第47話 死闘の始まり

 空気がヒリついている。だが、誰も動く者は居ない。

 それも当然だろう。いきなりデスゲームだと言われて殺し合う者は居ない。


「とんだ貧乏くじだったな!」


 こんな状況で爆笑してる人も居る。

 俺はそんな翔さんを止めさせようとしている優理さん達を横目に、考え込む。


『物体支配』でここから出る事は出来る。しかし、話を聞いてれば観戦している者達が居ると見て良い。カメラは見た所見当たらず、これでは『物体支配』の能力で見えない様にする事は不可能。


 能力を晒すのはダメだ。やるとしても、バレないのが絶対条件。まぁ…………一先ずは様子見、か。


『おや? 何も始まりませんねぇ……どうしたものか……あ!!』


 考えをまとめ終えると同時に、わざとらしさを隠そうとしない棒読みの声が聞こえて来る。精神が逆撫でされる、鼻につく嫌な声だ。


『では、ルールを足しましょう。実は私、そのマンションの最上階にて放送をしています。もし、もしここまで辿り着けたら、今回の貴方達にあげる筈だった報酬金を全部その方へとプレゼントしたいと思います!!』


 空気が、変わる。


『先着一名様! その方が仲間に分け合うのもよし! 独り占めするのもよし! それで何をするのもOKです!! 最上階へ着いた時点でこのゲームも終わりにします!! 持ってけドロボー!!』


 愉快な、盛り上げようとしている声音に口調。


 その語りが終わった途端ーー。


「おらぁ!!」

「死ねぇっ!!」


 死闘が始まった。


「颯太、危ねぇから下がってろ」

「颯太は真ん中」

「一先ずは周り一帯が敵だらけなこの状況をどうにかしましょう」


 周りに翔さん達が集まって、俺を隠すように囲んだ。



 丁度良い。



「『空間支配』発動」


 俺は周りに聞こえない様に呟き、周囲を確認する。

 何十人と居る闇組織であろう組員達。火龍人が12人、海深人が5人、地堅人が4人、風妖人が3人、占めて24人。


 一度に掛かって来られれば一溜りもない相手達。



「オラァ!!」

「ふん」

「はぁっ!」



 しかし、今のこのメンツなら問題ないだろう。

 そう判断し、アイスピックを構えながら周囲を警戒しながら、これからの考えを詰めて行く。


 此処で守って貰ってれば安全ではあるけど、それで果たして良いのか?






 否、否である。


 俺は何の為に武器を手に取っている? 何の為に全部壊して来た? この守られている現状を、平凡者が弱いと言う常識をぶっ壊す為。




「これだと俺に未来は無い。このままの俺に未来は要らない」


 俺は1人でに呟き、守られている中飛び出した。


 このままだと、到底『世界をぶっ壊す』なんて夢のまた夢だ。


「ふっ!!」

「ぎゃああぁあぁぁっ!!?」


 目の前に居た男の眼球、そこにアイスピックを突き刺す。突き刺された男はもがき、苦しみ、血の涙を流す。


 大した事は、無い。


 これをずっと続ければ良いだけなのだから。


 俺は翔さん達を置いて、上へと向かう階段へと向かった。

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