第48話 階段で
階段へと向かうと、そこには3人程の先行者が居た。それぞれ階段を守る様に立っている。
俺は3人の武器・動き・種族を確認しながらそこへ突っ込んだ。
「何だコイツ!?」
「オラァッ!!」
「死ねぇっ!!」
いつも近接戦闘を行う時は受け身だった。先行するのにも慣れていかないとダメだな。
俺は撃たれた銃弾や振られた脇差を避け、銃を持っていた者の目へとアイスピックを突き刺す。
後の2人はどちらも刀。近接武器なら、何ら問題ないとそのまま階段を駆け上った。
「あっ! おい!」
「待て! 此処から離れたら後から来る奴等の対処がーー」
先程階段下に居た者達の声が遠くなる。
階段下に居たのは、他の者を登って来させない為の人員……なら、上にはもっと強い奴がーーっ!
俺は階段を転がる様に降り、階段途中の踊り場でアイスピックを前に構えた。さっきまで俺が居たであろう所には何発もの銃痕が残っていた。
そして俺の耳、感覚にはトン トン トンとゆっくりとした足取りで階段を降りて来る物が1人。
「へ〜、避けるんだ?」
姿が見えた。耳は尖っている……風妖人だ。男にしては透き通る様な肌、まるで女だ。風妖人なら職に苦労しないと思うが……
まぁ、俺の邪魔をするならやるまでだ。
俺は駆け出してアイスピックを突き出した。しかし、それは受け止められるーー
相手の手のひらによって。
アイスピックが刺さりながらも、相手はアイスピックをそのまま捕まえた。
「君強いね? 何の種族……え? 君もしかして平凡者? な〜んだ。期待して損した」
「っ!!」
逆側の手にある銃を至近距離で突きつけられ、俺は咄嗟にアイスピックを自ら離して距離を取る。
「ざんね〜ん」
「……」
躊躇なく、自分の手を犠牲に俺の武器を奪って来た。今、俺がアイスピックを離さなければ……やられてた。
背中に冷たい汗が流れる。
「
男がアイスピックを抜き、言葉にした瞬間ら。男の体から光の泡が溢れ出す。それは手に集中すると、傷が治って行く。
回復した……なるほど。これがお前の戦い方か。
「ねぇ、君ってさ〜、何で此処にいるの? 普通平凡者が闇組織なんて入らないよね〜、自ら命を捨てる様な真似してさ〜」
余裕を見せているのか、男は戯けて言う。
「……」
「はぁ〜、しかも何も言わないし〜……ま〜いっかー。此処で死ぬんだし」
そう言われてもう一方の手にも銃を構えられるーー2丁拳銃だ。
俺は急いで階段を駆け降りた。
今のままじゃ、やられる。最悪『物体支配』を使っても良いが、此処で発動させるには目立ち過ぎる。
「逃げるんだ? いが〜い、でも逃げられないよ〜」
俺は銃口から銃弾の予測をし、避ける。その時。
「ぐっ!!」
俺の左脹脛に銃弾が当たり、貫通する。
今確かに避けた筈だ、何で……。
俺が不思議に思っていると、風妖人の男は既に俺の目の前まで移動していた。
「平凡者にしてはやるね〜、でも先行者にはやっぱり勝てないよ〜」
「……」
「あ、無理に動かないでね〜? 動いたら殺すから〜」
男は俺の眉間に銃口を突きつけた。そして引き金を引いた瞬間までが、俺の命か。
どうにかしてこの状況を打破しようか考えていると、男は悦に浸っているのか喋り出した。
「平凡者と先行者には決定的な違いがある。それは何か分かる〜?」
自分が圧倒的な優位に立ってるが故、か。
笑みをこぼしそうになるが、何か面白そうな事を言ってくれそうだ。
「スキルの有無」
「うんうん、そうだね〜。スキルは平凡者と先行者の絶対的な差。覆らない力、生まれ持ったスキルをそのままにしか使えない。そうは思ってないかい?」
俺が頷いて答えると、男は分かりやすく笑みを深めた。
「だけど、それだけじゃないんだよ。弱いスキルを持った先行者も、努力次第で強いスキルを持つ者に勝てる事が出来る様になってるんだ」
へぇ。
「僕は自分のスキル『継続回復』を弾丸へと込めた」
「弾丸に、スキルを?」
「あぁ。別に大した事はないさ。上位の者は全員やってる。これは平凡者の君に、最後のアドバイスとして聞かせてあげようと思って言ってあげたんだ」
……へぇ。
「だから最初からスキルがない平凡者は、何の努力をしようと僕達には勝つことは出来ないって事〜っ!!」
男は満面の笑みで、改めて強く銃を突きつけた。
ここまで、か。
「物体支配発動」
◇
「これは随分厳しいですね」
「これは……あの平凡者の相手に『ピエロ』ですか。流石にこれはーー……」
ホテルの最上階。私はホテルの至る所に設置したカメラから各階層の様子を見ていた。
アイスピックの武器を持った平凡者が2人。そのうちの1人は仲間と共に戦闘中。もう1人は単独で先に動いている。しかし相手が悪かったのか、相手があのピエロだとは……。
ピエロは今回読んだ闇組織の中でも上位に入る者。スキルである『継続回復』を使いながらのあの者の戦闘は、ただのナイフや銃では役に立たない。
一撃で葬ろうとしても、自分の腕でガードをして回復出来る。それに加えて『スキルの付加』が行える実力者。
恐らく私の予想ではこっちだったのですがーー
「期待外れ、でしたかねぇ?」
そう呟いた瞬間。
俯いていた平凡者の口元が動いたと同時に、何故か平凡者達が映っていたカメラが次々と違う方向を向く。
そして、次の階のカメラの端。そこに映ったのはーー。
「これは!!?」
「…………ふふっ。これは当たり、ですかね?」
私は堪えられず、笑みをこぼした。
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