第52話 ゲームが終わって
知らない天井だ。
俺が目を覚ますと、そこは真っ白な部屋……つまりは病院のような場所のベッドへと寝転がっていた。
「目を覚ましましたか」
「お前は……」
「改めまして、キム様の執事をやらせて頂いております。成宮
俺の名前まで把握済みか。
「あぁ。それで? この状況の説明をしてくれるか? アイツの手を取った時から記憶が無いんだが……」
「はい。まずーー」
そこから成宮は事の経緯を話し始めた。
まずゲームは途中で中止になった事。あれから下の階に居る者は全て解放し、俺の事はそれから金木成提携の病院に連れて来たという事。
「なら……翔さん達には……」
「貴方が所属しているAPNの方達には、貴方を病院にはお連れした、とは伝えています」
「そうか……」
颯太はサイドテーブルに乗っている自身のスマホを手に取った。スマホには何件も優理から電話が掛かってきていた。
心配してくれているようだが……今はそれどころではない。
「アイツは?」
「キム様の事でしたらーー」
「ふぅ。やっと参加者の皆様へ謝罪が終わりましたよ……おや? 起きたみたいですね」
病室に疲れた様子で入って来たキムは、颯太を見て笑顔を見せた。
「お陰様でな。まさか相手に助けられるとは思ってはいなかったが……」
「何を言いますか、もう貴方は私と契約を交わした関係ではありませんか」
契約。お互いの目的の為に共同戦線を張ると言った事の話だろう。だがーー。
「1つ、質問があるんだが……何でお前は俺を部下にしようと思った?」
それが颯太の唯一気になっていた事だった。
あの場であれば、自身の事を殺してでも良かった訳だが……キムはそれをせずに颯太に手厚い治療を行っている。
自身にどれ程の価値をキムは感じているのかーー。
キムはいつの間にか成宮が持って来た紅茶を手に、病院の丸椅子に座った。
「言ったでしょう? 私は貴方が気に入ったんです」
「それで納得出来ると思ってるのか?」
「ふぅ……まぁまぁ、落ち着いて颯太さんもどうですか?」
キムが紅茶を勧めるが、颯太が返すのは厳しい視線だけで……観念したかの様にキムは大きく溜息を吐いた。
「そうですね……では改めてですが、私の能力は相手の感情を読み取る【感情読み】です。これは本来、相手の考えている事を読み取る能力なんですが……戦闘の最後、貴方の思考を読み取った時に感じたんです」
「何を?」
「ドス黒い……禍々しさとも言える感情を」
…。
「世界の商人と渡り合って来た私ですが、あんな事は初めてだった。颯太さん、貴方は恐らく特別な人です。それも、世界でも唯一と言える程の」
特別。
本来なら嬉しいという感情が芽生える筈の言葉に、颯太は更にキムへの視線を厳しくした。
それは間接的に、自分以上にこの世界を不満に思っている者は居ないという事を示していたからだった。
「それで……? そんな感情で何故俺を?」
「……まぁ、興味本位というヤツですよ。私と同じ特別な進化を遂げていましたしね。もしかしたら同じ境遇同士、仲良くお金が稼げるかも! とも思ったり!」
ーー何とも嘘くさい。これ以上聞いても何も信頼は出来なそうだ。
「私からも1つ質問を。颯太さんは、何故私と組もうと思ったのですか?」
「……ハッキリ言って、お前の言い分と同じだ。金が有れば大抵の物は手に入る。要は金が欲しかったからだ」
「ほう? 何故お金が欲しいのですか?」
「目的の為に金が必要になるからだ」
「ほうほうほう……その目的は?」
颯太はキムの後ろに控える成宮に目をやると、直ぐにキムは「成宮、貴方は出ていて下さい」と告げた。
部屋に沈黙が訪れる。重苦しい、息も詰まりそうだ。これを改めて他人に言うのは少し躊躇われた。
だが、これを成し遂げる為にはキムの協力は必須だった。
「俺は、世界をぶっ壊したい」
「ぶっ壊したい、ですか……具体的にはどうするつもりで?」
「それはーー」
颯太は告げる。
これから何をするのか。世界に対して、どのような行動を取っていくのかをーー。
「なるほど………それは随分金が動きそうな話ですね」
話を聞き、キムは嗤う。
今、頭の中でどれだけの金が動くかを計算しているのか、それともこの話が実現出来るのか計算をしているのか、商人故のポーカーフェイスとも取れる表情に颯太は苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せた。
信頼は出来ない。
だが、金が動くとなれば……Win-Winな関係を築き上げ続ければ、コイツの事は信用出来た。
「改めて、よろしくお願いします」
「……あともう1つやりたい事、というよりもコレはお願いなんだが、」
キムの差し伸べて来る手を力強く握り返す中、颯太は告げる。
これが正しいのかは分からない。これから自身と関係するかは分からない。だけどーー。
「もう1つ。ある奴を……どうにかしてやりたい」
「ほう?」
その後、キムはこの願いを快諾してくれた。
◇
病室を後にしたキムは、成宮と共に会社へと戻る為車へと向かっていた。
その途中、キムが呟く。
「話してみて分かりましたが……あの人は『爆弾』みたいな人ですね」
「『爆弾』、ですか?」
「えぇ。何がキッカケとなるのか……いつ爆弾が爆発するのか分からない、導火線がない爆弾と言ったところでしょうか」
「それは……危険ですね」
「ただ感情のみで動いている、あの人の行動1つで味方にも被害を及ばしかねない力を持っているが故に、とても危険な爆弾です。成宮、貴方も扱い方には気をつけるんですよ」
「……ハッ」
不安を感じさせる言葉に、成宮は身を引き締める。
キムは徐ろにスマホを取り出すと、ある所へと電話を掛ける。
「ーーそちらに居る花見未國という男を釈放して貰いたいんですが、」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます