第56話 先行者特別部署

『世界を変える』

 そんな放送をしたAPNでは、何処から聞きつけたのか連日沢山の人々が集まった。

 火龍人、海深人、地堅人、風妖人、4種族がごった返しに入り乱れ、それは本気で世界を変えたい者なのか、興味本位なのかは分からない程だった。


 それも今ではテレビ中継される程で、色々な場で事が進行していた。

 ある場所ではーー。


「差別の無い世界を作ろうって? 随分夢見がちなこった」


 ある建物の部署の一室。スマホを見ながらソファに寝転ぶ男が1人。

 幸の薄そうな雰囲気を見に纏ったその男の耳は大きく、地堅人の特徴が見て取れる。


 ここは警察署、先行者特別部署の一室。

 部屋はファイルや書類でごった返し、足の踏み場さえ危うい。

 そんな中、デスクでパソコンを弄っている1人の若い男が反応する。


「まぁ、叶うなら叶えて欲しいッスけどねー。僕も政治家の皆さんみたいに居眠りこきながら給料貰いたいッス」


 隈が刻まれた平凡な顔立ちをした、エラを持った男は薄ら笑いをしながら答えた。


星矢せいやー、もう一回そんな事言ってみろー。真面目な警視長がお怒りになるぞー」


「はいはい……あ、また死んだ」と呟きながら星矢は大きく息を吐いて椅子の背もたれに寄り掛かった。


「でも……誰しもが一度は願う事ですよねぇ」「あぁ。でも、誰も実現出来ないのが世の理だ」

「それをあの人達はやろうとしてる訳で……何するんですかね? デモ活動とか?」

「デモ活動するなら、ビラ配りとかよ……何で急に大画面で放送するかね。俺達を殺す気か?」

「最近も色々ありましたもんねー……6歳の女の子の殺人。直近では、多くの企業が闇賭博に参加していた事が発覚し……先特の方からも応援をお願いするって言われた時には、いっそ一思いに殺して欲しかったッスよ」


 星矢は項垂れる。


「"先行者特別部署"。先行者がスキルを使って対抗して来た時に対応する……所謂、色々な面倒事を押し付けられるのが俺達だ。今の内に慣れておくんだな。俺の予想じゃ、また何か起こるからな」

「そうなんですか?」

「大体大きな事が起こった後は、また大きな事が連続するんだよ。此処最近の始まりは……高校近くにある神社での殺人事件」

「犯人は見つかってないですよね。唯一怪しい容疑者は平凡者……まぁ、虐められていた腹いせになら分かりはするんですけど、どうやったかが分からないので迷宮入りした……」

「その後、全校集会時に皆の目の前で起こった校長の不審死」

「………確かそれも、平凡者の少年が真っ先に疑われましたよね? でも証拠不十分で捕まえるには至らなかったって言う……」


怪訝に眉を顰める星矢に、男は言う。


「そいつが本当に平凡者だったらな……」

「まさかッ!!」

「この前の女の子見ただろ。火龍人、海深人、地堅人、風妖人。どれとも違った特徴……この世界には他の進化先もあるって事だ」


男は懐から煙草を取り出すと、一本取り出し口に咥えた。


「世界を平等になんて無理な話だ……これから世界は荒れるぞ。星矢、気合い入れろよ」

「……はい。でもしげるさん」

「ーーあ? 何だよ?」


煙草の煙を吐き出しながら繁は不機嫌そうに星矢へと視線を向けた。


「その前に俺達、眠りに入った方が良いですよね?」

「……上手くねぇよ」

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