺達からは自然と声が漏れた。


「翔? 貴方まさかAPNに入れてもないのに、地下まで連れてったの?」

「え……はい」

「何をしてるの!!まだ入ると決めてない人をあそこに招くなんて!! バレたらどうなるのか分かってやってるの!?」

「そ、そこまで怒るなよ……」

「怒るに決まってるでしょ!? 貴方の所為で私達は壊滅する所だったのよ!?」

「バ、バレたらだろ? いいじゃねーか……結局は颯太が入ってくれたんだし……」



 ………俺がAPNに入ろうと思った理由は主に2つ。確実に世界をぶっ壊す為には、闇組織に入るのが一番の近道だと思ったから。闇組織の伝が此処しかなかったから。


 あと少し、楽しそうだとも思ったからだ。


 しかし。


「これだから貴方は!! ーーー!!ーーー!!」

「はい。本当に、はい。すみません」


 優理さんは翔さんに対し、正座をさせ、ネチネチと説教していた。


 ……此処が本当に闇組織なのかね?


 俺は少し疑問に思いながらも、グラスに入っているオレンジジュースを手に取り、一気に飲み干した。

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