第3話 2人の関係

 シュゥゥゥ


 進化の光が止まっていく。


 終わった、のか?

 身体を動かそうとするが、やはり身体を動かすと痛みが襲う。


 クソ、これは進化したのか? ん?

 目を瞑っているのにも関わらず、視界にスキル欄という項目がある事に気づく。


 スキル欄、進化した者にしか視界には入らない。進化を成し遂げた者の証。


 感動で少し身体が震える。


 遂に! 俺にも!



「ずぎるらん!」



 スキル欄

 ・物体支配

 ・???

 ・???

 ・???

 ・???



 声に出すと、ゲームの様な画面が目の前に浮かび上がる。

 スキル欄には"物体支配"というスキルがあった。



 初めて聞くスキルだ。


 だけどーー。


 この下の4つのハテナマーク…もしかしてこれは俺が後に覚えるスキルって事か? だとしたら俺はダブルホルダーを悠々超えて、"クインティプルホルダー"になるって事か…?


 頭の中で夢が広がる。

 しかし今のこの状況をどうにかしなければ、そうなる事もないという事は明らかだった。


 どうするか……。



「大丈夫か?」


 頭の雨が降り止み、男の声と傘に雨が当たる音が聞こえた。男の声は威厳に満ちた声で、聞いただけでも少し怖いと感じる程の声をしていた。


 しかし、怖いと感じても、ここで話しかけないと次に人が通るのを待っていると何時間経つかも分からない。


「だ、だずげで」


 俺は恥を捨て、助けを乞う様に男の足を掴んだ。掴むと、男は地面に膝を着く。


「……何があった?」

「やみぞじぎのやづらに……」

「闇組織? そいつらにやられたのか?」


 男の言葉に俺は小さく首を縦に振った。


 良かった、伝わった……!


「……お前は俺に何を望む?」


 しかし男は少し間を置き、質問してくる。

 いきなりの質問に意味を理解できないが、何か言っとこうと口を開こうとした瞬間。


「お前は何がしたい?」


 男の口から続いて質問が飛ぶ。


 何が、したい?


「そうだな。自分の夢は何だ? 成し遂げたい事はあるか?」


 夢、成し遂げたい事……。


「ふむ。まずその怪我ではちゃんと喋る事も出来ないか」


 男はそう言うと、俺をお姫様抱っこの要領で持ち上げた。


 少し恥ずかしい気持ちもあるが、そんな贅沢は言ってられない。顔中の骨も恐らく折れている。身体中の骨もだ。運んでくれるだけありがたい。


 運ばれている中、俺は少し目を開ける。目線の先にいたのは白髪の男。歳は20代後半ぐらい。顔は整っていて、ホリ深い骨格からは少し外国人の風貌に似ている。威厳に満ちた目からは、何かの芯が一本通っている、そんな気がした。


「ゔっ!」

「少し我慢してくれ。お前を運ぶ方法がこれしかないんだ」


 淡々と伝える男に、いつもなら少し苛立ちを感じる所だが、何故だがそれは感じなかった。


 俺は大人しく男に何処かへと運ばれるのだった。




「うっ…ここは」


 俺が目を覚ますと、そこは病院ではない何処かの天井だった。

 どうやら運ばれている途中、あまりの痛さに意識を飛ばしたようだ。


 俺は1度深呼吸して、寝転がりながら周りを見る。そこはお洒落なバーだった。自分が横たわっていた所は赤いソファ、近くにはカウンター、壁一面には高そうなお酒が天井に届くぐらいまで、棚に積まれている。


 そして、カウンターの奥にはタキシードの様な格好であの男がいた。


「起きた様だな」


 男は洗ったであろうグラスを拭きながら言う。



 バーの店員だったのか。



 俺は身体を起こし、ソファに座り直す。

 身体は何1つ痛い所はなく、まるで元々傷がなかったかの様に消えていた。


「……ありがとうございます」

「ほう? 最初は礼か。礼儀正しいな」


 男は片眉を上げ、面白そうに笑っている。


「いえ、それより此処は?」

「あぁ。その前に、先程の答えを聞こうか」


 男は拭いたグラスを置くと、奥から出てきて、カウンターの椅子に座った。


「先程……」

「忘れたのか? お前の成し遂げたい事だ」


 呆れた様に男は繰り返し、言う。


 忘れた訳じゃない。俺の成し遂げたい事を改めて考えたんだ。俺の、俺の成し遂げたい事は!


「俺は……出来るなら、俺をボコボコにした闇組織をぶっ潰したいです」


 俺がそう言うと、静寂が訪れる。

 そして、数十秒後。


「はぁー」


 男から大きな溜息が吐かれる。


「お前なー……それがお前の成し遂げたい夢なのか?」


 つまらなそうな表情を浮かべカウンターへと寄りかかる。男の顔が天井を向き、のけぞる様な体勢になる。


「え、は、はい……」


 な、何だ?


「はぁ……」


 また溜息を吐かれる。

 別に夢だからこんぐらい大きくてもいいだろ……。


「そんな小さな事が夢な訳ねーだろ」


 しかし、男の口から言われたのは、自分の考えが読まれたかの様な発言だった。


「え」

「え、じゃねーよ。もっと男なら大きい事がしたい思わねーのか? それがお前の本気の夢か?」


 本気の夢なら、ある。あの時俺が思った事。敢えて言わなかった、初対面の人に言ってもしょうがないと思ったから……。


「……」


 男はこちらをジッと見て来る。俺の様子を見て何かを言われるのを察知したか、ずっと黙っている。


「本気の夢、あります」


 そう言うと、男はこちらに食い入る様に身体が前傾する。


「へぇ? 何だよ?」


 男の顔は口角が上がり、俺を煽る様な笑みを見せる。




「……俺の夢は"この世界をぶっ壊す事"です」


 俺がそう言うと、また少し間が空いて男が大きな声で笑い声をあげた。




 そして数分後、笑い疲れたのか男が呟く。


「はぁー…良い夢だな」

「何ですか、散々笑った癖に…」

「おいおい! 拗ねんなよ!」


 男は馴れ馴れしく肩を組んでくる。男の顔は何処か晴れ晴れとしており、先程と打って変わり機嫌が良さそうに感じた。


「お前、名前は?」

「名前は聞く時は自分から名乗ってください」

「ははっ! 俺の顔を見てそんな事言われるのは初めてだ!! 俺は暗深あんみしょう!」

「……七瀬 颯太です」

「おし! 颯太! お前、ちょっとこっち来い!!」


 俺は無理矢理、暗海さんにカウンターの奥へと連れて行かれた。

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